外れスキルで完全に社会から脱落していたおっさん、レベルアップの快感を知る。
山本哲
第1話 外れスキル
西暦2100年を過ぎたあたりで、人類は神様に接触した。
まあそれを神様と呼ぶべきだったのかは未だに議論されてるけど、とにかく人類は、自分たちじゃ逆立ちしても勝てない存在と接触したのだ。
神様たちは、自分たちは別の次元で魔族だとか魔物と戦っている、と当時の人間たちに説明した。優勢だけれど、ザコの相手をいちいちしていられないくらいには忙しい。なので人類に協力してもらいたい、と神様たちは言った。
ダンジョン、いわゆる迷宮をつくってそこにザコを送るので人類にそいつらを倒してもらいたいのだ、と。
見返りとして人類はスキルを授かった。
火を吹いたり、空を飛んだり、不死身だったり、漫画や映画のヒーローたちの持ってる能力が現実になったんだ。
おまけに神様たちは、人類が積極的にモンスターを倒すように現実をゲームチックにしてしまった。ステータスオープンと口にすれば自分の能力が数字として確認できるし、モンスターを倒せば経験値が手に入るように世界は変化した。
これなら楽しみながらモンスターを倒せるでしょ。
そんな感じのことを言い残して、神様たちは別の次元に帰っていった。
あとにのこったのは、容姿、知能、身長、家柄に加わる、新しい親ガチャの要素だ。
今日も世界では、産まれた子供の当たりスキルに親が涙を流して喜ぶ横で、親に首を絞め殺された外れスキルの子供のニュースが流れている。
俺は絞め殺されなかっただけマシかもしれない。
俺が生まれ持ったスキルは【進化】というものだ。
五歳のときに政府から通知された文書によれば、
スキル名:【進化】
レア度:A++
実用性:丁
概要:対象のレベルが上限値に達している場合にのみ発動可能。対象のランクを上級ランクへと一段階上昇させる。対象とのレベル差によって左の条件は変動する。
効果対象:所有者、または所有者の半径3メートル以内の者。
え? 強くね? とこの文面だけを見ると今でも思う。
レア度高いし、ランクを上げるってことは使った人間は人間の枠を超えるってことだ。めちゃくちゃ当たりスキルじゃん。
しかし待ってほしい。このスキル、実用性は丁だ。これは甲、乙、丙、丁の四段階の評価のうち、最低の丁なのだ。
いや丁ってなんだよ。そもそも意味わかんねえよという方へ。
これがどれだけ低い評価なのかわかりやすく説明すると、丁の評価をされたスキルを生まれ持った者は生涯独身率が97%を超えているという民間組織からの発表があり、みんながそれはさすがにデマだろと思っていたら、そのデータは政府機関から流出した数字なのだと発覚したことがあった。
それくらいヤバイ。アメリカ式の表記だとF--ランクらしい。
YAVAI.
概要には、対象のレベルが上限値に達している場合にのみ発動可能、と書いてある。
まず人間のレベルの上限値は999だ。これは誰でもそう。人種や性別に関わらず、動物界脊椎動物門哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属ヒトに該当する生き物のレベル上限は999なのだ。
俺のレベルは1だ。
発動できない。
ゴミだ。
けれども、このスキルは俺だけに限らず、条件を満たしている他の人を対象に発動することができる。
ではこれまでに記録された人類最高のレベルはどれくらいだろうか。
329だ。
つまり誰にも発動できない。
やっぱりゴミだ。
いや待て、しかしながら、対象とのレベル差によって条件は変動する、という文章もあるじゃないか、と思った人へ。
たしかにあります。そう書いてあります。
でもこれって、俺と相手とのレベル差で条件はやさしくもきびしくもなるということだ。
俺のレベルが相手のレベルを上回っていたら問題ない。
でも実際は、俺のレベルは1だ。ちなみに俺の年齢38歳の平均レベルは45です。
仮にレベル999の人物がいるとする。その人のレベルは上限に達しているわけだから、本来俺の能力の発動条件を満たしている。
しかし俺はその人よりも圧倒的に低いレベルなので条件は厳しくなる。俺のレベルが1200くらいじゃないと発動できないことになってるかもしれない。
人間のレベルの上限値は999だ。
つまり誰にも発動できない。
どう頑張ってもゴミだ。
俺はこのゴミスキルの持ち主として世間から扱われてきたし、まあいいか、とアラサーに差し掛かったころには諦めがついていた。
モンスターを倒してレベルアップすればスキルポイントが手に入る。
それをスキルツリーに割り振ってスキルを手に入れれば、もう少し人生の立て直しができるかもしれない。実際、俺みたいな落伍者のための国の制度はあるんだ。
でもまあ、外れスキルのおかげで、いざというときは生活に困らないだけの支援を行政から受けることも出来るし、神様が現れたあとの世界でも一般企業は存在するので、俺はそこで細々と働いていければ別にそれでよかったのだ。
じいさんから相続したダンジョンに足を踏み入れ、レベルアップの味を知るまでは。
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