ドラゴンのいる異世界で、婚活を
「ただいま」
沈痛な面持ちで〝タイガーチャンネル〟のギルドハウスに帰ってきたおれは「おかえり、おじさん! ごはんにするー? お風呂入るー? それともー?」と、キサキちゃんが上目遣いに聞いてきた。うーん、いじらしい。おれがおれじゃなきゃ、ここでぎゅっと抱きしめてあげるシーン。
「おい、キサキ」
台所にまで聞こえていたらしくて、
ミライとキサキちゃんは
「こ、い、ば、なっ!」
おれがクライデ大陸で婚活を始めてから、キサキちゃんはその戦果を聞きたくて聞きたくて仕方ないらしい。意気揚々と出かけて、しょんぼりして帰ってくるたびに、こんな調子でお出迎えしてくれる。
女の子は
「この顔を見て、どう思う?」
「今回も、ダメー!」
「もー! 大正解!」
腕でバッテンを作ってくるキサキちゃん。可愛いから許しちゃう。頭なでるぐらいなら許されないかな……
「でもさあ、おれのどこが悪いんだろう?」
キサキちゃんは許そう。
けれども、これだけ失敗しまくっているなんて、おれに何らかの問題があるんじゃないか、なんて疑っちゃうわけで。
「おじさん、いい人なのにねー?」
そうだよね。キサキちゃんの慰めがしみるぜ。
「そうかぁ?」
炊き立てのクラヒカリを皿の真ん中に盛り付けて、その上からカニ玉とあんかけをかけてから、ミライが話に入ってきた。
天津飯だ。
わーいわーい。
ミライが料理を作ってくれるのは嬉しいんだけど、レパートリーが中華料理ばっかりなのがちょっとな。結構味付けが濃いめで、ごはんが止まらない感じの美味しさではある。拗ねて作ってもらえなくなったら嫌だから本人には言わない。
もう一つ文句を言わせていただくならば、そうだなあ、アラサーなおれといたしましては、あっさりめにしていただけると、より嬉しさが増すぜ。そろそろ生活習慣病が気になってきちゃうお年頃。こっちはキサキちゃん経由でそれとなく伝えられないかな。
「マジで『いい人』なら、女のほうから寄ってくるもんじゃねぇの?」
イケメンは言うことが違いますなあ。
寄ってきたこと……あったっけか……あ、あれだ。
中学時代に一度あったわ。
バレンタインの日に、同級生の女の子がもじもじしながら近づいてきてさ。おれ宛かと思ったら、野球部の先輩にチョコを渡したいからってんで呼び出してくれーって頼まれた時。うわ、しんど。思い出したらしんどくなってきた。
やっぱり顔か?
「おれも補正魔法でじいちゃんみたいなイケメンになっちゃおっかな」
「えー? ……顔を見て近づいてくる女の人って、ロクな人じゃなかったでしょー?」
「まあな」
む。そういや、この二人の馴れ初めって聞いたことなかったな。聞いてみよっかな。
「ミライとキサキちゃんって、どこで知り合ったの?」
ミライは確か、クライデ大陸で使われている暦と西暦が同じだと仮定すれば、二十六歳ぐらい。対して、キサキちゃんはどう見ても中学生ぐらい。
その、魔動機構でわざわざ若い見た目にしているのかな。自分が〝修練の繭〟に入った十二歳の春の時の姿に戻っちゃったから。
だとしても、……ひょっとして、ロリコン?
「のろけてもいいのか?」
「じゃあいいや」
「どーせ、おれのこと『ロリコン』とでも思ってんだろ」
「自覚があった」
「
ふぅむ。そういうことにしとくか。アツアツの天津飯が冷めちゃうぜ。
「おじさんは、どんな人が好きー?」
冗談でも「キサキちゃん」って答えちゃダメなやつだよね、これ。
「うーん……そうだなー……」
クライデ大陸に来てから、女の子との出会いがないわけではなかった。
テレスのギルド本部の受付嬢、イルマちゃん。南にある常夏都市ガレノスの出身。赤い髪と、いい感じに小麦色の肌に、メイド服が似合っている。知り合って一ヶ月経っていて、じいちゃんとばあちゃんとの料理対決の後も会話イベントはあったのに、いまだにやりとりが敬語なのがつらいぜ。親密度があんまり上がってない。
旧ヤシャ、現ショウザンの眼帯娘、ケレスちゃん。普段はシスターだから、付き合うのはその、宗教的に大丈夫なのかな。……クライデ大陸の教会の立場的には、問題なさそうではあるか。祀っているのは初代のミカドだしね。おれのことは『キトラ様』って呼んでくれるし、好感度は高そう。
レマクルの刀鍛冶、ユノーちゃん。魔法が使えないし効かない特殊な体質の、継承者な女の子。約束通り、ミライ戦のあとに会いに行ったら、倒れてきた柱の下敷きになって両足をケガしていた。クライデ大陸では治癒魔法ですぐに治してもらえるのに、ユノーちゃんは魔法が効かないのがな。
最近はテレスの『結婚相談所』に相手を紹介してもらっている。
これまで五人とデートしたけど、会話は盛り上がるのに次がなくて……今日の人は、話を聞いていたら「親が決めた結婚相手から暴力を振るわれてしんどい」という相談がしたかっただけっぽい。おれが同席して二人で話し合いをさせたらうまくいきそうな雰囲気になったので、末長くお幸せにってことでエンド。
「メイドさんかな」
「うわ」
うわ、ってなんだようわって。キサキちゃんは「お料理、お洗濯、お掃除。おうちのことがなんでもできるメイドさんってすごいよねー!」と同意してくれている。
「形から入ってみる?」
メイド服なキサキちゃんを妄想しようとしたら「着せんな」とミライに吠えられた。いいじゃんか。
「なら、ミライが着てみる?」
「は?」
「ミライのメイド服姿、みたーい!」
「は???」
キサキちゃんが味方になってくれたぜ。このまま押せばいける……!
「わたくしも興味が御座います」
さらに味方が増えたぜ。
「メーデイア!?」
「
ミライが「げっ」って顔をして、キサキちゃんはその緑髪のエルフ耳に抱きついた。キサキちゃんの言う『先生』はメーデイアさんのことだったんだ。
「どのツラ下げて来てんだよぉ」
「あら、生きていたのね。こんな小さな犬小屋に詰め込まれちゃって、首輪まで付けちゃってまあ」
「オマエが逃げやがったから! オレは!」
スプーンを放り投げて、メーデイアさんに詰め寄るミライ。キサキちゃんの「ちょっと!」の声を聞いていない。
「わたくしがあの場にいなくて、よかったでしょう?」
と言いつつ、メーデイアさんはおれを盾にしてきたので、おれが「おれの魔法の家庭教師として雇ったぜ!」と事情を説明する。テレスのギルド本部に求人を載せたら、来ちゃった。
というか、さすが大魔法使い。家の中にも移動魔法しちゃうんだ。扉開かなかったもんな、今。
「家庭教師ぃ?」
「ええ。募集なされていましたので。この大陸一の大魔法使い、必ずや
「今すぐクビにしろ!」
キレまくるミライに、キサキちゃんが「やだ!」と反論した。おれじゃなくてキサキちゃんが。
「キサキぃ……」
「だって、先生のこと好きだもん」
「おれも大魔法使いから学びたいもん」
じいちゃんに相談したほうがよかったかな。ミライは、キサキちゃんの顔、それからおれの顔を見て、渋々「まぁ、いいよ。オレは何も教えねぇからな」と、了承してくれた。
おれは強くなって、モテる男になるんだぜ!
じいちゃん、ばあちゃん、花嫁を連れて挨拶しに行くから、待っててくれよな!
【次回作に続く……?】
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