第12話

 気づいたら自分の部屋に入っていた。


「おかえ……どうしたの?」


 天音が俺の顔を見て俺の傍まで駆け寄ってくる。


「実は……」


 ……これって言っていいのか?

 俺がラブレターを貰ったなんて知ったら、俺が男だと思うのでは?


 言えない。


「いや、何もないよ。心配かけてごめん」


 天音に笑顔を向ける。上手く笑えているか分からないけど。


「あ、んー、ううぅ、もう寝る」


「え、あ、うん」


 今のなんだ?一瞬のうちに表情が素早く切り替わっていた。

 天音はゆっくりとベッドまで歩いて行き、枕に顔を埋めた。



◇◆◇◆◇◆



 次の日。


 今日は一日中、放心状態だった。

 ちゃんとした授業があったけど、内容は全く覚えてない。


 全ては、あのラブレターのせい。


 いつ襲われるのか分からない恐怖の中過ごした。杞憂だったけど。

 ラブレターを書いた人は現れなかったし、俺の正体を広めていないみたいだ。


 今から屋上に行って、誰にも言わないように説得してみよう。

 無理だったらこの学校から逃げて引きこもろう。


「あきと、帰ろ?」


「ごめん、今から行くところがあるんだ」


 結局、天音には何も言わなかった。

 彼方にも、迷惑を掛けたくなかったから言ってない。


「生徒会?」


「いや、それとは違う用事」


「なに?」


「ごめん、言えない」


「……ん。先帰る」


「あ、うん」


 とぼとぼと帰る天音の背中は、どうしてか悲しそうに見えた。



◆◇◆◇◆◇



「よし」


 屋上へ繋がる扉を開く。

 眩しい光に目を細める。


「良かった。ちゃんと来てくれて」


 屋上には一人の女子生徒が立っていた。

 身長は小さく、茶髪のボブの可愛らしい女子だ。


「あなたがラブレターを?」


 俺は確認のために質問をする。一定の距離を保ちながら。


「はい」


「……どうして?」


「どうして……。気になり始めたのは、池田さんが鶴原さんだっけ?その子をおんぶして登校しているのを見たとき」


 その時点で、俺が男だと察し始めたのか。

 確かに、おんぶして走るなんて女子は難しいか。というか、今までバレなかったのが奇跡なんだよな。


「感動した……っ。まるで、絵本の中の王子様みたいだって思ったの!」


 おぉ、名前も知らない女の子が感極まって声を大にしだした。

 興奮してか、頬を赤くしている。


「まるでっ、男の子みたい……っ!!」


「え?」


「おかしいよね、女の子同士なのに。でも、押さえきれないの!もう、どうしようもないくらい池田さんのことを好きになっちゃったの!」


「え?」


「だから、私と付き合ってください!!」


「ごめんなさい」


 まじか……っっ、バレて――ない!!!


 焦って損したぁ。やっぱりこの世界の女性おかしいわ。全然、男の俺に気づかないなんて。


 彼女は俺が女の子だと思って、その上で告白したのか。

 女子高だと、そういうのもあるとか風の噂で聞いたことある。つまり、それか。


「ど、どうして?」


 彼女が涙目で問いかけてくる。


 ……あ、勢いで嫌な断り方してた。理由言わないと。


「ごめん。あまり、同性で付き合うって分からなくて」


「大丈夫だから!私がちゃんとリードするから!!」


「い、いや、ど、同性と付き合うのは……。最初はい、異性が良いなぁなんて……」


「男性と付き合える可能性ゼロだよ?」


 ごもっともです。

 男女比1:100の世界で異性同士で交際している人なんてほんの僅かだろう。


 というか、この子押しが強い。このまま、付き合うことになりそうなんだが。

 逃げる?逃げるか。逃げ続けよう。


 俺はジリジリとゆっくり後ろに下がる。


「じゃ、じゃあ、せめて!せめて、お姫様抱っこだけでも!!」


「ッ!?」


 突然、俺に向かって走り出してきた!

 俺は咄嗟に避ける。


「どうして避けるの!?」


「避けるに決まってるでしょ!?」


「一回!一回だけでいいから!!」


「無理無理無理!!」


 天音なら大丈夫だけど、初対面の女子は触れられないから!


 俺は足をもたつかせながらも、屋上を後にした。


「んもう!絶対に諦めないから!!」


 階段を駆け下りる中、背中に名も知らない女子の宣言が聞こえた。


 こわ。やっぱり女子苦手。

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