第17話

 天音が面倒くさがりを辞めた日から一週間は経った。

 天音は未だに脱・面倒くさがりを継続中だった。


 一時的なものだと思ってたのに、天音の意思は強かった。


 でも、日に日に体調が悪くなっている気がする。


 ふらふらしてて眠そうなんだ。

 授業中もうとうとしている。


 いつか倒れないか心配だな。


 さて、荷物を纏め終えたから帰ろう。

 鞄を肩にかけて教室を出る。


 天音は用事があるとかで先に教室から出ていった。


「あ、いた!彰人くん!」


「佐藤先輩に東城先輩?」


 生徒会長と副会長が慌てた様子で俺のところに駆け寄ってくる。


「彰人くん、揉め事があったみたい!」


 二人がが俺を追い抜かして走っていく。

 着いてこいってことらしい。俺は、黙って着いていった。


 何だかんだ初仕事だ。


 広い校舎を走る。階段を駆け上がり、辿り着いた先は何度か行ったことのある屋上だった。


 扉越しに女子の声が聞こえてくる。


 俺は先頭に立ち扉を開いた。


「え、あ、天音!?」


 なんと、三人の女子に天音が囲まれていた。


「あきと?」


 天音が俺を見て驚いた表情をする。


「風紀委員です。どういうことですか?」


 女子三人に睨み付けるようにして言う。


「あ、彰人様!?え、えっと、これはぁ……」


 三人が言いにくそうに目線を逸らす。

 というか、この三人見覚えある。


 確か、先週俺に告白してきた子たちだったような……


「だ、だって、何もしてないのに彰人様の隣にいるなんてずるいから!」


「それに、いっぱいしてもらって、偶然同じ部屋になっただけなのに……」


 嫉妬ってやつ?


「1人に対して多数に詰め寄るのは許される行為ではないと思います」


 理由はどうあれ彼女らはいけないことをした。

 たぶん、天音だったということもあり、俺は三人を責める。


「あきと」


 後ろにいた天音から制服の袖を引かれる。


「どうした?」


「私、何もされてない。ただ、聞かれてただけ」


 唖然とした。

 被害者である天音が加害者を庇ったから。


「そ、そうか。天音が言うならこれ以上は。先輩方、この後はどうすればいいですか?」


 俺は佐藤先輩と東城先輩の方を向く。


「先生に報告して、その後は先生にお任せしましょう。ひとまず解散ですね。そちらの生徒は彰人くんが知り合いみたいなので、お願いします。三人は私たちが部屋まで連れて行きます」


 佐藤先輩が会長モードで凛として指示を出す。頼もしい。


「分かりました。天音、帰ろ」


「ん……眠、い」


「え……?だ、大丈夫!?」


 天音が俺の胸に寄りかかってきた。

 天音は瞼を閉じて穏やかに寝息を立てていた。



◇◆◇◆◇◆



「んん……」


 ベッドの上で横になる天音が目を開く。


「お、大丈夫?」


「……倒れた?」


「そうそう。びっくりしたよ。最近、寝不足だったの?」


 俺と同じ時間に寝てる筈なんだけどな。


「ん。1人で寝るの慣れない。夕方も寝てないし」


「なんで、1人で寝たり、おんぶされたり、なくなったの?」


 俺はこれを機に前から気になっていたことを聞いてみた。


「…………私、あきとにしてもらってばかりだったから、いつか見捨てられると思った」


 天音が静かに告げる。


「え?そんなことしないよ?」


 俺は驚いてしまった。


「……本当?」


「うん、本当」


「嫌じゃない?」


「うん」


 むしろ、最近はちょっと寂しかったしな。

 妹が兄離れしたらこんな気持ちなんだなあ、とか感じたりしてた。


「私を頼ってくれる?」


「うん」


「なんだ、このままで良かったんだ」


 天音が穏やかな笑みを浮かべた。


「あきと、また色々とよろしく」


「了解」

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