第二十話・・・大丈夫なのか?

 寝坊をしかけたものの、寝る前に準備をしていたおかげで、走ればバスに間に合うぐらいの時間に身支度を終えた。二人はもう既に玄関へと言っていたが、俺は少しリビングを眺めていた。



「もう家を出ないと間に合わないよー?」

「あ、はい、今行きます」



 亜依あいさんにそう言われたので、リビングを後にする。この三人でこの家に住み始めてから一度も遠出という遠出をしたことがなかった。そして一日二日ほど家を離れることもなかったので、少し寂しさを覚える。だが、そんな寂しさも時間に追われていると考えると勝手に急がねばと思考が切り替わり、亜依さんとまいの待つ玄関へと向かう。

 そこには最終的な身支度を終え、後は家を出るだけの二人の姿があり、俺も素早く靴を履いて、バッグを担ぐ。交互に亜依さんと舞へ視線を飛ばしてから、家の扉をゆっくりと開ける。

 築年数が多少古いので扉が軋みながら開く。ただ住み始めから少し経つと、その音にも慣れて全く気にしなくなった。

 家を出てすぐ、俺たちは同時に頷いて、100mほど離れた場所にあるバスの停留所まで走り出す。50mの地点まで来たところで角からバスが姿を現してきた。間に合うか間に合わないか、それくらいシビアな状態。

 そして、バスが停留所へと着き、車体が傾く。その時、バスの運転手が俺たちに気付いたようで、小さく手招きをしてくる。そのおかげか、俺たちは無事バスに乗り込むことができ、車内も案外空いていたので、亜依さんと舞を席に座らせることができた。

 その間実に1分30秒ほど。本当に間に合ってよかった。それからは多少時間に余裕ができたので、駅に併設されているコンビニで飲料物を購入してから、ホームへ向かう。

 俺たちの住む場所は都心から少し離れたと言っても、一応東京なのに加えて、通期ラッシュ帯ということも合わさり、ホームは人でごった返しになっていた。

 即座に、舞が離れないよう手を掴み、先を進む亜依さんの姿をしっかり目に捉えながら足を進める。

 と、ここで亜依さんを先頭にさせたことが裏目に出た。亜依さんは岐阜方面へ行く電車ではなく、都心へと向かう電車へ乗り込んでしまった。その行動に一瞬呆気に取られたものの、すぐに亜依さんに向かってメッセージを飛ばす。



(諒)『亜依さん? そっちは都心に向かう方ですよ?』

(亜依)『え!? 本当?』

(諒)『本当です』

(亜依)『すぐに出るわ』



 そうは言っているが、電車内はほぼ満車状態で、既に扉が閉まるアナウンスと発車メロディーが聞こえてくる。そして、プシューっと扉の閉まる音が聞こえてくる。

 亜依さんは無事に出れたのか、不安に思っていると、亜依さんからメッセージが飛ばされてきた。ㇲアホのメッセージ欄に書かれていたのは......。



(亜依)『出れなかった、テヘペロ』

(諒)『何してんですか!!!』

(亜依)『まあまた次の停車駅でそっちに行くし、諒ちゃんはスマホ持ってるから先に行ってて』

(諒)『分かりました。ちゃんと舞も一緒ですからゆっくり、焦らないで来てくださいね』

(亜依)『了解』



 この人は本当に俺たちに追いつけるのか、と不安になるが、一応大学生で、そこそこ名の知れた大学に通っているため大丈夫だと信じたい。

 過ぎたことをとやかく言っても仕方がない。俺と舞は数分後にやって来た岐阜方面へ行くための電車に乗車する。

 東京から都外へ行くための電車はバスよりかは込んでいるものの都心へ向かう電車ほどではなかった。

 そのため二人で座れるほどの座席スペースが開いており、舞と二人並んでそこに座る。



「おねーちゃんは?」

「え~っとね......亜依さんは忘れ物しちゃったらしくて、お買い物に行ってるんだよ」

「そうなの......」



 心なしか舞の表情が一瞬曇ったように見えたが、その後に二パアと明るい笑顔を見せて俺と二人で行動できることを喜んでいた。



「今日はいつもうるさいおねーちゃんとじゃなくておにーちゃんとだからすっごくたのしみ!」

「こら、亜依さんは舞の為を思って言ってるんだよ? でもまあ、一日くらいはいっか」

「でしょー?」



 愛らしい舞に負けて、許してしまう。子供に弱い親、親バカの気分はこんなのだろうか。そうだとしたら結構幸せそうで、羨ましく感じる。少しすると、電車が動き出し、舞は無我夢中に外の景色を眺めていた。

 その姿に、昨日からあった『舞は楽しめるのか』という不安と疑問が解消されたような気がした。しかし、向こうで何が起きるのか全く予想ができない。もし舞に何か危険が生じるのであれば、この身を削ってまで舞と、亜依さんを家に帰す。

 そんな、不必要に感じる覚悟を決めることにした。

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