第二十二話・・・大衆居酒屋『やきとり』
返信が来るかどうかは分からないが、一応昼食を取る旨を
俺と
そこはよくある商店街といった感じで、所々シャッターが下りている所もあれば人が沢山おり、活気づいている場所もあった。
舞はこういうところに興味があったらしく、至る所に視線を飛ばして目を輝かせていた。その姿に俺は目を奪われていて、いつの間にか商店街の終わりへ差し掛かっていた。
「っと、なにか食べたいものあった?」
「うーーんとね、やきとりやさん? に行きたい!」
「焼き鳥屋ね、ここにあったか?」
「うん! いいにおいがしてね! みんなたのしそうだったよ!」
「じゃあそこに行こっか」
舞が希望した店がどこにあったのか全く分からないので、来た道を辿るように商店街の中を歩いていく。すると、舞が「あそこ!」と元気よく言い、店のある所に指を指す。そこは毛筆のような字体で「やきとり」と書かれていて、一頻り笑い声が聞こえて来る。
その外観、人の様子から見るに、そこは所謂『大衆居酒屋』と言われる場所だった。そう理解した瞬間、俺は口元を引き攣りながら笑みを浮かべるが、舞の行きたい所だからと手を繋いで店の出入り口前に立つ。
ガラガラガラと音のなる引き戸を開けると、ビールの入ったジョッキを高々と上げ、大声で何かを言っていたり酔っている影響なのか、何を言っているのか今一分からない口調で文句を垂らしている人たちと、舞には教育上悪いような環境だった。
俺は踵を返して退店しようとするも、舞が動こうとしないため出ようにも出られない。すると、ガラガラとしたおじさんの声が後ろから聞こえ、それは俺たちに向けての言葉らしかった。
「あんちゃん、わけぇのに子供づれけぇ?」
「え? い、いや違います! 俺の妹です!」
「はぁん妹ねぇ......それで、あんちゃんなにしにきたんじゃけ?」
「ちょっとここで昼食を取ろうかと思ってまして、迷惑だったら出て行きますんで」
「いんや大丈夫じゃ、しっかしなぁ、妹さんが喜ぶようなもんあるけぇねえ」
「その......あそこに書いてある、やきとりを頼めますか?」
「やきとりか? すまんなあんちゃん、やきとりは夜からなんじゃ」
「そうですか、ありがとうございます。舞? やきとりは今食べられないんだって、だから他の所行こうか」
「うん......」
舞にそう優しく語り掛ける。だが、そんな融通が利くほど舞は大人ではないので、目に涙を溜めて、今にも泣きだしそうになっていた。
その姿に、罪悪感が沸いて申し訳なく思うが、店の事情をこんな一家族が簡単に変えることなんてできないので俺は舞の手を引いて店の外へ出ようとする。そして片手を店の引き戸に掛けると、後方から声が聞こえてきた。
「なあ、かやさん~、少しくらい別にいんじゃねぇの~?」
「そうだよぉ、俺らみたいな飲んだくれは別としてよぉ」
「......おまんらに言われる筋合いなんきゃねぇ! しっかし......まあしゃあねぇ、おいあんちゃんたち! ちょいと待たんかい」
「な、なんですか?」
声を掛けられれば意識をしていなくとも振り返ってしまうものだろう。それに俺も例外ではなく、外へ出ようとする足を止めて、振り返る。するとそこには血管が浮き出るほどまでに鍛えたのであろう腕を組み、仁王立ちしているおじさんの姿があった。
表情は困り顔で、しょうがなくと言った感じの表情だった。それに俺は首を傾げて、何なのか分からないとでも言うような仕草をする。
「はぁ、食ってけぇ、やきとりでもなんでも!」
「本当にいいんですか?」
「わしゃあそこら辺の見て見ぬフリをするやっちゃとは違うんじゃ」
「そう、ですか」
「さぁさぁ食ってけ食ってけぇ」
おじさんはそう言いつつ俺たちをテーブル席へ案内し、円形状のコンロに火をつけると、網の上へどこからともなく取り出した鶏肉を焼き始める。ジュ―と肉の焼ける音と共に香ばしい匂いが鼻を刺激する。
その匂いは空かしている腹をさらに空腹にさせ、次第には空腹によって腹痛が生まれるほどにまでへ変化を遂げた。
待ち遠しく思えたやきとりの完成が成し遂げられ、舞と俺の前に置かれたさらに串を指された状態で盛り付けされる。
おじさんへ視線を飛ばすと、深く頷き食べることを催促しているようだった。なので俺は串を持ち、やきとりへ噛み付く。
やきとりは非常に美味しく、いつまでも食べていたいと思えるほどだった。しかし、時間も時間で、店側の事情もあるので早めに切り上げて、店を出ることにした。
「本当にありがとうございました!」
「ありがとーおじさん!」
「構わなさんな、またいつでも来んさい」
「はい! また機会があったら」
「またねー!」
感謝を述べ店を後にし、駅に向かって歩き始める。昼下がり頃で、商店街の天井はガラス製になっていて、日差しが差し込んでいるせいなのか頬に少し汗が伝う。
舞も、暑く感じているのか俺の服の裾を引っ張り、近くにあった自動販売機で飲み物を催促し始める。
暑さに関しては同感なので、俺は躊躇することなく自動販売機へ向かい、どれがいいか舞に質問を飛ばす。
「えーとね、うーんとね、りんごジュース!」
「了解、えっと、これか」
舞の要求に応えるため、りんごジュースを探し出し、値段が示されているボタンを押し込もうとする。だが、それよりも先に、俺ではない誰かの指がそのボタンを押す。
すると機械的なピッという音と共に、ペットボトルが落下する音が聞こえて来る。俺が唖然としていると、後ろで「どうぞ」という声が聞こえる。
「亜依さん......?」
「そうだよー? 君たちのお姉さんの亜依さん」
「随分と早かったですね」
「まあねー、取り敢えず飲み物買ったら行こっか」
「ええ、そうですね」
「駅前に車止めてるから」
亜依さんの口から衝撃的な言葉が出てきた。「車」という単語、俺の記憶が正しければ亜依さんは免許を保有しておらず、自動車学校にも通っていない筈。
それなのに車を止めているという、発言には正直驚きを隠せなかった。
「車? さすがに天然だったとしても、無免許は......」
「私が運転してきたわけじゃないよ!」
「それなら、誰が......タクシーですか?」
「タクシーも違う。運転してくれたのは、諒ちゃんのお父さん」
「......親父?」
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