【ご報告だぜ】これからのタイガーチャンネルについて!
アザゼルことおれのじいちゃんは、現在のミカドであるアスタロトからネルザの城を与えられる。
竜帝がネルザの城を放棄し、譲渡先としてアザゼルを指名したからだ。ミカドはこれを許可し、晴れてじいちゃんはネルザの城の主となった。
さらに、ミカドはネルザの街の復興を命じた。城主であり、地方都市の領主にもなっちゃった。すごいぜ。
うまくいくと、じいちゃんは元の肉体とともに失効になった『ミカドの継承権』を取り戻せる、っていう破格の条件付き!
ただ、毛嫌いしているミカドの軍門に下ることにはなっちゃうのは気に食わなかったみたいで、じいちゃんは任命式が終わったあとでおれにだけ「あのボンクラに
「これも修行じゃな」
着任してからのじいちゃんは、まず、テレスの教会からは姉さんたち――ステラさんとクレアさん――を、あとは旧知の友でありミカドの近衛兵の騎士団長なパイモンさんをネルザの城に招集する。この三人を側近として、ネルザの街並みを整備し始めた。
ばあちゃんはもちろん第一夫人と呼ばれるようになったんだけど、この呼ばれ方はお気に召さないようで「サナエって呼んでねっ」と言っている。おれもサナエさんのほうが親しみやすくていいと思うぜ。おれは変わらず「ばあちゃん」って呼ぶけどな。
じいちゃんが掲げた新しいネルザのテーマは『美食都市』だぜ。かつて、初代ミカドがクライデ大陸を統一する前、ネルザが都市国家だった頃からの景観は残しつつ、近代的な改修工事を行いながら、ばあちゃんが得意な日本の家庭料理の〝クライデ大陸バージョン〟を名物料理として定着させる。
ゆくゆくはネルザを起点として『クライデ大陸全体の食のレベルの向上を図っていく』らしいぜ!
おれ?
おれは、タイガーチャンネルを継続していくよ。ギルドは、じいちゃんが抜けちゃったから〝異世界じじまご〟から〝タイガーチャンネル〟に名前を変更した。ネルザの復興に忙しいから、ギルドでの活動を今まで通りにやっていくことはできない。寂しいけど仕方ないよな。
ギルドメンバーは最低でも三人いないといけない。これまではパイモンさんの名前だけ借りて、三人ってことになっていたけども……パイモンさんもネルザにいるもん。おれ一人になっちゃったら、ギルドとしては維持できない。テレスのギルド本部から怒られちゃう。せっかく建ててもらったギルドハウスからも追い出されちゃうぜ。
そこで、おれはギルドに新メンバーを加入させた。
ミライとキサキちゃんだ。
次期ミカドの座を退いて竜帝の看板を取っ払い、継承権も突き返してしまったミライには行き場がない。野放しにしておくと、じいちゃんとの約束を反故にされるかもしれない。
だから、おれのギルドに受け入れてやるぜ、って話になった。
おれは人数問題が解決できて、ミライは住むところを確保できる。
お互いハッピーってわけ。
「――今日も元気でいいですなあ」
これまでの〝異世界じじまご〟のギルドハウスは一階建てで、屋根裏部屋を物置としていた。行く先々で買ったものとか、今後の動画に使えそうなものとかね。
名前を〝タイガーチャンネル〟に変更すると同時に、ミライとキサキちゃんを迎えるにあたって、ギルドハウスの二階を増築してもらった。二人は、見た目はともかく夫婦だから、赤の他人なおれが同じ部屋で住んでいるのは(特にキサキちゃんは女の子だから)気まずいかな、と気を利かせたんだけど、超うるさい。
集合住宅で上の階に子ども連れがいると生活音が騒がしくて問題になるケース、よく聞く話。子ども連れじゃなくて二人とも子どもみたいなもんか。
いや、ミライ。ミライは成人済み男性じゃん。その〝修練の繭〟のあれこれで十三歳の美少年の姿なだけで。おれは騙されないぜ。
床の素材を強化してもらって、その強化費をミライに請求してやる。
覚悟しとけよ。
「はぁ……」
どったんばったんの大騒ぎがようやく静かになったかと思えば、ミライがため息をつきながら二階から降りてきた。何してたんだよ。
「真っ昼間からの男女の営みはおれとしてはちょっとやめていただきたく」
「してねぇわ」
「こっちの文化だって言うなら仕方ないか……」
「話聞けよ」
竜帝の頃との違いとして、王族の正装から上下ジャージ姿になっている。こんな格好でも
決定的な違いとしては、首にチョーカーを巻いていることかな。
じいちゃんの発明品のチョーカーね。
じいちゃんからは「ミライが約束通り動いているかの確認と、キー坊に攻撃をしないように行動を抑制する機能があるから、外させないようにするんじゃぞ」と頼まれている。
「そんでさ、ミライ」
「なんだよ」
おれは普通に話しかけただけなのに。キレなくたっていいじゃん。カルシウム足りてないのかな。さっきのやりとり、そんなに嫌だったか……?
本当に『行動を抑制』してんのかって怖くなってくる。
じいちゃんを信じろ。
「パソコン、使えるよね?」
「まぁ、人並みには」
現代日本で生きていたんだし、どんな暮らしをしてたんだかまでは知らないけど、学校に通っていたんならマウスを動かしたりちょっと文章打ったりはできるよな。よしきた。
「おれの『タイガーチャンネル』のアシスタントになってくれない?」
クライデ大陸での動画素材がだいぶたまってきた。撮影から編集まで、これまではおれ一人でやってきたが、手伝ってくれそうな人ができたじゃん。
というか、ドラゴンなんだし、カメラ持って飛んでもらえば空撮ができるよな。ドローンいらず。クライデ大陸に来る前はドローンの免許取ろうか真剣に悩んでいた時期がおれにもありました。
「オレが?」
「うん」
「……具体的に、何すんだよ」
意外と乗り気だ。おれは動画編集用ソフトの画面を見せながら「やり方は教えるから、こんなふうに字幕入れたり、音楽を付けたり」と軽く説明する。興味を持って見てくれているのがわかると、なんだか嬉しいな。
「あとは、ライブ配信にも出ようぜ」
「オレが???」
「うんうん」
おれのリスナーは男性(たぶん男)が多いから、ミライみたいな声変わりしてない美少年が出てきても需要ない……かもしれない。でも、ひょっとしたら女性リスナーが来てくれるかもじゃん。ミライにはキサキちゃんがいるとはいえ。
おれのほぼ進捗ゼロな嫁探しのためにも何卒。気になる子はいるにはいるとはいえ。ね。
「出てやってもいいけど? 何すんの?」
「基本的には雑談かな。こっち来てからの話を聞きたいリスナーが多いだろうし。リスナーの『こういう動画が見たい』なリクエストを聞きたいぜ」
「こっちの話をすりゃいいんだな」
あと、そうだ。
ミライがミライのまま出るのもなんかアレだよな。ハンドルネームっていうか、ニックネームっていうか。活動名か。これを決めておかないとだ。うっかりおれがミライって呼ばないためにも。
ミライに本名バレして不都合なことがあるかは知らん。
念には念をってやつ。
「活動名何にする?」
「活動名?」
「おれは
「ああ、そういうの」
「なんだっていいぜ」
ミライは視線を泳がせてから、ポツリと「ナイトハルト」と言った。厨二っぽくてかっこいいな。なんとなくミライの雰囲気にも合ってる。もしかして昔名乗ってた系?
「ナイトハルト、ね」
よし。
今度の動画は新メンバー紹介動画にするぜ。
その動画を公開したら、新生〝タイガーチャンネル〟始動!
「あ。タイガーアンドドラゴンチャンネルにしたほうがいい?」
「別にこのままでよくね」
チャンネル登録、高評価、ベルマークの通知オン、よろしくだぜ!
【to be continued】
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