第9話

「ちょ、天音ちゃんと歩いて」


「……頭使いすぎた……ねむい」


 朝食を終え、制服に着替えて天音と一緒に部屋を出たのが十分前。

 寮から学校までは離れてなく本来なら十分もかからない。なのに、俺たちは未だに寮の中にいた。


 原因は天音。

 部屋を出てすぐにうとうとしだした。全然歩かない。


「そんなに頭使ってないだろ。早くしないと遅刻するぞ」


「あきと、おんぶ」


 ええ……でも、本当に眠そうなんだよな。

 このままじゃ遅刻しそうだし。入学式の次の日に遅刻はしたくはない。目立つし。


 仕方ないか。


「今日だけだからな」


 俺はしゃがんで天音に背中を向ける。


「あきと大好き」


「はいはい」


 そんな言葉と共に背中に抱きつく天音。


 軽っ!ちゃんとご飯食べてるのか?


「走るからちゃんと捕まってろよ」


「すぅ……」


「は?まじか」


 天音のやつ、俺の背中っで寝やがった……っ!



◆◇◆◇◆◇



「はあっ、はあっ、はあっ」


 ぎりっぎり間に合った!

 天音が寝ていたせいでスピードが出せなかったんだ。


「あ、彰人さん?」


 肩で息をする俺の元に彼方がやってくる。


「さ、さっきぶり彼方」


「え、ええ。それより背中のそれは……?」


 彼方の視線が天音に固定されている。

 よく見れば教室にいる全員も不思議そうに天音を見ていた。


「歩けないほど眠いらしい。それで遅刻しそうだったからおぶって来た」


「いいなぁ……じゃなくて!鶴原さん起きてください!!」


 彼方が天音の肩を揺する。


「んん……あと少し……ずっとここがいい」


 眠りながら彼方の手を払う天音。

 彼方の表情が固まる。


 俺が言ってみるか。


「天音、起きて。もうすぐ、HRが始まる」


「ん」


 今度は、ゆったりと背中から降りる天音。


「なっ!?」


 彼方が驚愕の表情を浮かべ、プルプルと震える。


「あきと、ありがと」


「明日からはちゃんと歩いてね」


「ん」


 コクりと頷いて天音は自分の席に向かった。


「……おんぶずるい。彰人さんは私のですのに。やっぱり邪魔ですね」


 彼方も何かを呟きながら自分の席に戻って行った。


 一人になった俺も自分の席に着く。

 そして、間もなく教室の扉から担任の林先生が入ってくる。


「みんなおはよう。お、全員揃ってる。早速だけど、今日は体力テストがあるから、体操服に着替えて体育館に集合ね」


 早速すぎるな。

 まあ、そこはいいとして。一体、どこで着替えるんだろうか?


「あ、教室で着替えてね」


 まじか。男だとバレないよな?



◆◇◆◇◆◇



「会長、風紀委員長がまだ空席ですが」


 鋭い瞳が光る長身の黒髪ポニーテールの生徒。

 副会長が、生徒会長の前に立ち発言する。


「聞いて聞いて!私、めっちゃ良いこと思いついたんだ!」


 厳かな椅子に腰を掛ける、ゆるいパーマのかかった黒髪の少女――会長は満面の笑みで、告げる。


「……一応聞きましょう」


 副会長はいぶかしみながらも耳を傾ける。


「一年生が今日、体力テストあるらしいんだよね。だから、その成績一番の人を風紀委員長にしようよ!」


「なるほど。喧嘩などが起こった際などを考えると理にかなっていますね」


 会長が思ったよりもまともな発言をしたことに驚きながらも頷く副会長。


「……で、でしょ?」


 だが、会長の瞳は泳ぎ始める。

 何かを悟る副会長。


「……いい加減に提案しましたね?」


 副会長の言葉に肩を震わせる。


「ひゅー、ひゅー」


「誤魔化せませんからね?」


 副会長が深いため息を吐いた。

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