第19話
6
北校舎の中は薄暗く、まるでお化け屋敷……。
なんて事はなく。
「意外に普通の校舎だな」
日の光も入るし、電気も通っている。ただ、壁等はどう見ても年季が入って汚れているが。
「君が想像していのはお化け屋敷気だろ」
「廃校舎予定と聞いたらね。僕以外にもそんな想像はするだろ?」
「僕はしなかった。先入観は時に僕でも間違いを選ばせるからね」
「成程。忠告有り難う。是非、先入観と友達になりたいね、僕は。で、階段を上って何処まで行くんだい?」
「三階にある教室だ」
「三階か……。なら、レニー、此方にっ」
そう言うと、アルはレニーを自分の方へ引き寄せると物陰に隠れる。
一体何だと口を開けようとすると、アルはレニーの口を自分の手で塞いだ。その直後だ。
近くで激しい足音がする。
レニー達の近くを行ったり、来たり。
これは、普通に歩いている足音ではない。明確に、何かをしている、目的のあるある足音だ。
答えは簡単。探しているのだ。何かを。
そしてその何かとは……。
「ちっ!」
足音と共に大きな舌打ちが耳に響く。
どうやら、足音の主はその激しさに準じた怒りを持っている様だ。
そして、その足音は遠くに去って二度と戻って来てはこなかった。
「あの足音、今朝のジョックか?」
足音が聞こえなくなると、レニーはアルの手を退け口を開く。
「ああ。そうだ」
「成程。いつから?」
「少なくとも、僕たちがこの校舎に入ろうとした時には後ろに人影があった」
レニーはアルの言葉に小さく笑った。
アルフレット・スチュアートは背中にも目がついているらしい。
「成程ね。アル、君は優秀なSSになれるよ」
「出来ればするのもされるのも縁のない人生を送りたいね」
どうやら、今朝アルに絡んで来たジェシーがレニーの後を追ってきた様だ。
要件なら分かっている。
「それにしても、レニー。君はどうするつもり? 彼は自分の兄の対処法を君に聞きたい様だけど……」
「ああ。でも、僕たちも何かと多忙で遊んでいる訳にはいかない。アル、君だって悪戯に時間を食われるだけだとわかったからこそ、あのジョックとの接触を避けた訳だろ?」
「勿論。君は少し急いでた。何か理由があるならここで彼に時間を取られるわけにはいかないと思ってね」
「なんとも素晴らしい推理だ。親友の鏡だよ」
レニーの少しの焦りも、アルは敏感に読み取っている。
あのジョックの足音に気付いても、ギリギリまで様子を見ていた。
どれもレニーに告げる事はなく、自分の判断での行動。
実に素晴らしいと、レニーは笑った。
「三階の用事が終わるまでは、悪いが彼の相手は出来ない」
「そう彼に話てみる?」
「悪いが、僕は木や花や鳥に語り掛けるプリンセスの存在は信じていないんだよ。時間の無駄以外何物でもないと思わないかい?」
見た目はそれぐらい美しいと言うのに、言葉は魔女やドラゴンよりも酷いとは。
「彼、三階に上がったかな?」
「僕たちが上に上がっている姿を見ているならば、自ずと上に上がっていくだろうな」
「どうする? 三階に上がって鉢合わせなんて事になったら目も当てられないぞ」
「そうなった時は、君に彼を一発殴ってもらう事になるな。一時間丁度に起きれる加減で頼むよ」
「冗談はやめてくれ。人を殴るのは嫌いなんだよ。怪我でもしたら大変だろ? まあ、君は容赦なくやりそうだけど」
「成程、確かに松葉づえも殴るには適した武器だな。いい提案をありがとう、アル」
「はぁ……。君の冗談はいつも笑えないんだ……」
それが冗談かどうかなんて、短い付き合いのアルですら分かると言うのに。
「そう言うなよ。僕だって彼を悪戯に傷つけたくはないさ。でも、悪戯じゃないきゃ仕方がないだろ?」
そう言って、レニーは首を傾げるのだった。
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