Mr. vs Mrs.
第24話
対するじいちゃんは初期装備の貫頭衣のままだ。じいちゃんにもかっこいい服が欲しいぜ。じいちゃんは何着ててもかっこいいんだけどな。
敵陣の向こう側に灯さんとバエル様にクレアさん、しれっと向こうに移動していたステラさんが見えた。パイモンさんは審判役だから、おれのそばにはいない。というか、じいちゃんの応援はおれだけかよ。
「じいちゃん……」
「ワシもあのボンクラのように、分身できればよかったんじゃがの」
じいちゃんが何人もいたら最強すぎる。一人でもすげーのに。
「魔動機構、というものがある。あっち風に言えば、精巧なお仕事ロボットじゃな。あのボンクラ――アスタロトは、昔っから作っておったんじゃ。自分そっくりの『お人形』をな」
へえ。そういう人もいるんだ。人っていうかドラゴンか。じいちゃんも工作は好きだけど、発明品だとそういうロボット系は見たことないな。
「先ほど腰の医者で聞いたんじゃけど、あやつは各都市にその『お人形』を配備しておるんじゃと。監視の目を行き届かせようっていう魂胆じゃ。王族に反感を抱いておる者も、少なからずおるでな」
「うまくやってるんだ」
「ワシが仮にミカドになるんじゃったら、」
じいちゃんは『仮に』を強調する。
いやまあ、ねえ、おれだって、じいちゃんの気持ちを完全に理解できないってわけでもないよ? じいちゃんは王様になりたかったんだよね。……まだ、王様になりたいのかな。
「王族による支配をやめて、身分に関わらず、優秀な人材を登用できるようなシステムを作りたい」
「具体的には? 試験とか? 選挙とか?」
「まあ、そうじゃな。そういったものを導入したいところじゃな。――ともかく、王族内での、親戚同士のいがみ合いはなくしたい。ワシの父上を呪ったのはおそらく内部の人間じゃ」
ひいじいちゃん。おれはその顔も見たことはないけども、じいちゃんにとっては十二歳までを育ててくれた父。この人が亡くなって、ギルド運営事業は手放し、屋敷も更地にされてしまったわけだから、根本的な原因を取り除きたいってことだよな。じいちゃん。
「……気は進まぬが、ワシは今からサナエと戦わねばならぬらしい。行ってくるぞい」
審判のパイモンさんが「さっさと入って来ないか」と催促するようにこちらをにらんでいる。じいちゃんは歩を進めて、
対峙するじいちゃんとばあちゃん。
「あたしを、元の世界に連れ戻しに来たのよね」
「そうじゃよ」
「また失敗するんじゃあーりませんの」
うぐ。痛いところを突いてきやがる。ばあちゃんは被害者だから、じいちゃんが文句を言われるのは仕方ない。
「あたしは運よくクレアさんとステラさんに拾われましたけども、今度は日本語の通じない世界に飛ばされるやもしれない。そんなのいやよ」
じいちゃんは目をつぶって、ばあちゃんの話に耳を傾けている。天才のじいちゃんは、同じ失敗は二度と繰り返さないぜ。
「こっちの世界で、あたしは成功するの。戻れても、老いて死ぬだけなら、クライデ大陸で必要とされていたい!」
「そうよ! サナエの料理は天下一だもの!」
灯さん――
「……変身」
まぶたを開けたじいちゃんは、ドラゴン形態へと変貌していった。紅色の瞳が煌めく。地面についていた足が折りたたまれて、腕に黒いウロコがびっちりと並んだ。手のひらも大きくなって、第二関節から先がツメになる。頭からツノがニョキニョキと生えて、頭蓋骨そのものの形も変わっていった。
「ドラゴン!?」
ひょっとして、ばあちゃんはドラゴンを見るのが初めてなんじゃなかろうか。王族の長男しか変身できないっていうし。この二年間でどのぐらい王族と付き合いがあったかっていうと、怪しいよな。灯さんとぐらいか。それ以外とは疎遠なのかも。親戚同士で権力争いしてるんなら、顔を合わせる機会も少ないだろうし。じいちゃんが現ミカドを忌み嫌っているみたいに、正月やお盆にみんな集まるってこともないのかも。そもそも正月やお盆があるのかなクライデ大陸。
『早苗にこの姿を見せるのは、あのときぶりかの?』
「そうね。……あの一回こっきりぶりだわね」
知っているのかばあちゃん!
え、何、ばあちゃんには見せてたってこと?
「じいちゃん……おれには秘密だったのに……」
『キー坊。竜也の人生に関わってくる問題じゃから、早苗には話しておかねばならなかった』
竜也……?
竜也って、おれのオヤジの名前じゃんかよ。じいちゃんとばあちゃんから見たら『長男』だ。
「あ」
そうか! オヤジは王族の長男にあたるから、ドラゴンに変身できちゃうのか! ……え、マジで!?
『竜也は〝混血種〟じゃ。クライデ大陸の王族とクライデ大陸の外の人間との間に生まれた子の、特に第一子をそう呼ぶ。クライデ大陸の歴史でも珍しい例じゃがな』
王族と外の人間かあ。じゃあ、ミライもそうなるってことだよな。現ミカドのアスタロトと、現代日本から来た第一夫人の灯さんとの長男だから。
『ドラゴンに変身はできるんじゃが、いつ発症するか、元に戻る方法もはっきりとわかっておらん』
ほうほう……?
「もしかしてだけど、オヤジとお袋が旅行いってたのって」
『
謎が解けた。おれを連れて行けないわけだよ。親父がドラゴンだってわかったら、おれはみんなに言いふらすだろうしさ。言いたいもん。おれの親父、ドラゴンなんだぜって。
待てよ。
「なんでおれは長男なのに変身できないわけ!?」
『その〝混血種〟の子で、ドラゴンクォーターだからじゃな。人間の血が強まっておるぶん、ドラゴンにはなれん』
「そんなあ!」
おれだって変身したかったんだけど!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます