第22話
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「で、次はどうするの?」
「まだ、考え中。今は出来れば、この事件を長引かせたい己の欲望と戦っている最中なんだ」
レニーは悩まし気な顔をしながら、お気に入りの椅子に座る。
性格の悪さで忘れてしまうところだったが、悩まし気なその表情すらおそらく女神のため息を誘う事だろう。しかし、口から出た言葉はそれに含まれることは無い。
「何だって? 長引かせる?」
アルは思わず耳を疑った。殺人事件においてこれ程不似合いな言葉は他にないだろうに。
「そう。だって、楽しいじゃないか。君と二人で語り合い、足を運んで調査する。僕は本当にここが天国がと疑いたい気持ちだよ」
純粋に、レニーは楽しんでいるのだ。アルと二人で行動する全てが。
「そう? 僕は楽しくないけど」
しかし、アルはそうではない。一緒に行動すれば嫌でも目立つし、頭の痛くなる様な事ばかりが言うレニーの口が憎らしい。足を運ばせるのにも説明が足りず気を揉む。出来れば早く解決してほしいと願わずにはいられないのだ。
「そこは同意をしかねるだけでいいんだよ、アル。正直はいらない。取り敢えず、剥製方法は縫いぐるみだと言うことがわかった。成果と呼ぶには不十分だが、一つの選択肢が消えた事は大きな一歩だ。被害者の共通点は、この学校。では、この学校の共通点はどこに繋がっている?」
「共通点? ああ、つまり君はこの学校の何処で彼らが繋がっているかを考えているわけだ。たしかに、学校と言う括りは大き過ぎる」
「だろ? 流石アルだ。一口にこの学校に物を卸していると言っても一人は薬局。一人はパン屋。そうなると、納品場所も違うだろ?」
「医務室に、食堂……。確かに、違うね」
「そうだ。そこで顔を合わせる事もなければ、同じ人物にコンタクトを取ることもないと思わないかい?」
「繋がっているのに、繋がってない。まるで見えない糸だね」
「そうだ。偶然ではないのなら、透明な糸が必ず何処かにある」
「経理は……、いや。顔を合わす必要がないな。納品物の受け取りは違う人間だし、今のご時世に手渡しで金を払う理由がない。振り込んで終わりだ」
「警備員も同じだな。彼らもわざわざ詰所から降りて積み荷を確認する事もなければ、運ぶ運転手とコンタクトを取ることもない。入門許可のプレートをぶら下げているかいないかぐらしか関心がない連中だ」
「発注も各担当者だろうしね」
「文字通り、見えない糸だ」
「次はその見えない糸を探す訳だ」
「それが一番合理的」
レニーの表情はどことなく残念そうだが、口調は楽しそう。難し男だなと、アルは小さく笑う。
「あ、プライベートは? もともと顔見知りで、同じ学校に卸しているとわかったら、学校で会わない?」
「それこそ、プライベートで会うべきだ。学校で会う必要がない」
「確かに。そうなると、矢張りこの学園の誰かが蜘蛛の糸なんだろうね」
「誰かが繋がっている。けど、警察だって馬鹿じゃない。交友関係から仕事の人間関係ぐらいは殺人事件になっているものは調べているはずだ」
「何だか、寮の全室、腕がないか調べた方が早い気がするよ。一人部屋ならそれ程数はないだろ? 二人部屋では腕は隠せないし、除外できる」
「二人組の犯行である否定はどこから?」
「……僕、理由一緒に言ったけど? 聞こえなかった?」
「理由になってないからだよ」
レニーは椅子に沈み込むように体を沈めると、目を閉じる。まるで、呆れているかの様に。
「同室二人が犯人なら腕ば隠さなくてもいいだろ?」
「そうだけど、レニー。君、自分言葉に矛盾を感じないかい?」
しかし、それはあるも同じだ。
「矛盾?」
レニーは片目を開いてアルを見た。
「二人組なら、死体は隠した方が早いだろ? 何で死体を隠さず腕だけ?」
アルは人差し指を逆の手で隠すマネをしながらレニーに問いかける。確かに、アルの言葉通り二人組なら死体を隠した方が早い。
「……そうだな」
「だろ? だから……」
「確かに、そうだっ! 二人なら、隠した方が早いが、一人ずつなら、話は別じゃないか!」
急に吐き出したレニーの声に自分の言葉をかき消されたアルは驚くが、驚くのは何も声だけじゃない。
一人ずつ?
それはつまり、この殺人事件は役割分担が発生していると言う事だ。
「……レニーは今、被害者を殺した人物と腕を持ち帰った人物は別だと、考えているのかい?」
そんな悍ましい事を?
「そうだ。流石アルだ。話が早い。全てが不自然だったこの事件、それが別々の人間が別の目的で動いていたら話は別だ。一人は、被害者を殺す理由が、もう一人は腕を持ち帰る理由が、別々の理由が発生しているとなれば、この事件は実にスマートだと思わないかい?」
「スマートとは思わないが、謎は整理させれる。それに、腕である理由は分からないが……、犯人が別なら持ち帰る理由は少し分かったかも」
「それは?」
「僕が子供の頃、誘拐されて殺されそうになった話はしたよね? その時、死体は欲しがらないが殺した証拠が欲しいと言われている奴は沢山いたよ。それと一緒だ」
アルが鋭く床を睨みつける。
「成程、殺した証拠か。つまりそれは……」
「腕を持ち帰った人物は、それを証拠として連続殺人事件を起こしている犯人を脅している」
それならば、新しい事件の腕だけを所持していれば事足りる。全ての腕を保管する必要はない。
「成程、自分へのトロフィーじゃなかったわけだ。となると、腕は必然的に刈り取られている。犯人がわかる証拠が腕にはあった」
「犯行の証拠になる指紋とか?」
「毎回腕だけに残すのかい? それに、剥製にされる時点で指紋は消える」
「腕、だけ……、右も左も問わない」
二人はまるで迷いごとの様にそう呟くと、各々が自分の世界への扉を開いていく。
二人なのに、一人の世界。それを二人とも持っていたのだ。
その扉は、日が暮れるまで開くことはなかった。
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