第1話

 1月。この世界に転生してから、一ヶ月が経つ。

 この一ヶ月間、俺はマンションの敷地から一度も外を出ていない。

 俺は完全なる引きこもり人間になってしまっていた。


 まずい。なんか嫌だ。

 でも、外に出るわけにもいかない。女性の餌食になるのが目に見えて分かる。


 それにしても、もうすぐで受験の時期。

 高校行かなくて大丈夫なのか?


 この世界の男性はほとんど学校に通わない。通うとしても通信制。

 これが普通なんだろうけど、俺は通うのが当たり前の世界で暮らしていたからな。実際通ってたし。高二でしたし。


 今からでも間に合うか?通信制の高校探してみようかな。


 “高校 男子”


「ん?」


 一番上に気になる高校がヒットした。


 国立栄林男子高校。


 まじか。男子校があったぞ。


 その高校のWebサイトを見てみる。


 ・生徒、教師が全員男性。

 ・セキュリティ万全。

 ・安心安全快適の寮生活。


 すげぇ。さすが国立と言うだけあってサービス精神が高い。


 そして、なにより。


 ・入試はなし。身分証明書のみで入学可能。


 今からでも遅くないみたいだ。


 しかも都内にあって、ここから近い。ま、寮生活になるから関係ないんだが。


 よし決めた。ここに入学する。

 俺は早速、そこの高校へ身分証明書を送った。



◇◆◇◆◇◆



 雪が溶けて春になる。

 まあ、雪なんて積もってないんだが。


 俺は高校から送られてきた制服に身を包む。

 紺色のブレザーだ。


 今日は待ちに待った入学式。場所はもちろん高校である。


 俺はキャリアケースを引いて、家の外に繋がる扉を開く。


「おぉ」


 この世界に来て初めての外……は言い過ぎだけど、マンションの敷地内から出るのは初めてだ。

 少し怖いけど、楽しみの方が強い。

 それに男子校だから気楽に過ごせるはずだ。


 マンションから出るとすぐに呼んでいたタクシーが目に入る。


 タクシーの扉が開いたので中に入る。


「栄林高校までお願いします」


 運転手のお姉さんに行き先を伝える。


「え……っ、あ、はいっ」


 お姉さんの裏返った声が車内に響く。


 ……大丈夫なのか?


 不安になったものの、タクシーは動き出す。


 次第に不安は薄れていき、外を眺める。ルームミラーから感じる視線から逃げるためにも。


 外には本当に女性しかいなかった。


「あ、あの!」


 突然、運転手のお姉さんに話しかけられる。


「なんですか?」


 何かあったのだろうか?


「お、お客様はだ、男性ですよね?」


「そうですけど、それがどうかしましたか?」


「は、初めて見た……い、いえ、どうもありません。ただ、男性は女性と話すことさえ恐怖を抱くものだと教えられてきたので……」


 え、そうなんだ。

 俺は苦手なだけで、話すぐらいできる。でも、この世界の男性はそれすら無理なのか。


「俺は特には女性恐怖症というわけではないので」


「え…………?あ、あの、良ければ私の家に――」


「それはごめんなさい」


 お姉さんは可愛いけれど、女性は苦手なんだ。


「れ、連絡先だけでも」


「ごめんなさい」


 お姉さん、撃沈。


 その後、静かにタクシーは進んだ。



◆◇◆◇◆◇



「料金3200円になります」


「はい」


 俺はお金を渡してタクシーを出る。


 目の前には、栄林高校の校門。

 警備員の方が立っていて、ちらほらと同じ制服を着ている生徒の後ろ姿が見える。


「男性が栄林高校に行くなんて自殺しに行くのかと思いましたけど、納得しました。三年間、頑張ってください」


「え?」


 運転手のお姉さんがなんかよく分からないことを残して、去っていった。


 自殺しに行く?どういうことだよ。


 俺はあまり深く考えずに栄林高校の敷地へ入った。


 たしか、教室に荷物を置いて体育館だよな。

 クラスについては、事前に知らされている。地図も持っている。


「そこのあなた、もう入学式始まりますよ?」


「え、まじすか」


 校内を巡回していた警備員さんが教えてくれる。

 たしかに、周りに生徒は見当たらない。


 まずい、急げ!


 俺は校内を走った。

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