第11話
テレスギルド本部二階の会議室みたいな場所をお借りして、パイモンさん、もとい、パイモン先生による『基礎魔法』の授業が始まった。先生みたいな人から授業を受けるなんて、何年ぶりだろう。
こうやって学習机に座って、先生と一対一ってなると高校の頃の補習を思い出しちまうぜ。
「おれ、じいちゃんに教わりたかったよ……」
じいちゃんは「腰を治してくるぞい」と言い残して、すっと消えた。タネも仕掛けもないマジック。じいちゃん、すげー!
現代日本では一切見せてくれなかったのに。すげーぜじいちゃん。おれだったら見せびらかしてる。
「黙れ小僧。貴様はアザゼルのことを何もわかっていないようだな」
パイモン先生は美人だけども男だ。じいちゃんが言ってたんだから間違いない。若くてきれいな騎士団長サマだから、ころっと騙されそうになっちまったぜ。この部屋を借りるってなったさっきも、部屋の貸し出し申請を承る女性の事務員さん、パイモン先生の美貌に釘付けだったもんな。まあイケメンは何かと得だよ。ただ、じいちゃんのほうがかっこいいぜ。じいちゃんの魅力に気付けないなんて、人生損してる。
「小僧じゃありません。おれにも
「アザゼルは『キー坊』と呼んでいたな」
アザゼルって名前が
「おれはじいちゃんの孫だし、孫ってのはだいたいじいちゃんやばあちゃんからあだ名で呼ばれるものなのです」
「貴様らのいた世界はそういうものなのか」
「そうです」
個人差はあります。あくまでおれとじいちゃんのパターンだけかもしれん。
「ふむ。なら、キトラと呼ばせてもらおう」
「よろしくお願いします!」
貴様って言われるの、なんだか怒られているみたいで嫌だったからよかった。まあ、ちょっと怒っているところもあるのかもだけども。……いや、なんでおれが怒られてるの?
「アザゼルはな、感覚派なのだよ。ゆえにキトラが教えを乞うても、自らのやり方を言葉で表現できないだろうな」
「あー」
じいちゃんそういうところあるよな。言われて思い出す。
おれがじいちゃんの発明品を作るアシスタントを申し出て、実際に手伝ったこともあるんだけど、じいちゃんってば「あれ取って」とか「ここに必要なものを注文してほしいんじゃが」とか、抽象的な指示しか出してくれない。あれがどれだか、おれにはわからない。じいちゃんは怒り出したり舌打ちしたりはなかったんだけども、それはそれとして逆にじいちゃんの邪魔をしてるんじゃなかろうかと思って手伝うのをやめちゃった。ここにこれがどのぐらい必要なんだってものも、設計図が共有されていないおれにはわかるわけないじゃんか。共有されていてもわからないかも。
じいちゃんは長いこと一人でやってきたんだから、じいちゃんのやり方を尊重してやるのが孫のつとめよね。
「だから、パイモン先生が教えてくれるんですね」
「ああ、そうだ。基礎、理論、実践と、な。段階を踏んでいけば、誰でも理解できるだろう」
おれの机の上に分厚いテキストが現れた。表紙には可愛らしいイラストと『基礎魔法』の文字が踊っている。あと、ほどよく削られた鉛筆。ますます学校っぽくなってきたぜ。
「クライデ大陸では初等教育の内容なのだからな。六歳の子どもが学ぶ内容を、今からキトラは学習する」
テキストの一ページ目をめくってみる。――街を歩いていたときも思ったけど、クライデ大陸の公用語って日本語なのな。おれにとっちゃ、慣れ親しんでいる言語だからいいけどさ。
「はい先生」
「なんだ? 読めない文字があったか?」
「読めすぎて違和感があります」
パイモン先生は「ふむ」と言うと「ライトさまと同じセリフだな」と知らん人の名前を挙げる。別のページに書いてあるのかな、とおれはパラパラとページを追っていくと『クライデ大陸年表』にたどりついた。
「
年表の一番新しい項目――もっとも左側に、現ミカドのアスタロトと神崎灯さんという女性の間に第一子が産まれたことが書かれている。これが二十六年前の話っぽい。歴史を遡れば、神崎さんが『現代日本』から時空転移してきたことも記されていた。神崎さんも日本語が通じることに驚いたんだろうな。いっしょいっしょ。
時空転移は年表に載せるぐらいの重大事件なら、ばあちゃんがこっちに来たことも書いてくれよな? ……二年前だから間に合ってない、ってわけでもないよな?
というか、ばあちゃんも魔法使えないんじゃないかな。あれ。どうなんだろう。隠れてこっそりじいちゃんから教わってたとか、実は魔女の血筋だったとか、聞いたことないし。こっち来てから、どうしてたんだろう。そして今はどこにいるんだろう、ばあちゃん。
日本語が通じるだけマシって考えもできなくはない、とはいえ。
「クライデ大陸で使用される文字は、太古の昔、クライデ大陸の王となった初代のミカドのクシャスラ様が作成したものだ。初代のミカドのお考えは、書物に残されていないのでわからぬ」
初代のミカド。年表の一番最初が、その初代さんがミカドを名乗るようになった、から始まっている。
「この人が日本人だった?」
「それもわからぬ。初代のミカドは、ご自身のお姿が後世に伝わるのを嫌っていた。ある貴族が彫刻家を雇って作らせていたものを、民の目の前で破壊し、その貴族と彫刻家を晒し首にした――と」
「残酷!」
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