第七話・・・一つの殺し屋
「この中で今日、
クラス担任がドアを開け放ち、最初に発した言葉はこの教室にいる誰もが予想だにしなかった言葉だった。
そして、徐々に何が起きたのかを理解し始めたみたいだった。
俺はどうするべきか、思考を巡らしていると、一人の女子が手を挙げ、恐る恐る席を立つ。今にも消え入りそうなほどにか細い声で、しかし女子が立ち上がったことでクラスが静まり、声が教室に響く。
「私、見ました。教室で、喜入さんが、``消える``瞬間を」
「「「「「......は?」」」」」
「おいおい...消えるって、どういうことだよ!」
「そうよ、人が消えるなんてこと......」
「でも私は見たんです。喜入さんが九十三君と話し終わってすぐ、黒い何かに包まれて、元からそこに居なかったかのように......」
「おい、
どうする。ここで素直に話したとこでクラスの奴らは信じるか? 俺に疑いの目を向けるだろどうせ。こんなガリ勉野郎の言ってることなんて俺だったら信じない。
少し話した感じ別に悪いやつでもないし、多分このクラスにはあいつが必要なんだろうと感じた。
しかし、何か引っ掛かる。この感じがなんだか嫌な感じで懐かしい。
過去に同じことがあったかのような感覚。しかも身内が被害に遭ったかのような。
いや、今はこんなことを考えてる時じゃないか。
話せることと言ってもただ一緒に居て、少し話して、目を逸らした直後に姿を消しただけ……すっげぇ謎めいてんな。
まあ特に利になる話でもなく、茶立場の話でもすれば怪しまれないだろうと思い、俺はすこし気怠そうに席を立つ。
「
「んで話も一段落して、喜入さんから目を離したらいつのまにか居なくなってたってだけですよ、俺が言えることは」
「…………」
俺の話を聞いてクラス一同だんまりとなり、なにか考え込んでいるようだった。
すると、このクラスで陽キャの地位に当たる男子が突然席を立つ。そして俺に向かって指を指してくる。
(おいおい、人に指を指すなよ……)
そんな呑気なことを思っていると、その陽キャ男子は俺がほぼ予想していたことを言い放った。
「そんな人が急に居なくなるなんてことないだろ! お前が拐ったとかそんなんだろ!」
俺が反論をしようとすると、それよりも早くにクラスが驚異の結束力で「そーだそーだ」と陽キャ男子の言葉を肯定する。
反論の隙を逃し、反論の隙を与えてしまう。
「本当のことを話せよ!」
「ていうかお前、一般生徒だったよな? どうせお嬢様でも、学園のマドンナでもある
こういう奴らに一度でも反論の隙を与えてしまうと、相手がズタボロになるまで止まらない。そのことを過去に身をもって知っているため、内心やってしまったと反省する。
こういう状況で、どう潔白の身だと証明するか、思考を巡らせるのだった。
視界が真っ暗。五感が完全に失われているみたいに何も感じ取れない。
九十三くんと一応話し始めた頃からの記憶がない。
すると徐々に体が揺れているような感覚がうっすらと感じてくる。
何かに運ばれているかのような、そんな感覚がした直後、目を開けることができるようになったため、ゆっくりと、瞼を開ける。
少し視界がぼやけるものの、私がさっきまでいた教室ではなく、木が生い茂る森が目の情報として入って来た。
そして目線を少し落とすと、そこには誰かのうなじがあった。
その事実を完全に飲み込むには少し時間が掛かった。しかしそれ以外に考えることはなかったため一応飲み込むことができた。そして飲み込む時間が長かったからか、失われていた五感がほぼ完全に回復した。
しかし、恐怖によるものなのか、体がピクリとも動かず、頭が混乱する。
「ん? あ~~」
「どうした?」
「いや~起きちゃったみたいで」
「何も動いていないんだが?」
「う~ん、多分麻酔がまだ少し効いてるみたい。でももう五感は戻ってるみたい」
「あっそっすか」
「だから機密情報は喋っちゃだめだよ」
「うぃっす」
「こ、こは......?」
おっとりとした口調の女が私が起きたことに気付き、恐らく前を歩いているであろう人物に共有する。
私は状況を飲み込んだと言っても完全に理解したという訳ではなかった。
そのため、不意に口から掠れた声で素朴な疑問を零す。小さな声が女の耳の近くだったからなのか、女は進めていた歩を止め、私を丁寧に地面へ下ろす。
体が思うように動かない私は地面に下ろされても立つことができず、地べたで座り込む。そんな私の目の前に女はしゃがんで私に問いを投げる。
「貴方のお父さん、喜入商会の会長よね?」
「な、んで、そん、な、ことを」
「私、いや私たちは貴方のお父さん、
目の前の女は、真剣な眼差しで私を見つめ、この平和が当たり前な日本で、考えられない言葉を口にする。
「殺す。一つの``殺し屋``として」
「なんだよ、だんまりかよ。自分の嘘がバレそうになったらすぐに黙り込む。ほんとにクズ野郎だな!」
「......はあ、草柳さ————」
「今草柳は関係ないだろ!」
「いや~ちょっと、少し弁明させてほしいな~って、そのために草柳さんの協力も必要なんですよ」
「そんなこと言って、逃げるんだろ!」
「いや、こんなガリ勉が空手部の男子二人から押さえられて逃げられると思います?」
先ほど俺が逃げるかもしれないと、クラスの陽キャ男子が言ったことでこのクラスメイトのガタイの良い空手部員に押さえつけられていた。しかもろくな弁明もさせてくれないという。
(あれ? 結構詰み状態じゃね?)
そんな諦めモードに入っていると、先ほど喜入を見たと言った女生徒、草柳が珍しく大声を出す。
「あ、あの! わ、私、九十三君の、話をき、聞き、たいです!」
「草柳、どうしてこんな奴の話を」
「まあまあ、一回ぐらい聞いてやってもいいじゃないか」
さっきからほぼ傍観者となっていたクラス担任の教師が口を挟む。そんな教師に遅すぎるだろと内心呆れたように思う。だが弁明の機会を作ってくれたことに関しては感謝しかない。
「......チッわーたよ」
虫が悪そうな表情をすると舌打ちをし、陽キャ男子は教師の言うことを案外すんなり受け入れる。
(う~ん、なんかちょっといい奴)
どうでもいいことを思いつつ弁明するために思考を巡らせ、やがて言葉を口にする。
————その時だった。教室の後ろ側にあるドアが音を立て、勢いよく開け放たれる。
教室にいる全員の視線が開け放たれたドアの廊下側に立っていた人物に集中する。
「せんぱいを借りに来ました!」
そう聞き慣れた声、そして大声で、教室中を困惑に落とし込んだのは見知った顔をした少女だった。
その見知った少女は俺の近くまで来ると、優しく微笑み、俺に手を差し伸べる。
「さあ行きますよせんぱい」
「......なんでお前がここに」
「ん~まあ消えたのが部活の先輩ですし、朝、せんぱいが変なことを言ってたってのをマイティーチャーに伝えたら
「校長室を勝手に禁足地にすんな」
「実際あそこに入れられたらほぼ終了みたいなもんなんで大丈夫ですよ」
「う~んあそこは刑務所かなんかなのか?」
「とにかく行きますよ」
こんな緊張感MAXの教室でコントのようなものを繰り広げられるのは多分、精神力つよつよじゃないと無理だろう。
そんなことはさておき周りの視線を気に留めていないかのようで、空手部員を無視して躊躇なく俺に手を近づける。
すると、今さっきまでこの状況に呆気を取られていた陽キャ男子が自我を取り戻し、目の前の少女に向かって丸め込むような言葉を口にする。
「キミはこいつがしたことを知ってるんだろ? まずここで状況を吐かせた方がいいんじゃないか? 連れて行く途中で逃げられるかもしれないし」
「ならこのお二方も一緒に来てもらえれば問題はないでしょう?」
少女に正論を突き付けられ、ぐうの音もでないらしい。そして、俺はあることに驚いている。あの少女があんなに綺麗な敬語を使えるということに。
当たり前と言えば当たり前。目の前の見知った少女————
茶立場は俺の手首を自身の手中に収めると、ものすごい力で引き寄せ、そのまま教室を退出する。
それを追いかけるように空手部員と陽キャ男子が小走り気味に追いかけてくるのだった。
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