第十三話・・・本題に

 霧島きりしま宅へ赴いてから夕飯を貰い少ししてから、俺は霧島にとある部屋に連れられていた。

 その部屋は長机が赤色の絨毯の上に複数個並べられており、誰もいないのに威厳のある空気感を放っている。

 今から何をするのかさっぱりわからず頭上に疑問符を浮かべていた。しかし何を尋ねても霧島や桐ケ谷きりがやが何かを口にすることはなかった。

 そして霧島がいくつもある椅子の中から一つ座ると、その横に桐ケ谷が座る。俺はというと、どこに座ればいいのか、こういう家でのマナーが一切分からず部屋の入口で固まっていた。



「ふふ、好きなところに座ってくれたまえ」

「いや、え? 好きなところって......こういうところのマナー知らないんすけど」

「さあさあ、どこに座るんだい?」



 意地悪な顔を浮かべている霧島に、それを澄ました顔で見る桐ケ谷。そしてどこに座るか頭を抱えて悩んでいる俺。傍から見れば何があったのか全く見当もつかないだろう。

 しかし、このまま立ち尽くすだけでは何も物事が進まないので取り敢えず適当に座ることにする。

 すると意地悪な顔を浮かべていた霧島が大きく笑い声を上げる。そして椅子に腰を下ろしている俺に指を指す。



「く...ふふ、そこ、一応上座、なんだけど」

「え!? す、すいません......てか笑わないでくださいよ! 俺何も知らなかったんですから」

「ふふ......ふう、ごめんごめん、まあ私の前にでも座ってくれ」

「分かりましたよ......」



 霧島の意地悪を呆れながら流し、促された霧島の対面にある椅子へと腰を下ろす。そして視線を上げると、そこには険しい顔をして誰一人として何もできなくなってしまうような雰囲気を漂わせる。

 そんな雰囲気に押され俺は出かけた言葉を飲み込み、桐ケ谷でさえも頬に冷や汗を伝わせている。それほどこの霧島の雰囲気がやばいのだろう。



「それで、本題なんだけど」

「本題、ですか......」

「うん」



 その言葉に俺は思わず固唾を呑み込み、どんなことがそのピンク色の唇から放たれるのか、覚悟を決めていた。そして霧島はゆっくりと重々しく口を開く。



黒見虚リーゲンナイトの居場所について何か知ってたり、見たこととかある?」

「......あなたもそうなんですか? あなたも、俺の事を疑っているんですか?」

「いや、そういうことじゃあない」

「じゃあなんでそんなことを聞くんです!」

「別にキミのことを疑っている訳じゃない」

「じゃあ......」

「まあまあ落ち着いて聞いてくれたまえよ、私はキミのお父さんが喜入きいれちゃんのお父さんと仲が良かった。だけど、私たちの調べによると、キミが生まれる少し前、キミのお父さんは喜入ちゃんのお父さんと喧嘩別れをしてしまったらしいんだ」

「喧嘩別れ......?」



 霧島が口にしたことがさっぱり理解できない。そもそも俺の父さんと喜入のお父さんが仲が良かった何てことすら知らなかったのに。



「キミのお父さんその後から毎日どこかに行ってたみたいなんだよ」

「どこかに......?」

「詳しくはまだ分かっていないんだけどね。その息子であるキミに何かボロを出して居場所となるヒントを教えてないかなって」

「............すいません、心当たりがないです......」

「......そっか、まあいーのいーの、まだ少し時間はある。私たちも頑張るから......あ、あと」

「はい?」

「次集まるのは明日ね?」

「わ、分かりました」



 そう俺が了承すると険しい表情からさっきまでの緩い表情となり、この部屋に漂っていたあの雰囲気も一緒になくなった。

 それにしても父さんは何をしていたのだろうか。今は連絡手段が何もなく、確認する方法がない。だけどどうにかしなければ、こんなことに巻き込まれるのは嫌で断りたいが、人命が掛かっているのであれば仕方がない。それに同級生でクラスメイト、学年のマドンナと言われているのだから助けなければ。



 その後は霧島と少し雑談を交わしてからお暇させていただいた。いつまでもあそこにいる訳にもいけないしな。

 そしてすっかりと暗くなり、静まり返った道路を街灯を頼りに歩き続け、まい亜依あいさんが待つ自宅へと帰るのだった。

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