第23話
3
「レニー! こんな所にいたの!?」
騒がしくレニーの部屋のドアをレイチェルが開くと、二人はようやくこの部屋に戻ってきたかの様な顔を上げた。
「煩いレディーだな。僕は忙しいんだ」
「そんな事を言ってる場合? あのオリバーが、屋上から飛び降りたのよっ!」
「オリバーだって?」
つい最近聞いた名前に、二人は顔を見合わせた。
「何でまた」
「自殺みたい。家族へ手紙もあって。ああ、レニー、アル。私、悲しいわ。オリバーの様な素敵な男性が一人この世界から消えてしまった事実が、とても悲しいわ」
「何? 好きだったの? 君」
「当たり前でしょ!? お気に入りの鑑賞テディーちゃんだったのに」
アルはレニーとケニーの会話で彼が太っていると言う会話を思い出した。どうやら、例えは皆一様に良くはないが、余程ふくよかな方だったらしい。
「そう。それは残念だったな。今日は涙を濡らしながら寝るといい。おやすみ、レイチェル」
「あら! 酷いっ! 傷ついてるレディーに対してそんなあしらい方あるかしら!?」
「レディーの前にヒューマンだ。僕はだれにでも一律でこの対応を貫いている。性別は関係ないよ。自殺で騒いでいいのは家族と恋人の特権だ。僕を巻き込むなよ」
「なんて子かしら!」
「レイチェルさんも残念だけど、寮長は落ち込んでいるかもね」
アルがしな垂れるレイチェルにハンカチを渡しながら昼間の彼を思い出す。同級生で元ルームメイト。実家に行く程の付き合いをしていたのだから、落胆も大きいだろう。
「ケニーの事? そう言えばあの二人、よく一緒にいたわね」
「友人だったらしいよ。同級生で元ルームメイトだって」
「あら、そうなの? そんな風には見えなかったのに」
「仲良さそうではなかったの?」
「そうねぇ。私が見る限りでは、アルとレニーの様な関係に見えたわ」
「それは仲が良いって事だろ?」
「そんな訳ないだろ」
しかし、意外だ。アルとレニーなんて、側から見れば王と奴隷だろう。誰とでも仲良くなれそうなポテンシャルを持つ寮長が。
「でも、気を許しあってるからこそ、お互い素で接せるって事もあるわよね。多感な年頃に一年間同じ部屋で過ごしていたら、兄弟の様になるのかも。私、ルームメイトって知らなかったからじゃれ合いを勘違いしてしまったのかもしれないわ」
「いや、実際奴隷だったんだろ?」
レニーが首を傾げる。
「え? 友達だって、寮長は言ってけど?」
「おいおい、あの部屋の惨劇を見ただろ? あれだけの量の段ボールを許せるわけがないだろ? 何か弱味でもにぎられていたんじゃないか?」
「成程、君と僕だ」
「言うわね、アル。けど、オリバーは確かにチャーミングだけど、良い噂は聞かなかったわ。夜に寮を抜け出して、街のゴロツキ達と遊び回ってるって専らの噂よ。きっと、ケニーも強く言えなかったのね」
「へぇ、ゴロツキねぇ……」
「知らない? 私達の学年にいるでしょ? ジョックのジェシーって子。彼のお兄さん、かなりのゴロツキなんだけど、そのお兄さんもオリバーと仲が良かったみたい」
「ジェシー? 彼のお兄さんとも?」
「そっ。結構ヤバめな人なのよ? 昔は立派な人だったらしいけど、最近は随分と変わってしまって、みんな怖がってジェシーは愚か付き合いのあるオリバーにも強く出れないの」
またもアルとレニーは顔を見合わした。
なんだって?
今日は、授業を碌に受けていない日だと言うのに、随分と予習復習が激しい日だ。
「レニー、もしかしてだけど……」
「ああ、もしかしなくても、だ」
二人は立ち上がり、レイチェルを見る。
「レイチェル、オリバーの遺体はまだ学園か?」
「まさか。発見されてすぐに病院に運ばれたわよ。それがどうじたの?」
「付き添いは?」
「さあ? 死体の付き添いって、するもんなの?」
「レイチェルさん、今何時です?」
「今? 四時よ。因みに飛び降り事件があったのは二時」
「まだ、寮にそれ程人は戻ってこない時間だな」
「今しかないね」
「ちょっと、ちょっと。何よ。私だけ仲間外れな訳?」
「今は時間がない。説明が欲しけりゃ、ついてくる事をお勧めするよ」
そのレニーの言葉に、アルが手を広げて待ったをかけた。些か、レニーも軽率すぎる。
「待って、レニー。君、オリバーの部屋は分かる?」
「……成程、流石アルだね。レディーのエスコートは紳士の嗜みだ。行くぞ、レイチェル。早くしてくれ」
「もう! エスコートの意味調べてから行きなさいよっ!」
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