第15話

「天音、今日も用事あるから先帰ってて」


 放課後、あきとにそう告げられる。


「ん」


 私は小さく頷く。

 朝、ラブレターいっぱい貰ってたから、これは予想してた。だから、ショックはない。

 疲れるけど、歩こう。


 私は1人で教室を出た。


「鶴原さんだね?」


 教室を出ると知らない生徒に話しかけられた。


「ん、あなたは?」


「そんなことはどうでもいいから。話があるから着いてき」


 そう言って、生徒が私に背を向けて歩きだす。


「面倒くさい」


「え?は?」


 私は驚いてこっちを見た生徒を追い抜かす。

 眠いから早く寝たい。寝る。


「ちょ、ふざけんな!」


「わっ」


 いきなり手を引かれて無理やり連行された。


「ちゃんと歩け!」


「面倒くさい」



◆◇◆◇◆◇



「はあ、はあ、はあ」


 生徒に連れてこられたのは人気のない校舎裏。


「え、なんで疲れてんの?」


 そして、そこにはもう1人知らない生徒がいた。


「こいつ、全っ然走らないんだよ!」


 キツそう。


 肩で息をする生徒を見てそんな感想を抱いた。


「へぇ、余裕だね」


 1人の生徒が嫌な笑顔を浮かべてこっちに近づいてきた。


 ……これ、危ないやつかな?


 私はようやく危機感を覚え始めた。


 人気全然ない。走って逃げれる?無理。叫んで助けを呼ぶのも無理。なら、電話は?あきとの連絡先は知ってる。でも、すぐには来れない。というか、電話させてくれない。

 どうしよう?


 ……なんか、面倒くさくなってきた。なるようになる。


「今後一切、彰人様に近づかないで」


「無理」


 “様”呼びに疑問を感じながらも、速攻で吐き捨てる。


 二人は目を見開いて唖然とする。


「部屋同じ。一緒に寝るし、手も引っ張ってもらう。おんぶもしてもらう」


「……あんた、彰人様と付き合ってんの?」


 1人の生徒が問う。


「ううん」


 横に首を振る。


「……ただの面倒くさがりかよ」


 否定はしない。その通りだから。


「彰人様とはいつ出会ったの?」


「入学してから」


「ふーん」


 私が質問に答えると、おかしそうに頷いた。


「なに?」


「いや、なんでそんなに余裕ぶってるんだろう?ってね」


 余裕ぶる?

 私は、いまいち言ってることが分からず首を横に傾ける。


「当たり前のこと言うけど、彰人様はあんたの召し使いじゃないの。あんた、一方的に彰人様に依存してるだけじゃん。見捨てられるのも時間のうちだね」


「あきとはそんなことしない」


「本当に?」


「ほん……とう」


 本当に?


 この前、信頼されなかった。それって、時間が解決するものばかりだと思ってた。

 でも、原因は時間じゃなくて私?


 “依存”。


 昨日、夜ご飯の時、知らない人にも言われた。“顎で使っているだけ”って。あきとは否定してくれたけど。

 その言葉が私とあきとの関係なのでは?


 私はあきとにたくさんしてもらってるのに、私はあきとに何もしてあげれていない。

 私だけ貰ってる。


 見捨てられない。


 そう断言できない。こんな私、いつ見捨てられてもおかしくはない。


「早く捨てられてね。あんた邪魔なのよ」


「あきとのこと好きなの?」


「そうよ。そして、彰人様のことを好きな人はそこら中にいる」


 あきと、そんなに人気なんだ。


「過激な人には注意しなよ。私らは忠告しに来ただけだから良いけど、他の人は暴力に訴えてくるかも。それ程人気なのよ、彰人様は」


「ん、ありがとう」


 意外と優しい?


「助けたわけじゃない。彰人様が悲しむからよ。早く離れろ」


 二人は、私を残して校舎裏から去っていった。


「それは、無理」


 信じてほしい。あきとにそう言ったのは本当。


 でも、このままだとダメ。だから、変わろう。

 目指せ、脱面倒くさがり。

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