第十八話・・・出発準備①

 本日、帰路を変えてみたものの、家に帰れば変わらない日常が待ち受けていた。しかし、翌日が双方の両親と話し合うということでまい以外の俺と亜依あいさんはソワソワとした雰囲気で明日のために忙しく準備をしていた。

 そんな様子を舞は不思議そうに見つめていたが、決して話しかけることなくおやすみとだけ、言い残して自室へ入っていった。

 舞にはいつも迷惑を掛けていたと思う。だからできるだけ暇があるときは舞に構っているのだけど、それでも舞は小さいながらもよく我慢してくれている。本当に感謝しなくてはならない。

 土日にでもまた遊んであげないとな、と土日の予定をある程度決めたところでポケットの中に入れていたスマホが振動したことに気付く。別に今すぐしなければならないことがある訳ではないのでポケットからスマホを取り出して通知欄に目を飛ばす。

 そこには随分前に連絡先を交換して俺からは連絡をしない人物の名前が書かれていた。メールの内容に関しては設定で通知欄から見れないようにしているので、一度既読を付けなければならない。

 一度返信してしまえばあとから面倒になるというのは分かっているので、正直返信をするのが面倒くさい。

 しかし、少しでも良心が芽生えてしまっては返信せずには居られず、杞憂な思いでスマホのロックを解除して相手から送られてきたメールを確認する。



「え~っと? ......いや、マジかよ」

「さすがに、明日は無理なんだが......終わった後なら行けるか?」



 メールの相手は後輩の茶立場ちゃたてばで、犬のアイコンから出てきた吹き出しには『明日、時間ありますか? 少し話したいことがあるんですけど』と書かれていて、俺は頭を抱える。

 幾ら面倒な相手だったとしても、一度は共に励まし合った仲間であり、一応大事な後輩でもあるのでどうするべきか思考を回転させる。

 その結果恐らく親父との面会後に時間があると予想し、その時間ならと返信内容を考えスマホに打ち込んで送信する。すると、送信して3秒ほどで返信が来る。

 メールの内容は『じゃあそれでいいです。その時連絡ください♡』と、最後の一文字が余計なこと以外問題がなかったので特に返信をせず、そのままメールアプリを終了してホーム画面へと移動する。

 別に意味もやりたいことがく、適当にホーム画面をスライドさせて遊んでいると小さく、下の方から亜依さんの声が聞こえてくる。



「手伝ってもらいたいことがあるんだけど~」

「あっはい! 分かりました!」



 手伝いを要求されたので素直に返事をして、片手に持っていたスマホをポケットの中に仕舞うと足早に声のしたリビングへと向かう。廊下とリビングを隔てる引き戸を開けた先には亜依さんを中心にして同心円状に散乱している沢山の物。その中には一体何に使うのか分からない物も混ざっており、何をしたいのか、何をして欲しいのか全く以て分からない。

 俺の姿を視界に捉えた亜依さんはにへっと柔らかい笑みを浮かべてから後頭部に手を付けて言いずらそうに話し始める。



「ごめんね~散らかってて、それで手伝ってほしいのなんだけど、明日の準備を手伝って欲しいの」

「明日の準備って、特に用意するものなんてないと思うんですけど」

「いや~ちょっと会う所が変更になっちゃってね? そこが少し遠い所で一泊二日になっちゃって......」

「......は?」



 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。いや、誰しもそうなっておかしくないだろう。だって明日が面会日当日で、前日の夜に言われても準備ができない。それに他にも色々な課題が浮かび上がってくる。

 ほぼ変えることのできないことだが、思わず反論してしまう。



「遠いって、どこら辺何ですか......?」

「え~っと......飛騨?」

「岐阜じゃねぇか! いや、ここ東京ですよ?」



 亜依さんの口から出てきた地名に信じられず、普段亜依さんに使わないタメ口で抗議するも、亜依さんは変わらず柔らかい笑みを浮かべたまま「どうしよ」だったり「仕方ないよね」と若干諦め気味になっていた。



「......別に俺はまだ何とかなりますけど、舞はどうするんですか? 預けられる人も場所もないでしょう?」

「それに関しては大丈夫。さっき学校に連絡を入れて休む旨連絡を入れたし、一緒に連れて行くってあの人たちに連絡を入れて舞にも確認したから」

「う~ん、準備がいいのか悪いのか......取り敢えず行くんだったらすぐに準備しないといけないって訳ですよね、取り敢えず亜依さんは自分の分を準備してください。舞は俺がしときますから」

「え、あ、うん......でも、何を準備をしたらいいのか」

「あんた大学生でしょう!?」



 何か小学生か中学生を対応している気分になったが、そんなことは時間がない今、どうでもいいことなので深く考えることはせず、俺は舞の部屋になるべく音を立てずに入るのだった。

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