第6話
クライデ大陸の首都テレス。
中心部に位置するミカドが住まう城。
の、城門前なう!
「通行証をお出しください」
甲冑姿の門番が二人。左側の大男がじいちゃんをにらみつけてくる。この顔を見てわからんか。……さすがにわからないか。十二歳の時のじいちゃんと、今のじいちゃんとじゃ、だいぶ違うよな。おれも小さい頃の写真と見比べると成長しているわけで。
二人とも頭の位置ぐらいまである長さの斧――ハルバードっていうんだっけか、を握っている。この手のRPG頻出武器の名前は、ゲーム配信の枠で三ヶ月ぐらいプレイしていたMMORPGで覚えた。
リスナー参加型のエンジョイ勢でやっていたところに、ガチ勢の廃人様がやってきて、ああでもないこうでもないって指示し始めたからおもんなくなってやめちゃったんだよね。
コメント欄をチャンネル登録者限定に切り替えちゃったのはその時。みんなでワイワイやってんのに、白けるよなそういうの。そりゃさ、経験値効率がいい狩場とか、レアアイテムのドロップ率の高いモンスターとか、知っといたほうがいいんだろうけどさ。おれはそういうの求めてなかったんだわ。別のゲームを配信している時にわざわざ「今日はやらないんですか?」って来るのもうざかった。こちとら一週間でローテ組んで予定表出してんの。やめちゃったらそれっきり来なくなったのも、なんだかなって感じだった。おれのリスナーというより、そのゲームのファンだったんだろうけども。
サ終したって話は聞いてないから、今もやってんのかな。だいぶ息の長いゲームだなあ。
「アスタロトに用がある。通してもらえんかの」
頭ひとつぶんぐらいでかいやつから見下ろされていても意に介さず、通り抜けようとするじいちゃん。すげー。ちょっとぐらいひるまないか。
「ミカドを呼び捨てとはいい度胸してんな、じいさんよお。ここは酒場でもギルド本部でもないってのによ」
右側の、じいちゃんと同じぐらいの体格の甲冑がじいちゃんの前に立つ。
じいちゃんは『ボンクラ』って言ってたけども……この世界での王さまなんだよな、ミカドって。やばいんとちゃう?
「ワシも王族なのでな」
そうだよ。じいちゃんだって偉いんだからな。それなのに、門番二人とも『何言ってんだコイツ』みたいな顔を見合わせて、ゲラゲラと笑い始めた。ムカつくぜ。
「お前ら、黙って聞いてたら失礼だぞ。おれのじいちゃんを誰だと思ってるんだ!」
見せたれよじいちゃん。通行証だかなんだか知らねえが、じいちゃんには王族だっていう証拠があるじゃんよ。な? じいちゃん。……あるよね?
「ワシはアザゼルじゃよ。おぬしらが生まれる前に〝修練の繭〟に入った男じゃ。学校で、何年にどこの誰が繭に入ったかぐらいは習うじゃろうて。さては授業中に居眠りしておったか?」
じいちゃんは喋りながら腕まくりして、おれに見せたように右腕をドラゴンモードに変化させて見せた。そうだそうだ! じいちゃんはドラゴンなんだぞ!
「はあ、アザゼル……?」
背の低いほうが、その小さな頭を人差し指でトントンと叩いて思い出そうとしている。じいちゃんは嘘つかないから、マジでクライデ大陸の学校では必修科目なんだろう。現代日本で徳川将軍家を覚えさせられるようなのと似てんのかも。
だとしたら覚えてない可能性あるな。おれ、家康ぐらいしかわからん。二代目ってなんて言うんだっけか。
「雄々しきドラゴンの姿はまさしく王族の証である。が、変身魔法ではあるまいな?」
でかいほうはまた、ギロリと目を光らせた。変身魔法。そういうのもあるのか。ハロウィンの仮装のつよつよバージョンみたいな?
「キー坊」
じいちゃんは人間のほうの腕を動かして、おれに道の端っこへ寄るように促す。十分な距離が取れたところで、じいちゃんの身体が宙に浮かび上がった。穿いているズボンをぶちぬいて、ケツからは黒い尻尾が生えてくる。足は胴体へと折りたたまれて、黒々としたウロコでカバーされた。左腕も、右腕と同じようにツメが光る。
みるみるうちに、じいちゃんがじいちゃんではなくなっていく。
「じいちゃん、すげーっ!」
やがて頭も、なんだかトカゲみたいなものに変わった。瞬きもしないうちにドラゴンモードの完成。門番二人がほぼ同時に腰を抜かしてその場に座り込んだ。じいちゃん、すげーっ!
『これで文句はあるまい』
じいちゃんの声が脳内に届いた。これが伝達魔法ってやつか?
『キー坊、直接行こうか』
地に伏せる黒いドラゴン。乗れってこと……っぽいな?
「直接って、その、アスタロトってやつのところに?」
『城の中を歩くより飛んで窓から入ったほうが早いじゃろ』
せっかくだから異世界の城ん中、見たかったけど、まあ、それはおいおいやるとして。
「じいちゃんがそう言うなら……どっこらしょっと」
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