第三話・・・私がオタクになった理由

 恋心に気付いてから私は部活で九十三先輩と出会うたびに胸がはちきれそうになるほどに鼓動が打ち付けられる。そして、九十三先輩に恋心を気づいてもらいたかったのか猛アタックをするも九十三先輩は鈍感なのか、それとも気付いていないフリをしているのか一方的に話をを聞いて微笑み、少し反応を返すだけだった。


 一向に私の気持ちに気付いてもらえなかったため、私は嫌われているのではないか、もう九十三先輩には彼女がいて仕方がなく関係を保っているだけではないのかと考える日が何日も続く時があった。あるときもう限界だと感じ、親に体調が悪いと言って仮病を使って休んだ日。


『あ~学校休んじゃった、まだ一回も休んだことなかったのになあ』

【隆一君、私......隆一君が好きなの!】

【え? 俺もだぜ! お前とは一生の友達だからな!】

【そうじゃないのに......】

『こんな時間にアニメ......?』


 リビングでソファを購入した際におまけとして付いてきたクッションに顔をうずめて学校を休んでしまったことを反省する。すると平日の真っ昼間にも関わらずアニメがテレビで放送をしていることに気付く。

 さらにそのアニメはラブコメと呼ばれるものだった。私はアニメというものには全くと言っていいほどに興味がなくヲタクという人々に嫌悪感すら抱いていた。

 しかし学校を休んでしまいやることがなかったためアニメを見てみることにした。


【なんで、隆一君は私の気持ちを分かってくれないの......】

【なあ今日のお前、なんかおかしいぞ?】

【それは! ......いや、言ったとしても隆一君は気付いてくれないんだろうね】


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『うっうう、なんて可哀そう......これがアニメ......好き!!!!!』


 私はこのラブコメを見て感動し、アニメがこんなにも素晴らしいものかと身をもって知ることができた。その後、私は空いた一日をアニメに使い切った。


 翌日。今日は学校に行こうと思い学校へ向かう支度を始める。そして学校へ登校し、普段と変わらず授業を受ける。今日は部活動が休みの日だったため帰りのホームルームが終わってすぐに学校を飛び出し、家へと下校し始める。


 この一日大半で思っていたことは......『アニメの続きが見たい!』という欲望のみだった。

 家に着くと手を洗い、うがいをしてすぐ自室へ向かい、テレビを付け、もともと映画やドラマなどを見るために契約していた配信サイトを開いて途中までしか見れていなかったアニメの視聴を始める。


 そして一話見終わると感傷に浸る。これの繰り返しを夜遅くまで繰り返した。おかげさまで私は翌日学校に遅刻しそうになった。しかし、私はこれまで生きてきた中で本気で取り組める趣味というものがなかったため、このアニメ視聴を、ヲタク活動を趣味にしていきたいと心の底から感じた。




 今思うと何かアニメヒロインに近しいような、そんな気がしてきた。だがまあそのおかげで今、せんぱいとの繋がりがある。そう考えると良かったと思えてきた。

 しかし、さっきの出来事。そうせんぱいと私がお風呂に入っていたという事件だった。(※混浴ではありません。それぞれの家です)


 せんぱいの浴室が隣にあるというのに今まで気づかなかった自分に今までなぜ気付かなかったんだと猛省するのだった。




 隣で茶立場が何をしていたのかさっぱり分からなかった。しかし水の音がしたため、皿洗いなどの水を使う何かをしていたのではないかという憶測を立てる。

 そんな憶測を立てていると、さすがに長く湯船に浸かりすぎたのか、少しのぼせてきたような感覚が体を駆け巡る。このまま浸かり続けているとさすがに危ないと感じ慌てて湯船から飛び出し、浴室を退出する。


 浴室の隣は脱衣所の為、当たり前のようにタオルと着替えが置かれていた。しかし、俺は今回着替えを脱衣所に持ってきた覚えがなかった。完全に忘れてきたと思っていた。だけど、扉の前にポツンと綺麗に立溜めれて置かれている。


 目から受け取れる情報で俺はある一つの憶測を立てることができた。それは......


「まさか......亜依さんが持ってきてくれた......?」


 そう考えると恥ずかしくなってきた。別に自分の着替えを見られたり、持ってこられたからどうこうということではなく、自分が着替えを持ってくるのを忘れ、それを誰かに持ってこられたという自分のミスが恥ずかし思ってきたのだ。


(あとできっちり感謝しないとなあ)


 そう思いながらタオルで体全身から水を拭き取ると、着替えを手に取って着る。着替え終わるとドライヤーと櫛を手に取り、髪の毛を完璧に乾かす。すると俺はそそくさと脱衣所を出てリビングへと向かう。


「あ、亜依さん」

「どうだった? 久しぶりの湯船は」

「控え目に言って最高でした......それと着替え、ありがとうございます」

「いいのいいの、着替えがなかったら困るでしょ?」

「なんかもう、お母さんにしか見えなくなってきた......」


 俺がそう口にすると、亜依さんはリビングにあるソファで座って読んでいた本に視線を落とし、どこか寂しそうな表情をして、ゆっくり口を開く。


「ちゃんと血が繋がってるお母さんがいるんだから、あまりそういうこと言わない方がいいよ」

「......そうですね、すいません不快にしてしまって」

「い~や? 全然不快に思ってないよ?」


 口ではそう言っているものの表情や声のトーンで少し不快に思っているような、だけど寂しそうなそんな雰囲気を彼女の事情を知っている俺からしたら漂わせていることに勘付いてしまうのだった。

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