第22話

 朝、嫌な音で目が覚める。


 体を起こすと、実里さんが既に起きていて、窓の外を悲しげに見つめていた。


「おはよう、あきちゃん」


「おはよう。早いんだな」


 実里さんに近づきながら言葉を交わす。


「うん。今日が楽しみで」


「そっか……」


 俺もそれなりに楽しみにはしていた。それに、彼方も。

 天音だって楽しみにしていたはずだ。


 でも、そんな思いとは無情に、


「雨だね」


「そうだな」


 天候は予報外れの大雨だった。


 窓に大粒の雫が忙しなくぶつかる。

 部屋に雷が鳴り響いた。



◆◇◆◇◆◇



 朝食は昨晩と同じように食堂で色々なおかずやデザートが並ぶ。

 学校の寮とそんなに変わらないな。


 雰囲気は最悪だった。

 それは、もちろん天候のせいだ。


 お調子者が盛り上げようとするも空元気ですぐに沈黙に変わる。


 仕方ないとは言え、空気重いなあ。


「皆さーん、ご飯を食べ終えたら多目的ホールに集合してくださーい」


 林先生の明るい声が食堂に響き渡る。


「あきと、何するの?」


 ご飯を食べ終えた(アーンで)天音が聞く。


「えっと、しおりにはクイズ大会、とか書いてたな」


「面倒くさい」


 それは言ってはいけないよ、天音。たぶん皆思っている。

 それに、案外盛り上がったりするかもだろ?



◇◆◇◆◇◆



 案外盛り上がっている。


 ルールは簡単。林先生がAかBの二択クイズを出題。解答者である俺たちはホールがAとBで二分割されているんだが、正解だと思う方に移動する。

 外したらそこで終了。



「行ける……っ」


「最後まで残るのは私よ!」


「彰人様は譲らないわ!」


 なぜ、皆の視線が脱落した俺に集まっているのだろうか?


 絶対あれのせいだ。


 林先生の隣にある映画のペアチケット。

 そう、ただのペアチケット。俺には全く関係ないんだよ。


 それがどうして……



『彰人さん、あれ取れたら一緒に行きませんか?』


 クイズの第一問目が始まる直前、彼方からそんなお誘いをもらった。


『ああ、いいよ』


 俺は特に深く考えずに頷いた。


『あきと、私が取ったらデートしよ?』


『“デート”?まあ、取れたらいいけど』


 これまた深く考えずに答えてしまった。


 だって、一年生だけで五百人はいるんだぞ。その中の最後の一人に残るなんて確率はかなり低いだろう。

 それに、彼方や天音と遊びに行くのも嫌じゃないしな。


『……え?このチケット取ったら彰人様とデートできるの?』


『え!?本当!?』


『ヤバイ!じゃあ、本気で取りに行かないとじゃん!』


 え?なんかおかしいことなってない?

 気づいた時にはホール全体に、根も葉もない特典が追加されていた。


 “映画チケットを取った人は彰人様とデートができる”


 否定できないまま、無慈悲にクイズ大会は始まった。



「第43問、学園長の父の名前は?A、太郎。B、銀太郎」


 途中から、もはや運ゲーとなっていた。

 俺は粘ったものの運ゲーになって三問目で脱落してしまった。


 残る生徒は十人程となっていた。


 その中には、彼方や天音もいた。ついでに屋上の子もいた。というか、同学年だったんだ。


「ここで勝負です、鶴原さん」


 彼方がBの方へ足を入れる。


「A、勘が言ってる」


 天音はAに向かう。


 よし、ナイスだ二人とも!

 これで共倒れはなくなった。


「正解はBの“銀太郎”!」


 勝ったのは彼方だった。


「……無念」


 天音がしょんぼりとして敗者の元へ歩いてきた。


「どんまい」


「ん」


 天音が俺の隣に腰を下ろす。

 そして、一緒に戦場へ目を向ける。


 残りはだいぶ減って五人となっていた。屋上の子は今の問題で脱落していた。


「第44問、私、林先生は何人兄妹か?A、二人。B、三人」


 またもや運ゲー。


 解答者の五人は足を動かす。


 ……まじか。


 全員が息を飲んだ。


 Aに四人。Bに一人。

 一人勝ちか一人負けか。


 彼方はAにいた。Bには……


「正解はBの“三人”」


 一人勝ちだった。


「ということで、優勝は斎藤実里さんです!」


 そう、気づかなかったけど実里さんも残っていたらしい。

 そして、実里さんの手に映画のチケットが渡る。


 こうして、クイズ大会が終わった。



◇◆◇◆◇◆



 あとは夕食までは自由時間みたい。


「あきちゃん、来週行こうよ」


「いいよ」


 知らない人よりかはよかったな。

 波乱のクイズ大会は平和に幕を下ろした。


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