第2話

「新入生の皆さま、この度はご入学おめでとうございます」


 良かった、間に合った。

 間一髪だった。指定された席に座った瞬間に生徒会長がステージに足を運んでた。


「高揚や期待だけでなく、不安もあるかと思います。ですが、安心してください。この学校には、誰一人として女性はいません。そして、絶対に侵入を許さない寮。皆さまが安心して生活できる環境がここにはあります」


 生徒会長が胸を張って堂々と発言する。


 大きな胸を張って。


 ……あれ、女だろ。


 もしかして、この世界では男性も胸が大きくなるのか?

 なわけあるか。


 え、でも本っ当に意味が分からないんだが。

 なんで女子がいんの?男子校じゃないの?しかも国立だよな?


 “誰一人として女性はいません”だって?

 俺の隣もさらに隣も女子なんだが。俺と同じ男用の制服を着ているが。


 “絶対に侵入を許さない寮”だ?


 前提が壊されたら、ただの監獄だろ。女子と共同生活なんて、この世界の男は無理だろ!


「――以上で生徒代表の挨拶を終わります」


 いつの間にか、生徒会長の話は終わっていて降壇していた。


 まずいまずいまずい……!


 今の俺の状況は、狼に囲まれる羊と言ったところか。


 つか、もうバレてんじゃね?

 俺は右を見るが、真面目に正面を見ていた。左も同じ。


 ……バレてない?

 良かった。

 なんでバレてないのかよく分からないけど、助かる。


 逃げるぞ。こんな学校、退学だ。



◇◆◇◆◇◆



「はあ!?退学できない!?」


「はい。栄林高校では一度入学したら、理由がない限り退学は認められません」


 入学式が終わった瞬間、校長室に直談判しに行ったんだけど、校長からそう断言される。


「どうしてですか!?」


「どうして、と言われても。しっかりとホームページにも書いていましたよ?」


 クソッ。全然気にしてなかった!


「で、でも――」


「何か不満でもありましたか?この学校には男性しかいないはずです。気楽ではないですか?」


 ざけんな。

 と、言いたいけど言ったら、俺が男だとバレる。

 いや、もうバレてるか?


 もう、分からん!


 この校長若いのにめっちゃ怖いんだが。


「どうやら、退学を取り消す気になったようですね。では、教室に戻りましょうか」


「……はい」



◆◇◆◇◆◇



 校長室を出た俺は自分のクラスに足を運ぶ。

 教室に入ると、生徒は全員座っていて教壇には若い先生が立っていた。


「えっと、池田くんかな?私は、このクラスの担任の林凛子です。一年間よろしくね」


 林先生が可愛らしい笑顔を向けた。


 うん、普通に美人の女性だ。俺のいた世界でならモテモテだっただろう。


 男子校にいるのはおかしいけどね。

 もう、いいけど。生徒も見た感じ女子しかいないし。


「すみません、トイレに行ってました」


「いいよいいよ。今、みんなの自己紹介が終わって、寮の部屋番号を伝えようとしていたところなの。でも、せっかくだし池田くんも自己紹介してもらっていいかな?」


「あ、はい」


 林先生が手招きをする。どうやら、教壇でやれとのことらしい。


「池田彰人です。一年間よろしくお願いします」


 何も面白くない自己紹介に教室から小さな拍手が巻き起こる。

 ……やっぱり俺が男だと気づいてない。


 なんで気づかないんだ?


「じゃあ、部屋の番号言って行くね」


 学校では常に、男だとバレる恐怖。

 落ち着ける場所は寮しかないな。


「ちなみに、寮は二人で一部屋だからね」


 は?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る