番外編①・・・九十三家の一日 2023年書き納め

 ピピピ ピピピと部屋に鳴り響く目覚まし時計の音に魘されていると、ボフという音と共に腹部に何かが乗っかったような重量感を感じる。

 目を擦りながら体を起こすと。


「おにーちゃん! おーはよ!」

「ああ、まいか、おはよ」

「おねーちゃんが朝ごはんだって!」

「そっか、ありがとうな」

「ううん、早くいこ!」

「うん」


 俺のお腹の上で女の子座りをしている舞が視界に入り、舞は俺と視線が合うとおはようと愛らしい声色と口調で言う。

 そんな舞に自然と笑みが零れ、おはようと返す。すると舞は朝ごはんというのを伝えに来たらしく、俺のお腹から退くと小さな手で俺を手招く。

 俺はゆっくりとベッドから降りて数回パチパチと瞼を動かす。そして改めて舞を視界に入れると、ブラウンの髪が元々のボブの髪型の原型を留めずにぼさぼさになっていた。

 恐らく寝ている時にこうなったんだろうが、何度見てもすごい。うん本当にいろんな意味ですごいと思う。


「おはようございます」

「んーおはよう、今日の舞もすごいでしょー」

「ええ、本当にすごいです、いろんな意味で」


 亜依あいさんとそんな会話を交わすと椅子に座り、朝食が並べられたテーブルを何気なく見る。

 すると、隣に舞が座ってきて小さな手でスプーンとフォークを両手に握る。


「じゃあ食べよっか、いただきます」

「「いただきます」」


 亜依さんの合掌に次いで俺と舞も一緒に合掌をする。本日の朝食は目玉焼きにソーセージ。そして昨日の残りであるシチューだった。

 湯気の立つシチューを目を輝かせて見つめる舞。そんな舞を暖かい目で見つめながら朝食を口に運んでいる亜依さん。今日も九十三つくみ家はいつもと変わらず平穏な一日が始まる。

 今日は土曜日ということで休みのため一日中家にいるか、どこかに出かけるかの2択なのだが、どうしようか。

 そう考え込みながら朝食を口に運ぶ。

 今日も亜依さんの作る朝食は美味しく、そこら辺のファミレスの朝食とも引けを取らないほどの美味しさだった。実際にファミレスの朝食を食べたことはないが、まあそれほど美味しいということだ。


りょうくん? どうしたの?」

「え? いや~、今日何しようかなっと思いまして」

「ああ、そうゆうことなの......じゃあ後で舞と一緒に買い出しに行ってくれてもいい?」

「分かりました、何を買ってこればいいですか?」

「う~ん、そうね~......ウスターソースと、ひき肉を買ってきてもらおうかな」

「ということは今日の夕飯はハンバーグですか?」

「そうしようかなって、お昼は私が適当に作っておくから」

「そうですか、舞? 今日はお兄ちゃんとお買い物に行こっか」

「いくー!」


 舞のまではやはりいつもの俺ではなくなり、もの凄く甘々しい口調となって傍から見れば幼女相手に甘々くなっている気持ち悪い奴などと写るだろうがまあ仕方がない。だって無意識でこうなってしまうのだから。

 そんなことはさておき、朝食も食べ終わったので食器を流し台に置いて水に漬けると買い物に出かけるための準備をする。

 服装は適当に亜依さんがクローゼットに掛けていてくれた服を手に取って身に着ける。そしてチェストバックを掛けて、その中に財布やマイバックなどを入れると部屋を出て舞がいるであろう部屋へと向かう。


「舞? 準備できたか?」

「ん-、あともうちょっと」

「じゃあお兄ちゃん玄関で待ってるから」


 そう言うと俺は亜依さんに行ってきますと告げてから玄関に向かう。そして少し待っていると、小さい足音が聞こえたため立ち上がって振り返ると、白色のワンピースを着て、ぼさぼさになっていた髪の毛を整えた舞がやって来た。

 その可愛らしい舞に思わず顔が崩れ、ニチャアとまたもや傍から見れば気持ち悪いと思われる表情になってしまう。

 そんな俺の表情を見てなのか、舞はコトンと首を傾げて小さなピンク色の唇を動かす。


「どうしたの? 早くいこ!」

「あ、う、うん......」


 少し言葉が詰まったが、まあ舞が可愛すぎるのだから仕方ないだろう。うんそういうことにしておく。

 そしていってきますと舞と共に少し大き目な声で告げてから家を出ると近くのスーパー目掛けて歩き出す。

 舞と二人っきりで出かけるというのは先週にも行ったが、それでも久々に感じてしまう。これは舞をを愛しているからなのか、それともただ俺の感覚がおかしいだけなのかよく分からないが、まあいいだろう。

 やがて舞と学校の話題で盛り上がっていると、スーパーに着く。そして俺はかごをもって店内を回る。

 そして亜依さんから頼まれた品をかごに入れると、ありがた迷惑になってしまうかもだが、他に必要そうなものをかごに入れる。

 すると、ちょいちょいと服の裾を引っ張られる。気になって見てみると、どこか不安な表情をした舞が見上げていた。


「ん? どうした?」

「おかし......」

「ああお菓子ね、一つ......いや、二ついいよ」

「やったーー!!」


 やはり甘すぎる気がする。後に亜依さんに怒られてしまいそうだが、舞が喜んでいる姿が今見れているので後の事は未来の俺に任せることにする。

 そして舞の後を着いていくと、お菓子コーナーに着いて舞が選び終わるまで舞の後姿を見つめながら待機する。

 少しして舞がお菓子を二つ手に持って俺の方へ歩いてくる。そして背伸びをして俺が持っているかごの中に入れると、俺の隣に着く。

 ああ、心が癒される。......おっといけない、早く帰らないと昼食に遅れてしまう。

 そう思うとレジに直行し、会計を済ませる。そして舞と談笑しながら帰宅するが、舞が着いていけるほどの速さで歩き、帰宅する。


「ちょっと遅かったけど、まあベストタイミング! 丁度お昼ご飯できたから早く手洗いうがいをして席に座って」

「は、はい、分かりました!」


 亜依さんに催促されたので舞と共に手洗いをすると昼食が並べられたテーブルの前の席に座る。

 そして朝食と同様、亜依さんの合掌と共に俺たちも合掌をする。今日の昼食はトマトケソースのスパゲティで、出来立てなのか熱々だった。

 だけど少し息を吹きかけて冷ませば食べれるくらいだったのであまり気にしない。

 スパゲティはトマトソースの味がしっかりと効いていてすごく美味しい。俺は語彙力が皆無なのでこれぐらいの感想しかできないがとにかく美味しかった。

 そうやって昼食を食べ終わると各々自由なことをする。亜依さんは食器洗いをしてから夕食の準備をするとのこと、舞は玩具で遊ぶらしい。

 俺はというと自室で夜まで勉強をするだけだった。まあ来年には受験なので二年生の時から勉強をしておいた方が良いということは分かっているので勉強尽くしだ。

 まあそんな面白味のない一日だが、そんな一日が、毎日が俺は好きだ。

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