特別編

【クリスマス】ギルマスなのにギルドハウスを追い出された件

 クリスマスイヴに寒空の下へ放り出されるギルド『タイガーチャンネル』のギルドマスターであるはずのおれ。可哀想じゃない?


「いくらなんでも寒すぎるぜ……」


 大した防寒対策をしていない。ぶるぶる震えながら歩いている。本日の装備は、長袖長ズボンにスニーカー。ズボンのポケットにスマホ。以上。これだけ。たまに真冬でも半袖の人を見かけるけれど、おれはそこまで寒さに強いわけじゃないぜ。寒い。すれ違う人はコートやダウンジャケットを羽織っている。おれもほしい。


「うーーーーー」


 信号待ちが恨めしい。うなっていたら、父親と手をつないでいる小さな男の子に見上げられた。クリスマスのプレゼントを買ってもらいに行くのかな?


 最近のサンタさんは正体をバラしておくスタイル?

 ご家庭にもよるか。


「うー……」


 気まずいぜ。


 ――なんでまあこんなことになったかというと、率直に言えば、今日がクリスマスイヴだからだ。おれのギルドにはミライとキサキちゃんがいて、おれと三人で『タイガーチャンネル』というギルドとして成り立っている。クライデ大陸のギルドは、メンバーが三人以上いないといけないルールだぜ。


 ミライとキサキちゃんをふたりきりにするには、おれが出て行かないといけない。別におれがいてもいなくてもキサキちゃんは気にしないけど、もう一人のほうは気にするから、おれが空気を読んだ。


 にしても、寒いぜ。クライデ大陸の、特にギルドハウスのある首都のテレスは年中暖かくて過ごしやすい気候だから、ついそのまま出てきてしまった。おれの準備不足。


「お邪魔するぜ!」


 芯まで冷え切った状態で、半分だけ開いたシャッターの下をくぐり抜ける。ここは『シックスティーンアイス』だ。開店前だから、イートインスペースには誰もいない。


「あれ? 桐生くんだ」


 かがみが、おれの声に気付いて裏から出てきた。サンタクロースの格好をしている。


「どうしたの?」

「え、ああ」


 あぶね。見惚れてた。


「あのさー、おれ、行き場がないからさ……今日と明日、ここで働かせてほしいぜ!」

「えぇ?」

「もちろん、サンタでもトナカイでもなんでも着るし、ビラ配りもする。店主の許可をもらえたら、おれのチャンネルで宣伝するぜ!」


 今の格好だと寒すぎるから、コスプレしたほうが暖かいぜ。急な告知にはなるけど、おれのリスナーたちにはクリスマスのご予定がないだろうから、宣伝すれば来てくれる人がいるはず。


「いいの!? ……って手ぇ冷たあ!」


 手を握って一瞬で離された。寒すぎたせいで、そりゃ、手も冷えている。指先まで感覚がない。


「あたたかいお茶、出すね」

「さんきゅ!」

「前におじいちゃんが着ていた衣装があるから、それでいいかな?」

「なんでもいいぜ!」

「いやあ、助かっちゃうなあ……うれしい。二日間いてくれるの?」


 実質、今日の夜が本番みたいなもの。帰ってまた追い出されたら嫌だな。かといって、ここからじいちゃんの家(今のおれの住居)まで帰るのは遠い。車で送ってもらうのは申し訳ないし、電車だと結構かかる。


「できればその、上に、泊めてほしいぜ」


 このビルは一階が『シックスティーンアイス』で、二階より上は賃貸。最上階とその一個下の階が、鏡の母方のおじいちゃんの轟家と、鏡の住んでいる部屋になっている。なんで知っているかというと、何回かお邪魔したことがあるからだぜ。鏡のおじいちゃんが『シックスティーンアイス』の創業者だ。


「う、うん。いいよ?」

「よし! バリバリ働くぜ!」

「……ちょっと、衣装持ってくるのと、お部屋を片付けてくるね?」

「開店準備は?」

「あっ、えっと、だいたい終わっているから、桐生くんはテーブルを拭いておいてほしいかな?」

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ドラゴンのいる異世界を、じいちゃんと 秋乃晃 @EM_Akino

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