四章 レニーと事件達

第21話

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「ランチに行くんじゃないの? 食堂は、こっちじゃないだろ?」

 ケニーの部屋の前には、アルと昼食に向かうはずのレニーがいた。

「誰も行くとは言ってない。空いているのに同意しただけだろ?」

 確かに、そうだけども。文句を言いたい気分のアルだが、すぐにそれは無意味だと投げ捨てた。

「ケニー寮長、アルフレット・スチュワートです」

 レニーは無視して、アルは寮長室のドアを叩く。

 すぐにドアの向こうから重い音がすると足音が慌ただしく聞こえてきた。

「やあ、アルフレット。どうしたの?」

 寮長室のドアが開けば、レニーが顔を出す。

「今、お時間よろしいですか?」

「勿論。少し、慌ただしいけど相談?」

「あ、相談で」

 ではない。鍵を返しに来ただけだとアルが伝えようとすると、レニーの手に阻まれてしまう。

「相談だよ、ケニー。二人部屋になったばかりで気苦労が耐えないんだ」

「やあ、レニー。君もいたのかい?」

「同室だからね。何か重い音が聞こえてきたけど、掃除でも?」

「ああ、そんな所。知り合いの荷物の預かりを安請け合いしてしまってね。ほら、見てみてよ。中は段ボールだらけだろ?」

 そう言って、ケニーは大きくドアを開けて寮長室の中を見せた。ケニー本人の部屋は勿論のこと、開いたゲストルームのドアの向こうにも段ボールの山が見える。

「随分と多いな」

「驚くなよ? これ、全て一人の物なんだよ。最初は一箱だったからと安請け合いをしてしまって、今じゃこんな結果になってしまったんだ。ゲストルームを使う寮生にも流石に申し訳なくなってきてね。今、返却の真っ最中ってわけ。悪いけど、お茶は出せないよ?」

「結構ですよ」

 アルは愛想笑いをケニーに返す。

 人の良さそうなケニーならではのハプニングだろうに。

「こんなにも大勢の荷物の中身は?」

「さあ? 流石に中身はいくら預かっていてもプライベートな事だろ? 見てないよ。だけど、ガラクタ集めが好きな奴だからね。全部ガラクタじゃないか? 残念ながら価値なんてわからないからね。僕には等しくゴミ同然に見えるけど」

「へぇ。それって、2階のルベルトかい?」

「違うよ。オリバーだよ」

「オリバー? あの太っちょの?」

 体格についての比喩に、アルは一人顔を顰めるが二人はどうやら気にならない様だ。

「今はね。ここに入学したばかりの頃は痩せていてハンサムだったんだよ。なんせ、彼、狩猟の名人なんだからね」

「痩せていたとしても、ハンサムと狩猟に何も関係ないだろ?」

「あるよ。実家がとても辺鄙なところにあってね。山を駆け回って鹿とかハンティングしていたみたいだし。そこで培われた美丈夫があったと僕は思うんだ。彼の家に行ったことがあるけど、大きな鹿の剥製は見事な物だったよ。十歳のオリバーが仕留めたんだってさ」

「よく聞く自慢話の類だな」

「ご友人なんですか?」

「同学年で、寮長になる前は同室の仲だったんだ」

 成程。それぐらいの仲なら頼み事を断るのも無理はない。

「で、君たちの相談は?」

「いや、廊下で話すのもなんだし部屋の中に入れないなら遠慮しておくよ」

「そうかい? 悪いね。また、日を改めて来てくれよ」

「そうするよ。行こう、アル」

「あ、待って。寮長、この前の時、僕随分と貴方に失礼な事を言いましたよね。ごめんなさい。謝っておきたくて」

「ありがとう。こちらも、あの時は悪かったね。いくら規則でも、君にの助けに何もなれなくて」

「いえ、僕も必死だったので。でも、僕一人のために規則をねじ曲げれない事も、よく知っています。あの時は、本当に失礼を……」

「仕方がない事だよ。もう、謝るのはお互いにやめよう。お互いがお互い、どうしようもなかったんだから。レニーがいて良かったね。彼は少し変わっているし寮のルールをたまに破るけども、根はいいやつだよ。仲良くね」

「はい」

 アルはお礼を述べると、先に歩くレニーの背中を追いかけて行った。

「レニー、相談があるって、何? 僕初耳なんだけど」

「初めて言ったからな。気にしなくていいよ」

「何だよ。僕に不満があるって事かい? お蔭でケニーに鍵を返すのを躊躇ってしまっただろ?」

 冷ややかな目をしながら、アルが不満気にレニーを見る。

「まさか。最高の親友だろ? 不満なんてあるわけがないじゃないか」

「じゃ、何を相談するつもりだったわけ?」

「何もないよ」

「え? また嘘?」

「そ、嘘だよ。上手く寮長室に忍び込んで鍵を複製出来たらって思ってたけど、あれだけ物があるとそれは厳しいだろ?」

「何のために?」

「そりゃ、寮長室には寮長管理の道具が多いだろ? 借りるためには理由と申請書が必要だ。スキップするなら出来た事に越したことはないだろ? 僕がゲームの開発者なら必ずその機能は付けるね」

「君はゲームの開発に向いてない事がわかったよ」

「冗談だろ? この上なく面白いゲームを提案提供できるのに」

「無駄も美徳の一つだよ、レニー」

 アルとレニーは笑いながら長い廊下を経て自分たちの部屋に向かった。

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