第二十三話・・・迎え
しかしいつ、どこで親父と出会ったのか。そして親父は何故亜依さんを車に乗せたのか、それが次なる気になる点だった。
その疑問を晴らす前に亜依さんが俺と
やがて太陽から降り注ぐ日差しによって眩しい程に輝く車止めを通り越し、商店街を出ると俺たちが来た時とはまた違う雰囲気に包まれた駅周辺の光景が目に入る。そこには人々が歩道を縦横無尽に歩き、様々な話し声によって喧騒としている。
亜依さんはそんな光景に目もくれず、歩を進める。引っ張られている俺たちは亜依さんの歩くスピードと合わせなければならないので、段々と疲れが見え始めて来る。
そんな時だった。「キャッ」という可愛いらしいが、悲鳴とも受け取れる声と共にドサッという音が少し後ろで聞こえて来る。俺は思わず振り返ると、亜依さんと手が離れ、ベッドに俯せになるような体勢で両手を顔の横に地面と接地している舞の姿があった。
俺は直ぐに亜依さんを止めて舞に駆け寄ろうとする。だがそこで一つの影が舞に近づいていることに気付く。その影は舞に向かってしなやかに、そして丁重に手を差し出している。
舞は困惑しているようで、その一つの影を見ながら硬直していた。
「舞! 大丈夫か!?」
「え、あ、おにーちゃん。うん、だいじょうぶだけど......」
「良かった......」
「おにーちゃん。このおじさんはだーれ?」
「おじさんだなんて失礼な。僕はまだ40前半だぞ?」
「すいません......って、親父......?」
「おぉ、やっと気づいたか。走ってくる途中で気づかなかったのか?」
「舞の事が心配で、お前みたいな虫けらは眼中になかったんだよ」
「おっとこれは失礼。大分嫌われてるみたいなようで」
舞に手を差し伸べた影の正体は俺の親父だった。スラッとした細い体つきに黒いビジネススーツを身に着けている姿はさながら長年会社の営業部務めた少しイケてるおじさんのようだった。
そんな見た目に付け加えて紳士だというのだから親父に恋する乙女の数は底知れないだろう。そんな親父だが、一つ難点もあったりする。それは昔から一度酒を飲めば急性アルコール中毒の一歩手前まで呑み続けたり、無意識に手をあげてしまうほど酒癖が悪いのだ。
っと、親父について内心で語ることは一旦止めにしよう。そんなことを考えるよりもまずは最もなことを質問しなければならない。
「なんで亜依さんと来た?」
「なんでって、そりゃあ一人で街中をほっつき歩いている自分の娘を見たら見てないフリなんてできる訳ないでしょ」
返す言葉が見つからない。確かに親父は亜依さんの父親でもある。だが本当に俺たちの事を思っているのであれば同居をするはず。なのにそれをせず、別居という判断で関わり合いなんて全くなかったのに急に自分の娘だからと言い出すのは少しおかしくないだろうか。
内心そんなことを思っていると、亜依さんが俺の手首に手を掛けて一言呟く。
「もう、いいから。あとは宿に着いたら話そう?」
「......分かりました」
亜依さんを困らせるのは嫌なので、亜依さんの言葉に従うことにした。
そして俺たちは親父に導かれるように黒いセダン車に乗り込み、宿に向けて出発するのだった。
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