第7話

「ごほん。ところで、お二人はどうして手を繋いでいるのですか?」


 そういえば、もう食堂に着いているのにまだ繋いだままだったな。

 俺は天音の手を離す。


「天音が、こうでもしないと食堂まで歩かないんだよ」


「あきとがおんぶしないから」


 おんぶはまだハードルが高いんだよ。できるようになってもしないけど。


「彰人さんっ」


 彼方が俺に手招きをするので顔を寄せる。


「彰人さんは男なのですよ?鶴原さんに正体がバレないように無駄な接触は避けるべきですっ」


 彼方が俺の耳元で小声で告げる。


 確かに、そうかもしれない。


 でも、今さらすぎるんだよな。

 一緒のベッドで寝てるし。


「ま、大丈夫じゃない?」


 なんか、今のままだとバレる気がしないんだよな。


「そ、その油断が危ないのですよっ」


 でもなぁ、天音は悪い子じゃないからほっとけないんだよね。


 というか、彼方はそこんところ、どうしているんだろう?

 彼方にもルームメートがいるはずだし、バレないように対策とかしてるんだろうか?


「あきと」


「ん?」


 今度は彼方とは逆の方の耳からささやかれる。天音だ。


「あきとは騙されてる。西園寺彼方は男じゃない」


「???」


 頭の中がクエスチョンで埋め尽くされた。


 そう告げた本人の顔を見つめるがいたって真面目な顔をしている。


 彼方が男ではない?つまり、女ってこと……?

 あー、頭が回らない。落ち着け落ち着け。


 俺は一度冷静になって心を落ち着かせる。


 ……あ、そういうこと。なんだ、簡単な話じゃないか。


 彼方は女。

 それと、同じように天音も女。俺も女。


 そういうことだろ。この学校には俺と天音以外は女子しかいない。みんなが男子だと偽っている。


 つまり天音の今の発言は、彼方が男だとバレていない証拠。


「分かってるよ。彼方も天音も俺も男だけど男じゃない」


 俺は笑顔で頷いた。


「……絶対分かってない」


 あれぇ?


 天音にため息つかれた。


「もういい。直接言う」


「え、天音?」


 天音が俺の傍から離れて彼方の方へ足を向かわす。


「西園寺彼方、あなたが何を狙ってるのかは興味ないけど、あきとを騙すのは止めて」


「え?何も騙してないですけど?」


 どうしてか、二人の間に不穏な空気が流れる。


 それと、彼方はそこを否定したら、自分が男だとバレるんじゃ……


「私は男ですよ?そして、あなたも男、ですよね?」


 そっか。そういう言い方をすれば、天音は肯定するしかなくなる。


「…………何をたくらんでるの?」


「酷い言い方ですね。何もたくらんでいませんよ」


 彼方が笑顔で、天音の言及を回避する。

 ま、実際に彼方は何もたくらんでいないんだけどね。


「ところで――」


 彼方が少しだけ鋭い眼をして、天音に近づく。

 そして、口元を動かす。


 俺には聞こえなかったけど、何か言ったようだ。


「それは、勘」


 天音が口を開く。

 それが、彼方の何らかの問に対する答えのようだ。


「なるほど」


「それで、あなたは何故こんなことを?」


「さあ?」


 またしても、質問を回避された天音が不機嫌そうに顔を歪める。


「さて、そろそろ朝ご飯を食べましょう?」


 彼方はそれを気にした様子もなく笑顔で歩きだした。


「……私、あいつ嫌い」


 俺の隣に立っていた天音が小声で呟く。


「そっか。まあ、合う合わないあるから仕方ないか。じゃあ、これからは二人があまり会わないようにするね」


「それはダメ。あいつと会うときは私も一緒。二人きりはダメ。勘がそう言ってる」


 えぇ……。彼方はそんな人じゃないと思うんだけどなあ。


「分かったよ。できる限りそうするね」


 それにしても面倒くさがりの天音がどうしてそこまでするんだろ。

 意外と気分屋なところもあるのかな?

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