第16話

 ラブレターの返事を1人ずつしていたら、もうすっかり太陽は沈んでいた。

 部屋に着いたらそのまま食堂に行こう。

 天音は寝ているだろうから、起こしておんぶしないとな。


「ただいま」


「おかえり」


「うお、起きてる」


 部屋の扉を開くと珍しい……というか初めて見る光景が広がっていた。

 天音が自分の机で課題に取り組んでいた。


 起きているだけじゃなく、勉強まで。

 何事……?


「あ、天音、今からご飯食べようと思ってるんだけど……」


 邪魔しちゃ悪いかと思って控えめに聞いてみる。


「ん、行こ」


 天音がゆっくりと立ち上がった。


「はい」


 天音に背を向けてしゃがんだ。


「大丈夫。歩く」


「え?」


 背中を見向きもせずに俺の横を素通りする天音。


「ええ?」


 困惑して数秒フリーズしてしまう。

 今日の天音どうしたの?



◆◇◆◇◆◇



「あきと、今日は自分で取る」


「え、それだとケーキばかりに……」


「これと……これと、これ……」


 なってない……っ。

 ご飯にお肉に野菜、味噌汁。ちゃんと健康的な食事だ。


 途中から来た彼方と合流して席に着く。


「あ、天音、あーんは?」


「大丈夫」


「そ、そう」


 天音が自分で箸を持って食べ出す。

 俺と彼方は呆然とそれを見つめていた。


「彰人さん、鶴原さんと喧嘩したのですか?」


「いや、してないと思うけど……」


 何もしてないよな?


「あきとは何もしてない。ただ、私がちゃんとしなきゃって思っただけ」


 隣に座る天音が答える。


「良い心がけだと思います」


 天音に彼方が淡々と返す。


「別にあなたのためじゃない。あきとの……私のため」


 天音のため?


 結局、訳も分からないまま夕食は終わった。



◇◆◇◆◇◆



「おやすみ、あきと」


「おやすみ、天音」


 いつもより広いベッドに仰向けになる。

 いつもより広いと感じるのは、天音がいないから。


 なんだかなあ。落ち着かない。

 嫌われるようなことしたかなあ?全然思い当たらない。


「あきとぉ」


 隣のベッドで横になる天音から呼ばれる。


「どうした?」


「…………」


 返事がない。

 隣を見れば、天音は穏やかな表情で眠っていた。

 寝言か。


「捨てないで……」


 “捨てないで”?

 何の夢だろう?


 あーもう寝よう。

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