第十二話・・・大食いだなあ

 俺の歓迎会はやけに盛大に執り行われ、ご飯はバイキング形式でステーキやハンバーグ、ラーメン。さらには高級品であるキャビアらしいものが山盛りになっていた。

 初めて見るキャビアの山盛りに驚かされ、他にも滅多にお目に掛れないものがずらりと並べられていて呆気に取られていた。

 さらには白色と金色で豪華に装飾され、圧倒的存在感を放つ霧島宅に驚かされて、ここでは驚くことが沢山だった。

 しかし、決してそれを表に出すことはしなかった。思春期故のプライドなのか、なんなのかはわからない。

 だけど、これだけは分かる。この少女は、相当な金持ちで俺たち一般人とはかけ離れた生活をしているということが。



「こ、これは......すごい、ですね」

「なんか、私の両親が『うちの子にお友達が!』って騒ぎ立ててしまって......嫌だったら言ってくれたまえ、すぐ好みのものに取り換えてもらうから」

「え、いや、そんな申し訳ないですし持ったないですよ。こんな高級な料理を俺の好き嫌いで捨てるなんて」

「いーのいーの! どうせ余ったらあとで食べることになるんだし、それにお金なんて有り余ってるんだから」

「は、はあ......でもまあ色々試してみます」



 やはり金持ちとの思考は合わない。かなり昔、俺が小学1年生の頃ぐらいだっただろうか、仲良く、いつも一緒に下校を共にしていた女友達がいたのだが、その子も相当な金持ちだったと記憶している。

 残念ながらもその子は3年生で、4年生になるのをたずに転校してしまい、俺も幼かったことからその子の顔も、名前も忘れてしまっていた。

 だけど、走馬灯のようにその子との記憶が薄っすらと思い出すことだけができたのだ。



「懐かしいなあ......あの子って今も元気にしてんのかな」

「......あの子とは?」

「あーいえ、ただ昔仲が良かった女友達の事を思い出していただけです」

「女友達......か」

「ん? どうかしました?」

「あ、いや大丈夫大丈夫」



 霧島が何かをボソッと呟いたのだが、あまりにも小さかったため何が言っているのかよく分からなかったので聞き返したがはぐらかされてしまった。

 これ以上聞いてもただはぐらかされてしまうだけだろうから深追いせずに目の前に並ぶ料理を皿に盛りつけて近くの空いている適当なテーブル席に座る。

 早速料理に手を付けてみる。霧島が言うにA5ランクの松坂牛やら飛騨牛など高級牛にを使った肉寿司らしいのだが、俺が貧乏舌だからなのかそこら辺の市販物と同じような味しかせず、味の広がりが違うとだけしか分からなかった。



「どう?」

「え、え~っと、美味しい、です」

「......無理しなくてよいのだよ?」

「す、すいません......貧乏舌で、高級品の味がよく分からなくて」

「謝るんじゃない、口に合わないって前々から分かっていたことだし」



 無理に笑顔を作ってこの場を何とか取り繕おうとしているのが簡単に分かった。だがそれについては触れていけない気がしたのでまた、追及はせずに少しずつ皿に盛りつけた料理を減らしていく。

 そこでキィィという音が広々とした舞踏室と言われるであろう部屋に響く。音の発生源であろう方向へ視線を向けると、5mはある大きな扉がゆっくりと開き、その扉の先には紺色の派手で、豪華に装飾されたドレスを身に纏っていて、茶色の髪を後ろで複雑なお団子で結んでいる気品のある女性。

 その女性の隣に立つ白色のスーツに少し装飾を施したものを身にも撮った黒髪の威厳のある男性が姿を現した。

 ここの、この瞬間だけ、時代が中世ヨーロッパに戻ったようだった。



「あら、もう御出でなさったのですか、失礼ですけどお名前を伺ってもよろしいかしら?」

「俺は九十三 諒つくみ りょうと言います。すいません、挨拶もなく上がってしまって。」

「そんなかしこまらなくてもいいのよ~? 瑠偉が初めて友達を連れてきたのよ、そんなことでは怒らないわ」

「あ、ありがとうございます......?」

「母様! 私にも友人はいますよ! ただ母様たちに伝えてないだけで......」

「あらそうなの? なら今度連れてきてくれてもいいのよ?」

「ま、またいつかですよ......父様も何か言ってください」

「俺に何か言えると思っているのかい?」



 目の前で繰り広げられる親子睦ましい会話を呆然と見ていると、話が一段落したようで霧島が俺に振り返る。



「すまんね~。もちろん友人はいるよ? いるからね?」

「は、はい......って、桐ケ谷きりがや先輩は何処へに? ここに来るまでずっと一緒でしたよね」

「ああ、きりちゃんは、あそこ」



 霧島が視線飛ばし、指を指した方向を見てみると、そこには大きな皿にハンバーグやエビフライなど料理品を山盛りに盛ってそれを一人上品に食べていた。

 その様子が衝撃的すぎて俺は何も言葉が出なかった。



「以外でしょ?」

「え、ええまあ」

「きりちゃんは昔からあんな感じなんだよ、普段は誰にでも冷たく塩対応。だけど食事の事となるとリミッターが効かなくなって、沢山食べちゃうんだよ」

「そ、そうなんですか......」



 今日は色々なことで驚かされることが多い。しかし、霧島が俺を家に呼んだのは歓迎会だからというだけではなさそうだったのだが、まあそれに関しては霧島の口からいずれ聞くことができるだろうと楽観的に考えていたのだった。

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