第五話・・・明晰夢

 眠気と戦いながら学校に着き、自分のクラスまで行く。すると担任が教室で何か仕事をしていたのか、教室の南京錠が外れ、扉は開け放たれた状態で放置されていた。


 そのため職員室に鍵を取りに行く必要がなく、正直今の状態で職員室で呂律が回る自信がなかったためラッキーだ。


 そして誰かがもう教室の中に居たら少し気まずいななどと考えながら教室の中に入る。だが教室の中には誰もおらず、シーンと静まり返っていた。それはもう嵐の前の静けさみたいに。


 だがそんな都合のいいことが起きるはずないと勝手に思い込んでそのまま自分の机へと向かう。そしてそそくさと学校指定のカバンから荷物を取り出して机の中へ入れ、カバンを机の横に掛ける。


 ここまではいいものの、早く着きすぎた故、することが無くなってしまった。こんな眠い状況で勉強をする気力が出るはずがなくただぼーっとする。


 するといつの間にか寝ていたらしい......だが意識はある。というか夢? の中に入っているようだった。


 所謂明晰夢というものなのだろう。しかし視界一杯が黒色で染められている。


 それは一時的なものだったらしく、すぐに夢の内容が視界に写った。


(っ!? これは......)

(なんで...)


俺の視界に写ったのは...いや見てしまったのは思い出したくなく、暫く前に忘れたと思っていた``過去``だった。


『ごめんね諒。多分ママのせいだよね』

『そうだぞ! お前のせいで諒は!』

『おかーさん? おとーさん? どうしたの?』

『諒は部屋に戻って寝てなさい!! お父さんはお母さんと少し話があるから』

『う、うん分かった』


 俺の母が机の上で寝そべりながら今にも消えそうな声で俺に言葉を掛ける。その言葉にほぼ関係がないであろう俺の父が大声で母に怒号を飛ばす。


 そして子供の俺は何が何だか分からず疑問を飛ばすが、次に飛ばされた言葉は俺の疑問に対する答えではなかった。


 父に部屋へ行って寝るよう告げられた俺は、父の恐怖によるものなのか素直に言うことを聞いて自室へと向かう。


 だが幼い頃の俺は湧いてくる好奇心に勝つことができず、階段の陰に隠れて両親の会話を聞くことにしてしまった。もしここで好奇心に勝ち、素直に寝ていれば後になって後悔することはなかったのだろう。


『お前があんなのにかからなかったら諒にもかからなかったのに!!』

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

【かかる? おかーさんは病気なの?】

『はあ、どうせお前はもうじき死ぬんだ、なんかもう愛想を尽かした。ここは俺名義の家だ、それにローンを払っているのもだ。お前もうここから出ていけ』

『で、でも! まだあの子には母親が必要な時期なのよ?』

『うるせぇ! 俺が育てるんだよ!』


 声を荒げ、母親にとって、愛すべき人に対して言ってはならないことを言う父親。


 そんないつもの様子から豹変した両親に幼かった俺は理解が追いつかなかった。すると母親は涙を流しながら幼い俺がいる階段へ向かってくる。


 さすがに理解が追いつかず、幼かった俺でも見つかったらヤバいと感じたのだろう。俺は音を極力立てずに階段を上って自室に入る。


 もし両親のどちらかが俺の部屋に入り、起きているところを見られたら怒られるか心配をされると思ったんだと思う。幼き俺は布団に入って寝ているフリをする。


 そして幼さ故か、寝ているフリをしているうちに寝てしまった。


 それと同時に俺の夢(?)が終わり、俺の意識は現実に戻り、眠りから覚めていた。眠りが覚め目を擦っていると、ちょうど隣の席から視線が飛ばされているように感じた。


 その視線が何なのか気になり隣に頭を回すと......


「おはよう。九十三くん、だよね?」

「君は......確か、学園のマドンナって言われてる喜入 美海きいれ みみだよな?」




 私はせんぱいと校門で別れてから部活の朝練のため部活用の更衣室に向かっていた。


 私はせんぱいが``入っていた``柔道部の一部員だ。せんぱいも柔道部に所属していて、黒帯相当の実力を持っていたものの、ある日突然柔道部から姿を消した。


 なぜなのか柔道部部長に聞くと、部長も分からないらしい。突然退部届を手渡され、その翌日の練習から来なくなってしまったらしい。


 それをせんぱいに聞こうとしたら部長が『ただ私の感覚なんだけど、あの子にも何か事情がありそうな、そんな感じがしたんだよね』と少し遠回り気味に私がせんぱいを問い詰めることを阻止する。


 その意図を汲み取り、募りに募った疑問を何とか心に留めたのだ。


「ま~み~、どうしたの~?」

「あ、いや少し考え事をしてて」

「考え事に集中するのはいいけど~、ちゃんと着替えてよ~?」

「え? 本気で忘れてた......」


 今私に話しかけて忠告してきたのは私の親友である南 享子みなみ きょうこだった。

 そして朝練の始まるギリギリで着替えが終わり、急いで学校にある柔道場へと向かって今度ある大会のために朝練に励むのだった。




「ハハハッ諒くん。君はいつになっても過去の事は忘れることはできないんだよ?」

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