No Home,No Hope

第3話

「ワシの家がない!?」


 おれたちは無事に異世界へと到着したっぽい。家の中じゃなくなってる。なんかみたいなところに降り立ったっぽい。管理地、って立て看板が突き刺さっている。


 管理者は『テレスギルド本部』――ギルド。異世界っぽくなってきやがったぜ。


 おれが開幕即嘔吐しそうになっていたら、じいちゃんはムンクの叫びみたいなポーズをしていた。


 なーに言ってんだよじいちゃんってば。ボケるには早すぎるってばよ。転移で脳みそシェイクされちゃったせいかもしれんな。ここは孫らしく冷静なツッコミをキメていきますかあ。


「異世界にじいちゃんの家があったらおかしいじゃん?」


 じいちゃんはおれの顔を見て、ムンクから悟朗(※じいちゃんの下の名前)に戻ってきた。おれに「キー坊。今から言うことは、全部本当のことだ」って前置きする。着いたら話すって言ってたしな。


「じいちゃんの本名はアザゼルといって」


 なんだその名前。カッケェ。


「ミカドの一族の長男として生を享けて、クライデ大陸のミカドのしきたりにより、十二歳の春に〝修練の繭〟へと入りて、ワシから見たら異世界の『現代日本』に転移した」


 じいちゃんは五男じゃんか!

 と咄嗟にツッコミしそうになったけども、じいちゃんが真面目な顔をしているからやめておく。まだ話続くっぽい。終わってから言おう。しゅうれんのまゆもわからん。急に知らんワードが出てきたぜ。


「ワシはな、ずっと黙っておったが、人間ではない」


 じいちゃんが袖をまくる。じっと見ていると、右ひじから右手までの皮膚が黒いウロコに変化していって、指先が爪に変わった。すげー!


「じいちゃん、ドラゴンなのか!?」

「ああ」

「それなら言ってくれよ! 動画のネタになるじゃんか!」


 すん、と元の人間の腕に戻った。そんな出したり引っ込めたりできるんならいいじゃんか。


「転移先で正体を明かしてはならないんじゃよ」

「なーんでー! かっけーのに!」


 学生時代だったら絶対周りに言いふらしてたわ。おれのじいちゃん、ドラゴンなんだぜって。


「そういうルールなんじゃ。破ったら、家が取り潰される」

「やば」

「……ワシは何も言っとらんのに更地になっとるがの」


 さっき『ワシの家が』って言ってたの、そういうことね。


「転移させられたあと、行き場もなく彷徨っていたワシは、桐生家の、キー坊から見たらひいおじいちゃん――総一郎に拾われてな。悟朗という名前を授かった」


 ふむふむ。


「ワシは、ずっとこちらの世界――クライデ大陸に帰りたかった。ワシの研究成果は、全てこちらに戻ってくるためのものじゃったが、村人の願いを聞き入れるのも悪くはなかった。いずれ、クライデ大陸へと戻れるものと信じていた」


 じいちゃんが帰っちゃってたらおれ生まれてないじゃーん。帰ってなくてよかった。


「早苗……ああ、キー坊のばあちゃんと出会い、竜也たちが生まれて、キー坊も大きくなったから、現代日本に未練はない」


 竜也はおれのオヤジの名前だ。っていうか、じいちゃんがドラゴンで、ってことはおれってドラゴンのクォーターだったってこと!? 超かっけーじゃん!


「――とワシは思って、前回の実験で帰ろうとしたんじゃよ」


 前回の実験。

 ばあちゃんが巻き込まれたやつかな。


「あの時に帰れていたら、家、あったんじゃろか」

「どうなんだろう?」


 じいちゃんが繭? に入ったのが十二歳の時だってんだから、……じいちゃんいくつだっけか。こっちでも時間の経過って一緒?


「ま、ここで途方に暮れてても仕方ないし、何があったのか調べようぜ!」


 おれはじいちゃんに肩を貸す。じいちゃん、腰やってるから。


「そうだな……」


 テンションひっく。

 いやまあ、そうか、六十年ぶり? ぐらいに実家帰ってきて実家がロストしてたら落ち込むか。じいちゃんらしくないぜ。元気出してくれえ。

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