五章 レニーとアル
第26話
1
「二人とも、ご飯よっ!」
軽快に他人の部屋のドアをノックも無しに開けるレイチェルを二人は驚きもせずに迎え入れる。
今は深夜だと言うのに、食いっぱぐれた夕食を取ろうと言い出した彼女の提案を断れきれなかった所から二人は諦めがついているからだ。
「呆気ない事件の後に、随分とご馳走が出てくるものだな」
「あら、褒めてるの? 余物をアレンジしただけよ。今日はパーティ。私とアルが友達になった記念。ご馳走を用意しなきゃいけないでしょ?」
「日付変わっちゃってるけど、いいの?」
「いい女も記念日パーティも、少し遅れてくるのがお決まりよ。まだまだ持ってくるから二人は先に食べてて」
「ラザニアだけで十分だけど?」
「僕はバケットだけでも……」
「そんなヒョロイ体で何言ってんの! 二人ともちゃんと食べなさーいっ!」
深夜だと言うのに、このお嬢さんは頗る元気な様だ。慌ただしく部屋を出ていく彼女の背中を見ながら、男達はため息を吐いた。
「はぁ。アル、遠慮なく食ってくれ」
「はぁ? 無理だよ。レニーも頑張ってよ。普段、僕は毎日食べ物を食べる習慣ではなんてついてないんだから」
「ダイエット?」
「金銭面だよ」
呆れた顔で、アルが呟くがレニーには響かない。
「まったく。レニー、君の部屋に来てから、毎日が騒がしい食事だな」
「昨日は静かだっただろ?」
「君、すごく興奮してた。自覚ないの?」
「楽しかった記憶はあるよ」
「呆れた。嘘だろ? 君は、随分と嘘つきだからね。昨日と今日で、良くわかった」
「嘘つきは嫌い?」
「好きではないよ。皆んなそうだろ? 嘘をつかれると、信用していいのか分からない」
「つまり、僕は信用に値しないと? 部屋を貸しているのに、随分だな」
「それには感謝してる。しても、しきれないぐらいに。それに、信用しない訳じゃないよ。レニー、君はとても凄い人間だ。けど、何というか、そうだな。……君の言葉を借りるなら、親友としては、少し悲しいし、寂しい。嘘をつかれるのは」
騙されても構わないと、思っていた。
自分に害さえなければ、それでいいと思っていた。
けど、違う。
友達として、握手をして、名を呼び合う仲では、それは随分と悲しい行為だと、アルは自分の認識を改めてしまったのだ。
「……アル、君、今僕の事を親友って?」
「君の言葉を借りるならね」
それでも、素直にはなれないけども。
「なぁ、アル。楽しかったかい? 今回の事件は」
「人として答えにくい事を聞くなよ。けど、まぁ……、楽しかったと思うよ。正直、どんな物語を読むよりも、君のロジックを聞いていた時が一番楽しかった」
「なら、この部屋に居てくれる? 出て行かないでくれる?」
「レニー? 君、何言ってるの? お金が貯まるまでは追い出されても出ていける訳ないだろ?」
「友達なら、レイチェルがいるだろ?」
「年頃の女性と同じ部屋なんて無理に決まってるだろ? 何を言ってるんだ?」
「なら、この部屋に君は明日も明後日もいると?」
「そうだよ。何? 今更文句かい?」
「まさか! 親友として安心しただけさ。正直、君が今回の事件で僕の部屋を出て行くと言い出すのかと思ってドキドキしていたんだ」
「何で?」
レニーの性格の悪さは今更だ。それを踏まえて、同室となったのに。
アルが首を傾げると、レニーには珍しく、はっとした顔を作って咳払いをする。
「……失礼。今のは忘れてくれ」
「何でだよ。そんなことできる訳ないだろ?」
「口が滑った。なら、嘘を吐く許可をくれるか?」
「あげれるわけがないだろ!」
何を其処迄。
いや、まさか……。
「君、もしかして……、僕の正体、うっかり知ってしまったって事はないよな?」
「……嘘を吐く許可を貰えないなら答えられない」
「正解って事じゃないか!」
アルは立ち上がり、レニーに詰め寄る。
何処で、どうして、知ったんだ!
「嘘を吐かないで答えないと、僕は明日ら寮長室にあるテントで過ごすぞ?」
流石に笑えない冗談に根を上げたのは、レニーの方だった。
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