第2話
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何かにぶつかって目を覚ましたら知らない部屋にいたパシリ君は、今日一番の大きな声をあげた。
「骨折!?」
どうやらぶつかった何かは人で、なおかつ自分のせいで骨折をしたと言う。
「そうだよ。どうしてくれるんだい。ポッター」
そう言って、レニーはパシリ君に松葉杖とギブスを見せた。
「ご、ごめ」
「はぁ? 謝って許されるわけがないだろ。君は馬鹿かい?」
「ごめん! 君の代わりに僕が授業に出るよ! 代わりにノートを取って、先生には」
「ハリー・ポッター。君は本当に馬鹿なのかい? 僕の手が見えないわけ?」
そう言ってレニーは手を前に出し指を広げる。ご丁寧にグー、パーと繰り返しながら。
「折れたのは右足、手は無事」
「う、うん。でも」
「ポッター、君はぶつかった側だろ。謂わば加害者だ。僕はぶつかられた側。被害者と言うわけさ。で、君は僕にどんな誠意を見せれるの?」
「か、代わりに僕が授業に出て、ノートを」
「ポッター。わかった。君が馬鹿なのはわかった。この際だからはっきり言おう。僕は、手は、無事なんだ。自分でノートが取れる。オッケー? 松葉杖で教室まで行くことも出来る。これもオッケー? で、君の誠意は?」
パシリ君は背中を曲げながら、小さな声で一生懸命、えっと、えっとと呟く。
誠意とは、何か。
ここまでこれば行き着く答えは一つである。
「僕、お金、なくて、その……」
なくてなんだ。その後はまるで蚊の羽音よりも小さな音で全く聞こえない。
レニーはイラつきに似たため息を吐いた。だろうな。と、付け加えながら。
「ポッター、君は本当に馬鹿なのかい? その上着は古着だろ。学校のバザーで買ったんだ。その袖の汚れを見るに、工学部だろうな。その機械用の油は一般企業では扱ってないぞ。教育機関専用の質が悪い油さ。その靴も古着で何度も何度も靴底を直している。金がなくて自分でやったのか、最早靴底の形が合ってない。捨ててある靴から靴底を拾うものだから、既に他者の癖で擦り切れているぞ。腕時計もしていないところを見れば、親から入学祝いは貰ってない。他に高価なものはペンすらないからな。物資が圧倒的に足りてない君が、物資を売るとは考えられない。よって、全ての結論から君は貧乏である。それぐらいわかるよ。そんな君から金をよこせと言うほど、僕は金に困っていると思うかい?」
パシリ君は一瞬レニーの顔を見つめ、すぐに横にそらしコクリと頷いた。
「ポッター、君は馬鹿なくせに失礼だな!」
「え、だって、誠意って」
「金がないんだろ? ポッター。じゃあ、道は一つだ。子供でないのだからわかるだろ?」
そう言って、レニーはパシリ君が座るベッドに膝を置く。
「え、えっ」
「ポッター、君、思った以上にいい身体してるね」
パシリ君だって、この学校に通っているのだからレニーの事はよく知っている。
変人、変わり者、天才、キング、教祖。
そして、絶世の美貌を持つ男。
レニーの手がパシリ君の顔に触れ、目と目が合う。
まるで、海のように深いブルー。
底がどこだか分からない。
「ねぇ、ポッター。体で誠意の払い方、教えてあげようか?」
赤い美しい唇が、まるで釣り針の様につりあがる。
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