第十話・・・気まずい雰囲気

 なぜ俺は了承してしまったのだろう。俺は目立たず、ただ普通の青春を謳歌できればそれでよかったのになぜ『打倒! 黒見虚リーゲンナイト討伐隊!』などという変な組織に入ってしまったのだろう。

 過去の自分を殴りたい。今全盛期の頃の力で。


「ね~せんぱい~本当によかったんですか~?」

「いや、よくないよくない」

「じゃあどうするんですか?」

「バックレる」

「それはダメですよ......」

「じゃあどうすれば?」


「まあ、何とかなりますよ、せんぱいなら」

「そういうもんなのかよ~」


 呆れながらも俺の疑問に適当に応えてくれる茶立場ちゃたてばに内心少し感謝をしつつも結局答えが出なかったため頭を抱えたい。だがここは一応公共の場でもあるのでやめたが。

 

 そして、存在が忘れられていたであろう陽キャ男子と柔道部員は俺たちが何をしていたのかさっぱりといった感じで頭上に疑問符を浮かべている。

 だが教えることはできない、恐らく教えてしまったら俺の身が保証されなくなるだろう。


「あれだろ? この学校の奴らじゃないんだろ?」

「いや? ここの学校の生徒会ですよ?」

「......は?」

「だから、うちの胡正高校生徒会が秘密裏にしてるのがソレなんですよ」

「......面倒くさ」


 なんとこのクソださネーミングを決定させたのは生徒会だったらしい。うちの生徒会役員を決めたのは誰なんだ! ......ブーメランが刺さっているような......

 そんなことはいい、なぜ生徒会なんかと関係を持つことに。


「ん? なあ茶立場、いつどこに行けばいいか聞いたか?」

「いやなにも聞いてないべ~」

「あの教師殴ってもいいか?」

「どうぞご自由に」


 気のせいかもしれないが、少し茶立場が素っ気ない気がする。だがまあ気のせいなのだろう、うんそういうことにしておこう。

 まあ適当に生徒会室に行けば何とかなるだろう。

 楽観的な結論に至り、後輩の茶立場と別れて後ろのばつの悪そうな顔をしている3名と重い雰囲気を纏いながら教室へ戻る。


 教室に入った途端クラスメイト全員の痛々しい視線が俺に集中するのだが、後ろの三人を見て何かを感じ取ったのか、ぎこちなく視線を黒板や机の上、窓の外へ飛ばす。


「お、おかえり」

「すいません、授業すっぽかして」

「あ、いや事情は多少知ってるから大丈夫だが......」


 俺と後ろの三人が纏う重い雰囲気を感じ取ったのだろう、黒板の前に立っている数学教師が気まずそうに声を掛ける。

 俺は謝罪を口にして会釈をすると自分の席に向けて足を運ぶ。


(やべ~~~、授業すっぽかしたら追いつくまで時間かかるじゃねえかよ)


 自分の席に腰を下ろすと心の中で愚痴を零すが、外面は何もなかったかのような無表情で、頬杖をついていた。そして、何も関係がなかったのについて来た三人が数学教師に叱責を受けている姿を眺める。


 そのあとは何もなかったかのように授業が始まったのだが、やはり少しいつもとは違う雰囲気が教室に漂っていた。




 時は少し流れ、放課後。俺は今日はさすがにないだろうと思いながらも生徒会室の扉の前に立っていた。


「さすがにな、当日にあるわけないだろ......そう信じたい」


 独り言を呟き、何度か深呼吸を繰り返すと俺は扉に手を近づけ、数回コンコンとノックする。すると、扉の向こうから小さく「どうぞー」という声が聞こえたため、ゆっくりと横開きの扉を開ける。


 視線の先には小さく華奢な体つき、夕陽に照らされ光る茶色い長い髪をした少女がデスクの向こう側にある少し装飾が施された椅子に腰を下ろしている。


「いらっしゃい、九十三 諒つくみ りょうくん」

「......君は確か」

「あら~、先輩に向かって君呼ばわりとはまったく、躾がなってないな~」


「まあいいでしょういいでしょう、では軽く自己紹介を、私はこの胡正高校生徒会会長の霧島 瑠偉きりしま るいだ。そして『打倒! 黒見虚討伐隊!』の隊長でもある。以後お見知りおきを」

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