第23話

 雷が未だに轟く。


 夕食を終え、再び入浴。

 俺と彼方は昨日と同じように天音と実里さんから離れて別の浴場に足を運んでいた。


「今日は、残念でしたね」


 湯船に浸かりながら二人で今日のことを話す。


「残念って、映画のチケット?それとも野外炊飯?」


「野外炊飯ですよ。映画のチケットも残念でしたが」


 彼方が悔しそうに嘆く。


「まさか実里さんが一人勝ちするとは、思わなかったな」


「そうですね。一番の強敵には勝てたのに」


 強敵とは天音か。

 俺も天音があそこまで残るとは思わなかったな。彼方もだけど。


「まあ、過ぎたことですね」


「そうだな」


 お互いに笑い合った。


「あ、そうだ。今度四人でバーベキューしよう」


 俺は名案とばかりに彼方提案する。


「“バーベキュー”、とは?」


 まじか。知らないのか。


「外で肉とか野菜とか焼くんだよ」


「それは、楽しそうですね」


「だろ?」


 野外炊飯ができなかった代わりに四人でやりたい。

 天音が来てくれるか不安だけど。


「どこでするのですか?」


「あ、」


 全く考えてなかった。できるのか?不安になってきた。


「ふふ、駄目そうだったら、私が今度頼んでみますよ。一応、権力はありますから」


「おお、頼もしい」


 お茶目に微笑む彼方。


「さて、そろそろ上がるか」


 もういい時間だな。また怒られる準備しないとだ。


「私はもう少しだけ入っていますね」


 彼方が湯船に浸かりながら言った。


「おっけー」


 俺はゆっくりと出入り口へ向かった。



 その時――大きな雷鳴が地を鳴らした。



◆◇◆◇◆◇



 騙して、時が満ちたら喰って私だけのモノにしよう。


 最初はただそれだけで動いていました。


 なのに、どうしてこんなにも罪悪感を抱いているのでしょうか?

 彼が私のことを“友だち”だと呼んでくれたから?


 おそらくそうです。


 彼は本気で私のことを“友達”だと思っているのでしょう。

 男の私を。


 私は彼を騙しています。


 もし、私が男ではないとバレたらこの関係はどうなるのでしょう?

 きっと、恐れられておしまいですね。


 嫌だ。そう思う自分。


 喰いたい、私のモノにしたい。そんな醜い私。


 その二つが存在しています。


 醜い私がきっと本当の私です。

 だって、今も、彰人さんを襲いたくて仕方がないのですから。


 後先考えずに襲いたい。

 襲った後もやりようはあります。高確率で私のモノにできるでしょう。


 なのに、もう一人の私が必死に止める。


 これは、なに?


 苦しい。痛い。彰人さんを見ると心臓が激しく鼓動する。


 性欲とは違う、なにか。


 分かりません。もう、自分がどうすべきなのか。

 今、必死に抑えている衝動に果たして意味はあるのでしょうか?


「さて、そろそろ上がるか」


 彰人さんが立ち上がります。


「私はもう少しだけ入っていますね」


 彰人さんと同時に行っては私が女だとバレてしまいますから。

 そうなると、彰人さんとはもう“お友達”ではいられなくなりますから。


 ……あ、そうなんですね。私は、彰人さんと離れてしまうことが怖かったのですね。


 騙すつもりで始めたのに、いつの間にか本物になってしまうなんて。


「おっけー」


 そうですね。

 なら、もう彰人さんを私のモノにするのは止めますか。


 いつか、本当の“お友達”になりたいです。だから、いつか自分から言います。謝ります。


 騙してすみませんでした、と。



 その時――まるで私の決意を嘲笑うかのように、雷が轟音と共に地面を震わせた。

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