第8話

 “ところで、どうして私が何かをたくらんでいると?”


 あれは、何かをたくらんでいる。


 あきとを男だと騙して西園寺彼方に何のメリットがあるの?


 分からない。でも、西園寺彼方は危険。

 あきとは気づいてないけど。


 私がしっかりしないと。面倒くさいけど、あきとのため。


 まず、西園寺彼方とあきとを二人きりにさせない。

 そして、西園寺彼方が何をたくらんでいるのかを暴く。


 自他ともに認める面倒くさがりの私がどうして、ここまでやっているんだろう?


 あきとが優しいから?

 まだ、あきとと会って二日目だけど、あきとはお姉ちゃんみたいなもの。

 お姉ちゃんを助けるのは当然。


 それと、あきとはいい匂いがする。


 頭がふわふわして気持ちいい。


 私の勘が言ってる。あきとは離すなって。私はその勘を信じる。


 でも、どうしよう?何も分からないんだけど……


 ふぁあ、考えすぎて疲れた。


 あ、ケーキ見っけ。


 朝食は、夜と同じようにバイキング方式だった。そして、奥にデザートコーナーを見つけた。


 私はそこへ向かおうと、前にいるあきとを追い越す。


「待って」


 背中からあきとのストップがかかる。


「ん?」


 振り返ってあきとと向かい合う。


「おかずも食べないと、栄養が偏るよ」


「うぇぇ」


「顔をしかめても駄目だ。トレイ貸して」


「…………はい」


 渋々、あきとにトレイを差し出した。


 あきとはお姉ちゃんじゃなくてママかも。

 私は脳内でそう訂正する。


 私のトレイにどんどんおかずが置かれていく。


「むぅ……」


「はい、これぐらいは食べよっか。じゃ、ケーキ取りに行こう」


 あきとから返されたトレイにはお肉やスープやお米などが置かれていた。

 ……私のことを思ってくれてのことだから文句言えない。



◆◇◆◇◆◇



「あーん」


「ん」


 あきとが口に焼き鮭を運んでくれる。


「……おいしい」


「だろ?」


 思わず口からおいしいと出ると、あきとが嬉しそうに笑う。あきとが作ったわけじゃないのに変なの。


「彰人さん!私にも!!」


 何故か一緒に食べることになった西園寺彼方。丸い机だから、私とあきとに挟まれる形で座っている。

 そんな西園寺彼方が私とあきとの間に割って入ってくる。


「えぇ、彼方は自分で食べなよ」


 あきとは笑って断る。


「いいじゃないですか。彰人さんのけち」


「はあ、分かったよ。ほら、あーん」


 あきとが西園寺彼方の口に卵焼きを運ぶ。

 ……あきとの箸で。


「あ、待ってあき……」


「はむ」


 私の静止も間に合わずに唐揚げは西園寺彼方の口へ入る。


 私はまだなのにぃ。

 なんか悔しかった。


「ありがとうございます、彰人さん」


 チラッと私の方を一瞬だけ見る。その表情は恍惚としながらも、したり顔だった。


 むかっ


「あきと、私にも!」


「ええ?天音にはやってるじゃん」


「そうだけど……そうだけどっ」


「今日の天音は変だなあ。はい」


「ん」


 私の口に運ぶ箸は私のもの。

 ……完全敗北。


 西園寺彼方、許せない。あきとをやる前に私からってことか。

 なら、絶対に化けの皮を剥いでやる。

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