第22話

 ははあ、なるほどね。商魂たくましいぜ。この様子だと、絶対ウケるもんな。ウケないわけがないよ。


「ここの植物園はね、の研究をしているのよ。灯さんと、現在のミカド様の後援のもと、ね。おでんには欠かせない大根だって、こっちにはそれそのものがないのよさ」


 えっ。


 これ、ダイコンにしか見えないけど、ダイコンなのか。糸こんにゃくは、ひょっとしてこんにゃくいもの近縁のおいもから作っているとかそんな感じ……? 小麦は、さすがにあるよな? ないとパンさえも作れないわけだから。こっちの世界の主食って何? コメあるのかな、コメ。


 はんぺんとさつまあげは魚の練り物だ。さっき塩田がどうのって言ってたし、海がないと塩も作れないからなあ。魚は釣っているのか、それとも、投網漁でもしているのか、養殖の可能性だってあるか。というかテレスに焼いた魚があったか。


 がんもどきに厚揚げは、本来ならば両方とも大豆を加工して作る豆腐が必須アイテムになってくるよな。大豆……あるのかな……。大豆っぽい豆をすりつぶして作っている?


 食文化、奥深いぜ。

 この三十年間でQOLが爆上がりしたんだろうなあ。


「どう? 


 じいちゃんは名乗ってないのに。っていうか名乗るとしたら『アザゼル』のほうだろ。現代日本のほうで名乗っていた『悟朗』という名前を知っているのは、おれとばあちゃんしかいない。


「ワシは、キー坊と二人で、早苗を連れ戻しに来たんじゃよ」


 そうだぜ。灯さんの身の上話から、ばあちゃんはしれっと『野望』をぶっちゃけてくれたけどよ。おれとじいちゃんは、ばあちゃんを捜しにクライデ大陸まで来たんだぜ。


「いいや。違うな」


 ドラゴンとその妻との会話に、一人の男が乱入してきた。


「アザゼル。貴様は男だろう?」


 現ミカドの近衛兵の騎士団長を務めるパイモンさんだ。


 じいちゃんとは旧知の友だっていうし、元々、じいちゃんはクライデ大陸の支配者ミカドになるべくして〝修練の繭〟ってのに入って現代日本異世界に来たんだったよな。パイモンさんからしてみれば、じいちゃんは戻ってきたんだからミカドになるのが当然ってスタンスだろう。


 その〝修練の繭〟から生還したらミカドになるのが確定ルートらしいし?


 ミライは他の〝修練の繭〟をぶっ潰しやがったからネルザってところに追放されたわけだし、例外。なんだか『住民が行方不明になる』とかいうきな臭いウワサを聞いちまったしよ。おれとじいちゃんとで、原因を究明して、なおかつ成敗してやらなきゃな。


「聞き捨てなりませんね、パイモン」

「はい。母上。これは背信行為では」


 あっ。


「あ、……その、今すぐにというわけではなく!」

「あなたはタローちゃんよりも、こちらの御仁に仕えるとおっしゃいますの?」

「い、いえ!」


 口が滑ったな、パイモンさん。


 灯さんもバエル様もチベットスナギツネみたいな顔をしてパイモンさんを見ている。こうやって見ると、やっぱり親子だし似ているんだな。男の子は母親に似る、っていう言葉もある。


 そっちはそっちでなんとかしてくれよ。じいちゃんはミカドになる気はないのだし。……ないよね?


「アザゼル」

「あなたの意思を尊重したい、のですが」


 ここにステラさんとクレアさんも参戦しちゃうか。


「姉たちとしては、

「姉たちはサナエの夢を応援します」


 そっちにつくのかよ! そうか!

 死んだと思っていた弟が戻ってきたらこうもなるか!


 ……うわ、二票!?


「悟朗さん!」


 大切なばあちゃんに、大事なお姉さんたち。


 おれとじいちゃんがばあちゃんを連れ戻したら、せっかく再会できたじいちゃんとお姉さんたちを、また引き離すことになっちゃう。ばあちゃんがこっちでの二年間のうちに、自身の料理スキルで信頼を築き上げていった話は理解できた。


 孫のおれは、……おれは。


「決闘よ! 決闘で決めましょう!」


 おれとじいちゃんは、異口同音に「「決闘!?」」と聞き返した。

 ばあちゃん! すっかりこっちの文化に馴染んじゃって! でも決闘って何!?

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