第4話


 持ってきたスマホ、案の定アンテナ立ってない。振ってもダメ。


「そりゃそうじゃろ。電電公社はないからの」


 しゅん。

 リスナーのみんなに、異世界に到着したぜイェーイ、の報告したかったんだけどなあ。ショート動画を載せたい。それすらままならないか。


「この世界のみんなは、スマホなしで暮らしてるってわけ?」


 街の中心部に向かって歩いているっぽい。足元は石畳で舗装されているから、だいぶ歩きやすい。すれ違う人たちは歩きスマホしてなくて、立ち止まってスマホの画面を見ている人もいない。


 道の両サイドには露店が並んでいて、野菜や果物を売っている。あ、こっちは魚の串焼き……! うまそう!


 ネットは繋がらんくてもスマホカメラは優秀。サクッと撮っても高画質。ってなわけで、撮って保存しておくぜ。旅の思い出としてだな。


「伝達魔法があるからの」

「魔法!」


 科学技術ではなく魔法が発達した世界ってこと!? 異世界っぽくて最高!


「そのうちキー坊にも教えよう」

「マジで!? おれも魔法使いになれちゃう!?」

「なれる」


 よっしゃあ!


「こっちでは、日常生活に必要な魔法を十二歳までに習得することが義務付けられていての」


 ま、電話したりメールしたりできないと困るもんな。出かけるにしても、場所わからんくなったらすぐに検索できないと迷子になっちまう。そういうのをその『伝達魔法』でカバーしてるのね?


「おれもできるようになんなきゃまずいじゃん。異世界から来たってバレちゃうぜ」

「簡単だから、すぐにできるようになるぞい」


 やったぜ。

 動画で紹介したろ。


「おっ、異世界っぽいお店発見!」


 会話の途中だけども気になっちゃったんで。


 露店のうちのひとつ、看板にデデンと漢字四文字『魔法道具』とある。こんなわかりやすい看板でいいんだ。っていうか漢字あるんだこの世界。


「いらっさい」


 深緑色のローブを身にまとったおばあさんが、背もたれの高い椅子に座っている。店主ってことでよろし?


「ほうほう……」


 水晶とか数珠玉みたいなのとかに混じって、小瓶に入った『竜の涙』とか『竜の血』とか置いている。ドラゴン系のアイテム、めっちゃ高い。値札の桁が他のアイテムと二桁ぐらい違う。すっげ。


「じいちゃんを泣かせて、涙を詰めたらボロ儲けじゃんか。採血もしとこうぜ」


 冗談めかして言ったら、じいちゃんがマジで嫌そうな顔をした。ごめんやん。


「ドラゴンの体液は、ありとあらゆる病に効く薬となるのさ」


 すぐそばにマジもんのドラゴンがいるってのに、店主っぽいおばあさんはドヤ顔で言っている。ますます変な顔になるじいちゃん。


「行くぞ、キー坊」

「ほい」


 長居してもじいちゃんの表情が曇っていくだけっぽいから出ることにした。何も買わなくてごめんなおばあさん。次は買うかもしれないし買わないかもしれない。


「……ああいうのは、だいたい偽物なんじゃけど」

「いい気はしないよなあじいちゃん。悪かったよ。でもさ、じいちゃん。おれひとつ気になったんだけど、もん?」


 ありとあらゆる病に効くってんなら、――あ、でも、外科的なやつはダメ系?

 現代医学だと対処療法しかできなかったわけだが、魔法ならいけるのでは?


「治癒魔法は治癒魔法の専門家がいるからの」

「じゃあそこ行こうぜ!」


 更地からずっと街の中を移動してきているわけだけど、じいちゃんもつらいじゃんか。病院があるならそっち優先したほうがよくね?


「の、前に、ワシの家がなんでなくなったのかを、ギルドに聞きに行きたいんじゃよ。ワシの父の身に何があったら屋敷と土地を手放すことになるのか……家族が今どこにいるのかも、じゃな」


 自分の身よりもそっちかあ。……まあ、じいちゃんがつらくないならいいや。

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