第25話
「そちらの世界では常識ではないのか?」
この決闘の審判を任されているパイモンさんにとっては、不思議なやりとりだったらしい。現代日本にドラゴンなんていない、んだから。いないってことになっているんだよ。表向きにはね。
ドラゴンだけじゃないよ。人語が理解できて、同じかそれ以上の知能があって、人間とそっくりの姿になれるような生き物なんていないってことになっているんだから、人間とそれ以外の生き物との〝混血種〟がどうのみたいな話が常識になるはずがない。人生には存在しないとされているもののことを考えるよりも、考えなきゃいけないことがたくさんある。
「常識じゃないです。ドラゴンっていう生き物は想像上の生き物であって、実在しないものなんです。こっちの、クライデ大陸ではみんなが当然のように使っている魔法だって、ない」
誰もがそう思っている。おれだってそう思っていた。けれども、じいちゃんはドラゴンだった。じいちゃんだけじゃなくて、オヤジまで。
『過去に〝修練の繭〟で日本に到着した先達たちの功績じゃな。彼らが口を割らずにいたから、クライデ大陸の存在は知られずにいた』
「現地の人たちに話しちゃダメ、ってルールを、律儀に守っていたってわけね」
『左様』
なんというか、健気っていうか。
十二歳の春に長男ってだけで代表にされて、その家を背負って〝修練の繭〟に入って別の世界に飛ばされるわけじゃんか。
無事に戻って来られたらその、
無事に戻って来られたミライは、何を思って他の〝修練の繭〟をぶっ壊したんだろう。やっぱりミカド候補者は減らしとこう的な発想なのかな。こわいぜ。
「もし話したら家を取り潰される、って話だったけど、それって本当?」
おれはクライデ大陸の文化には染まっていない。魔法は(使えるようになったとはいえ)使えるけども、その仕組みとか原理とかまでは理解しきれていない。
クライデ大陸で生まれ育ったじいちゃんやパイモンさんたちからすると、すげー常識知らずなことを言っちゃったかも。パイモンさんが変な顔してる。じいちゃんは、……黒くてかっこいいドラゴン形態だから表情はわかんないや。
「その〝修練の繭〟の儀式の頻度とか、合計で何人向こうに行っているのかとか、そこまではさっき習わなかったからさ、ミカド候補者はめちゃくちゃ多いのかもしれないけども、一人一人を四六時中監視できるもんかな?」
魔法ならできちゃうんじゃよ、と言われたら納得するしかない。とはいえ、
「――アザゼルが〝修練の繭〟の儀式であちらへ行ってから、
話しちゃう人、やっぱりいたんだ。現ミカドに近しい位置にいるパイモンさん情報なら誤情報じゃないはずだ。……ふーむ?
「じゃあ、なんらかの手段で監視してるんだ。あっちとこっちだと、スマホの電波も入らないのになあ」
一縷の望みをかけておれのスマホちゃんを取り出してみる。やっべ、あと5%しかない! 電池ばっかり食いやがって、やっぱりアンテナは立ってない。むしろあれか、頑張って電波を探そうとして余計に消耗しているまである?
充電ってどうすりゃいいんだ。建物内に電球はあったから、電気はあるんだよな。ということは、電気系統の魔法がある?
『そうとも限らぬぞ』
そうなの?
『アスタロトは〝修練の繭〟には反対しておったからな。ウソをついておる可能性は大いにある。問題があると周知されれば、儀式そのものがなくなるだろうよ』
視点を変えて考えてみるか。
ドラゴンとか魔法とか、そういった不思議な力が存在するファンタジックな『異世界』がある。それが現代日本に知れ渡ったとしたら、異世界のクライデ大陸側にどんな不都合があるだろう。
じいちゃんみたいな天才が『異世貝』のもっとすげーバージョンを作って、近代兵器をこちらに持ち込んで侵略戦争をし始める――かもしれない。わからない。ドラゴンの力とか若返り魔法とか、現代日本に持ち込んだらウケそうな要素の宝庫だもんな。いくらでも金になりそうだぜ。
「ミカドが反対してるっていうのは、自分は〝修練の繭〟で嫌な目に遭ったから?」
『いや? アスタロトは儀式を通っとらんよ。長男ではないからの』
となると、あの人はじいちゃんみたいにドラゴン形態にはなれないんだ。あんなに偉そうだったのに。
『
ミライを即位させなかったのはミライが〝修練の繭〟を叩き壊して(じいちゃんを含む)他の長男たちを殺したから、じゃん。あえて言わないようにしてるんだろうな……。
「というか、じいちゃんがばあちゃんに話しちゃったのはセーフ?」
『早苗はワシがドラゴンだと言いふらしはしなかったからの。誰にも話さず、秘密にしてくれた』
「そうよお。キー坊とは違うわよん」
キー坊とは違うってなんだよ!
まるでおれがあちこちで話しちゃうみたいな!
そうだよ!
言うよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます