第10話

「じゃあ、まずは反復横跳びからね。寮のルームメートとペア組んで回数数えてあげて」


 林先生の指示で皆が一斉に動き出す。


「あきと」


「どうした?」


 俺と天音は最初から傍にいたので突っ立ったままだ。


「面倒くさい。私のは適当に回数書いてて」


「え、無理だけど」


「…………っ」


 天音の頼みを普通に断ったらポカポカと胸を殴られる。痛くないけど。


「はい、始めるよー。最初の子、位置付いて」


 お、もう始めるみたいだ。


「俺からでいいよね?」


「……ふん」


 頬を膨らませて顔を背ける天音。


 ……えぇ、本当に頼むよ?


「スタート!」


 不安になりながらも、反復横跳びは始まる。

 時間は二十秒。


 俺は必死に足を動かす。


「――はい、終了」


 はあー、疲れたあ。


 久しぶりの運動だったからな。


「天音、どうだった?」


「え、ご、50回……」


 50かあ。まあ、男子の平均なんて知らないんだけど。


「じゃあ、交代してスタートについてねー」


 林先生が指示を出す。


「次、天音だよ。頑張れ」


「う、うん」



◇◆◇◆◇◆



 かなりの時間をかけて、一通りの種目を終えた。

 結果としては、こんな感じだ。


 反復横跳び    50回

 握力       35kg

 上体起こし    28回

 長座体前屈    41cm

 50m走      7.56

 立ち幅とび    212cm

 20mシャトルラン 48回


 今は、教室で更衣をしているんだが……


 まずい、まずいまずいまずい。ミスった!!


 俺は焦りに焦っていた。


 この学校に女子しかいないこと頭から抜けてたっ!

 なに、全力出してんだよ!


 途中から気づいたんだ。最後の種目の、20mシャトルランの時に。


 “あれ?皆、終わるの早くない?女子はこれぐらいが普通なんだな。あ…………、あ、あ、あ、あぁ”


 あの時は、頭が真っ白になった。


 20mシャトルランは周りに合わせて終わったけど、手遅れ感半端ないよな。


 さっきから視線感じるし。クラスメイトの視線だ。

 注目の的になってる。


 え、バレてないよね?


 い、いやバレてたら既に襲われているはず……。まだ耐えてる……はず。


「彰人さんっ、何考えているのですかっ?」


「うおっ」


 いつの間にか制服に着替えた彼方が隣に立っていた。そして、小声で怒鳴られる。


「やっぱりまずいよね。ごめん」


 俺が男だとバレたら彼方も危ないんだ。

 もっとよく考えるべきだった。


「あ、いえ、言い過ぎました。私の方こそすみません」


 彼方が謝る必要無いのに。


「この件については、私に任せてください。できる限りフォローしますので」


「ありがとう……っ」


 俺は思わず彼方の手を両手で握ってしまった。


「~~ッッ!?」


 彼方が顔を赤くして、俺の手を振り払う。


「あ、急に握ってごめん」


「はぁっ、はぁっ、はぁ……っ。き、気をつけてっ、下っさい……っ。いっ、いきなりされたらっ、歯止めがっ」


 何故か息を荒くさせてる彼方。それに、顔も赤いまま。

 “歯止めが”ってなに?


「よ、よく分からなんけど、ごめん。次から気を付けるね」


「お、お願いっします……っ、この件にっ、ついてはっ、私に任せて下さいっ」


「う、うん。ありがとね」


 足を震わせながら自分の席に戻っていく彼方。

 なんか、本当にごめんね。


 そんな言葉はもちろん届く筈もなく、彼方は自分の席に座り顔を伏せた。


 それと、ほぼ同時に教室に林先生が入ってきた。


「みんな、今日はお疲れ様。疲れたと思うからゆっくり休んでね。はい、解散」


 お、今日は授業終わりか。まだ昼過ぎ。天音と一緒にどこかご飯を食べに行こうかな。

 彼方は……体調悪そうだし、また今度誘おう。


「あ、池田くんはすぐに生徒会室に向かってね。生徒会長から呼びだしだよ」


「天音、ご飯食べに行こう?」


「あきと、生徒会長に呼ばれてる」


「え?」

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