第八話・・・校長室と書いて禁則地と読む

 茶立場に連れられ校長室へ。ただ色々な噂が立っている校長室が放つ雰囲気はさながら魔界のような雰囲気のようだった。

 思わず固唾を呑み、校長室へ入る勇気が削がれてしまう。


 そんな俺の気を知ってか知らずか、茶立場は俺の手を引いてガラガラガラと躊躇なく開けて、先ほどの禁則地発言が嘘かのようなことを口にする。


「た~のも~! 連れてきましたぜ~!」

「ちょっおまっここ校長室だぞ!?」

「大丈夫だべ大丈夫だべ」


「おい麻美~? それでも一応先輩なんだからちゃんとした敬語使えよ~」

「分かってますよ~」

「......あの、まったく理解が追いつかないんだが?」


 扉を開けた先は仕切りが立てられ、校長室の中を見れないようにされており、その先から男性の声が聞こえてくる。

 こんな状況に頭が追いつかず、混乱していると、茶立場がぐいぐいと手を引いてくる。


 運動部に所属しているからなのか、男である俺の体を軽々と引っ張って、仕切りの向こう側へ連れて行く。

 ちなみに、追いかけてきた空手部員とクラスの陽キャ男子は周りから何かしでかしたのかと思われるのが嫌なのか、校長室の近くで壁に寄りかかって俺たちが出てくるのを待っているらしい。


 そんなことはさておき、仕切りを越えて校長室の全貌が視界に入る。そこには皮で出来たソファーに深々と腰を下ろしているスーツ姿の爽やかな男性と、少し頭の方が寂しい小太りの男性。


 その様子に思わず固唾を呑み込み、冷や汗をかいているような感覚が体を襲って、思わずこの場から逃げたくなる。


「そんなカチカチにならなくても、別に何か問題を起こしたわけじゃないんだから」

「そうだとしても、いろんな噂があるんですよ、校長室には」

「え? ガチで?」


「校長がガチを使うの初めて聞くかも」

「おいこら麻美、先生を付けなさい、先生を」

「うぃ~」


「はあ......」

「えっと~......そもそも俺はなんでここに連れてこられたんです?_」

「あぁすまんね、君をここに連れてきたのは喜入さんについて聞かせてほしいってことで連れてきてもらったんだけど」


 またか。そう面倒くさそうに内心思い、目の前の教師であろう二人にヤケクソ気味に先ほどクラスで述べたこととほぼ同じことを述べる。


「俺は本当に何もしらないですよ? ただ珍しく早くに学校に着いて、偶然喜入さんが居たんで、少し話して目を逸らしたらいなくなってた。それだけですよ知ってることは、本当に」


 校長は俺のことを訝しむかのような目で見つめ、恐らく茶立場の担任教師は校長と真反対で、信じているかのようなそんな目で見つめてくる。

 そんな冷たい目と暖かい目、冷暖の差の激しさにまた少し困惑してしまう。


「そうかぁ......あっ、そういや俺の名前言ってなかったよな」

「え? まあ、そうですね」

「じゃあ、俺は井白 結城いしろ ゆうき。そこのアホの担任だ」


「アホって言うなジジイ!」

「あ? 何だと? 俺はまだピッチピチの三十路だぞ?」

「いや、三十路は十分ジジイだろ」

「全世界の三十路の男性に謝れこの野郎」


 お笑いのようなことをしている二人を呆然と見ていると、校長が「そろそろ本題を」と言い放ったことで二人は正気に戻ったように静かになる。そして井白がさっきと打って変わって真面目な雰囲気を漂わせて俺に疑問を飛ばす。


「俺は君のことを信じたい。だけど、まだ情報が錯そうしてるし、少ないから可能性を除くことができてないんでけど......」

「まあそうでしょうね」

「ん~校長。もう言ってもいいです?」


「おい先生を付けろ。まあいいだろう、話せ」

「はいはい......九十三 諒つくみ りょうくん。君は黒見虚リーゲンナイトって知ってるかい?」


「リーゲンナイト、ですか?」

「ああ、簡単に言えば、この国が唯一存在を把握している、``殺し屋組織``だ」

「殺し屋、ですか......」


 井白から出てきた予想外の単語に俺は謎に冷静になり、何故か思考を働かせるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る