【そして旅は】終わりを迎えて大団円!
じいちゃんが久しぶりにじいちゃん家に帰ってきたぜ。……いや、じいちゃん家はクライデ大陸のほう?
「キー坊」
桐生家は桐生家として残しておきたい、というのが、じいちゃんの望みだ。生活の拠点はクライデ大陸の美食都市ネルザだけど、じいちゃんは12歳の頃からこの桐生家の五男として暮らしてきたわけで、こちらのほうが住んでいた歴史がある。じいちゃんのこちらの父親、つまり、おれから見た、ひいじいちゃん、だと思っていた人から、じいちゃんが指名されてこの家の権利を継いでいるし、ひいじいちゃんには恩義を感じているからこそ、残したいんだってさ。じいちゃんらしいぜ!
「なにー?」
じいちゃんに手招きされて、おれは拭き掃除の手を止める。ちょうど休憩したいところだったからよかったぜ。
「高校の頃の写真が出てきての」
「それはいいや」
「なんじゃと」
「だって! 高校の頃って、じいちゃんとばあちゃんが超ラブラブだった頃!」
今でもそうだけど!
今でもそうだけど!
「ほら」
のろけ……じゃ、ない。ばあちゃんがべったべたにくっついているツーショット写真を見せられるのかと身構えていたら、四人写っていた。うち二人はわかる。じいちゃんとばあちゃん。当時から銀髪オールバックでかっこいいじいちゃんと、黒髪ロングのどや顔ばあちゃんだぜ。
「この二人は?」
あとの二人がわからない。ひとりは、おれみたいなツンツン頭でお調子者っぽい感じ。もうひとりは、タモリさんみたいなサングラスをかけている。制服がじいちゃんが着ているのと同じだから、
「知らんのか?」
おれがじいちゃんの友だちに詳しいわけないのに、じいちゃんにはびっくりされた。どういうこと?
「えっ、知らない。有名人?」
「そうじゃよ。キー坊が小さい頃に総理だった」
「マジ!?」
「うむ。
「じいちゃんの先輩!?」
「ワシが一年生のとき、彼らが二年生で、早苗は三年生」
へぇー。それは知らなかった。総理って聞いてから改めて見ると、そんな気が……してこない……。
「学年をまたぐのに、仲良かったの?」
じいちゃん、美術部に入っていたって話は聞いたことがある。けれどもこの写真からは美術部の波動を感じない。
「生徒会じゃよ」
「ああー!」
なるほどね。ばあちゃんが暴れ回っていたっていう生徒会か。こんな、プリクラみたいな密集具合で写真を撮っちゃうぐらいには仲良しだったんだ。いいなこういうの。
「これ、動画にしていいやつ?」
「どうじゃろな……」
「ダメなやつ?」
写真を見ながら、なんだかさみしそうな顔をする。懐かしむ感じとは違って、アンニュイ? というか。そんなじいちゃんもかっこいいぜ。
「二人とももうおらんからの」
「え、亡くなってるの……?」
「早苗には見せるか」
そう言って、じいちゃんはポケットに写真をしまった。この話をおしまいにしたいみたい。
「そうだ! メシ食べに行こうぜ! 腹減ったし!」
「そうじゃな。食べてから、もう少し片付けをするかの」
「おれさ、寿司屋行きたいんだよね。あの、異世貝に乗る前に食べに行ったところ!」
今日、やってるよな。行って営業してなかったら困るぜ。
「ワシはキー坊の彼女の店に行きたいのお」
「彼女って、ああ、鏡の?」
「彼女じゃろ?」
「ま、まあ、彼女なんだけど……」
「彼女じゃろ???」
そういえば、じいちゃんは『シックスティーンアイス』に行ったことがない。アイスを食べたことも、もしかしたらないかも。おれはあちらのじいちゃんとばあちゃんとも顔見知りなのに。
ミライがお土産で買ってきてくれるのはせいぜいキサキちゃんと自分とおれのぶんだけ。じいちゃんのぶんは買ってきてくれてない。じいちゃんはギルド『タイガーチャンネル』には入ってないからかな。
「ここから『シックスティーンアイス』だと、わりと遠いぜ?」
じいちゃん家は田舎だから、愛車のミニバンで都内に出るとなると、今日の掃除はもう諦めたほうがいいぐらいの距離になる。行って帰ってきてはできるけど。
「なんじゃ。キー坊はワシに彼女を紹介してくれぬのか。ミライとは会わせておるのに……」
なんだかじいちゃんがすねてる。じいちゃんは鏡と会ったことあるはずだけど。高校卒業してからは、ないか? ないかも。
「わかったよじいちゃん! 寿司は持ち帰りにして、鏡と食おうぜ!」
「早苗のぶんも買って帰らねばな」
「ばあちゃんのぶんも!」
うーん、散財しているような……まあいいか! こうしてじいちゃんと二人きりっていうのも久しぶりだし! ゆっくりドライブしながら行くぜ!
【異世界じじまご、完】
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