21 火の山を登れ

チーム緑ヶ丘は、今度は滝のすぐ近くにある大きな金属のドアまで行くと、そのドアがサーっと開いた。中は狭い小部屋で、みんなが乗るとゴーっと動き出した。

「あれ?これってエレベーター」

チーンと音がすると3階フードマーケットとアナウンスが聞こえる。でも、ドアが開くと、そこはグーンと広い、ハワイ島の郊外の町が広がっていた。目の前には赤レンガ造りのおしゃれなカフェレストランペレペレだ。この店名よく知ってる。

大きな道路と緑の街路樹、そしてはるか遠くには煙を上げている火山(?)が見える。

「さあ、みんなこっちだこっちだ」

タイゾウさんの案内でみんな赤レンガのカフェレストランに入っていく。ホノカが見回しながら言った。

「ここって、うちの駅ビルの3Fだよね。いつものペレペレに来たのよね」

トパーズのサトミちゃんも椅子に座りながら言った。

「私、おとといもここでハワイアンスムージーをいただいたわ。でもなんか不思議な感じ…。あ、ほら…」

店の壁になかったはずの大きな窓があり、外にはさっき見たハワイ島の郊外の町の風景が見える。

「あの煙が出ている山ってなにかしら?」

店員のおねえさんが教えてくれる。

「ああ、あの山ですか。現在も火山活動が続いているキラウエアですよ」

なんだか自分の中でリアル画像だか、ヴァーチャル画像だかこんがらがってくる。アロハシャツを着たマスターが来て注文をとる。

「今日のおすすめメニューはなんですか?」

「そりゃ、ここはハワイ島だからまずはロコモコを食べてみな。キラウエアの熔岩ソースが1番人気だね。あとはキラウエアパンケーキもおすすめだよ…」

ロコモコとは、ご飯の上にハンバーグや卵焼きをのせてソースをかけた、いわゆる丼ものの料理でハワイのソウルフードである。

あれ、いつものメニューと若干違うような…。ロコモコはあったけど、溶岩ソースは聞いてなかったなあ…。

どうもヴァーチャルオリンピックの期間の特別メニューらしい。

時子は迷って、ロコモコの熔岩ソースのかかったキラウエアパンケーキとやはりこの期間中だけの特別メニューだというオヒヤレフアハニードリンクを注文、さてお腹いっぱいになるのだろうか?

しばらくして出てきたキラウエアパンケーキ、2枚の軽い塩味のパンケーキの間にボリュウミーなハンバーグ、そしてそのパンケーキの上に、トマトソースとウスターソースを混ぜた真っ赤な熔岩ソースをたっぷりかけたオムレツがのり、ウインナーや蒸し野菜が添えられている。平たい火山から溶岩が噴き出ているさまにそっくりである。

すごくいい匂いがする。この料理は食べられるのだろうか。

テーブルのナイフやフォークを使って早速食べてみる。

「お、おいしーい」

キラウエア火山の噴煙を見ながら駅ビルのロコモコを食べている。現実と仮想空間が混在した不思議な味わいだった。意外にロコモコを始めて食べるというタイゾウさんは、

「なんかたっぷりのご飯の上にハンバーグとか卵焼きとかのっていて、ソースでまとめてある。日本のソースカツ丼にも通じるっていうか、日本の丼ものみたいで、どんどんいけちゃうね」

すると目の前のマスターが言った。

「ロコモコは、諸説あるんですが、戦後すぐの1940年代後半にハワイ島のヒロの街で、日系2世によって発案されたといわれていてルーツはどうも日本人なんですよ。付け加えると私が今着ているアロハシャツも、日本から来た日系移民が持ち込んだ派手な柄の着物がもとになっています。農園で移民が着ていたパラカという開襟シャツをもとに、派手な日本の着物でつくったから、こんな派手な南国風のシャツができたと言われているんです」

へえ、ハワイ文化には、日本の文化がどこかに溶け込んでいるのね、そう思った時子だったが、自分がこれから、日本文化と西洋文化の対決に巻き込まれるとはこれっぽっちも思っていなかった。

食後に出てきたオヒヤレフアドリンクは、甘酸っぱくておいしいドリンクで、ジャムをぬったおしゃれなクッキー付きだった。マスターがオヒヤレフアの伝説を教えてくれた。

「昔、ハワイの火山の神ペレが、海岸で美しい青年オヒヤに恋をした。だが、オヒヤにはすでにレフアという恋人がいたため彼はペレの申し出を断った。すると怒ったペレはオヒヤをみにくい木に変えてしまった。それを哀れんだ他の神々が、恋人レフアをオヒヤの木に咲くう美しい赤い花に変えたと言われている。オヒヤレフアはハワイのレイによく使われる赤い花で、その花からは良質の蜜が取れるし、その実はジャムにもなるんだ。そのクッキーに塗ってあるのがオヒヤレフアのジャムだよ」

「じゃあこっちのドリンクも?」

「ああ、リリコイというハワイの黄色いパッションフルーツと、オヒヤレフアハニーで作ってある。オヒヤレフアハニーは、無農薬の有機栽培の花から採った蜂蜜で、ろ過したり、熱を加えたりしていないまったくのハワイの味さ」

「へえー、ハワイミツスイの気分だわ」

そう言って時子は蜜のたっぷり入ったドリンクをチューチュー吸っていた。そしてここでチーム緑ヶ丘にとって大切な情報が発表となる。

「我々のほかに参加しているRPG部門の2チームだが、かなりいい成績でよく頑張っているようだ。成績は我々チーム緑ヶ丘が現在1位、静岡県のチームツナ缶が2位、新潟県のチームお米帝国が3位だが、あまり差はない。この間私が参加したときの情報を見て、ドラマのストーリーをどのチームも研究したらしい」

それから次のステージの作戦会議をやり、ついに出発だ。

「それではいよいよ次のステージだ。みんなまたドローンバイクで行くぞ」

みなでまたエレベーターに乗り4階に戻っていく、いや、どうも違う、5階に上がったようだ、風景はさっきと同じ滝の風景だが、違う部屋に移動しているようだ。ふと思いついて時子はタイゾウさんと並んで先頭に立って歩いていく。すると短い間だが、胸のバッジが小さな反応音を出す。そう、ホラズマのダークゾーンがすぐそばにあるのだ。思わずそのあたりをきょろきょろ見たが、普通に廊下があるだけで、ダークゾーンは全く見えない。だが、その時バッジからショーン刑事の応答が小さく流れた。

「ありがとう、君のいる場所から採った映像をすぐに分析する。今度のステージが終わったところで結果を報告する」

時子は気づかれないように返事をして、ドローンバイクのある部屋へと入っていく。そして、ドローンバイクで飛んでいく。

「今度は猛スピードで1000m以上まで飛ぶけど、ヴァーチャルだから何も心配ない。本当は、上空は高いし怖いし寒いし、酸素は薄いし、風が強かったりするのだが、すべてはヴァーチャルだからね。また5分番組もあるから、ぼーっとしている時間もないよ」

そして噴煙上がるキラウエア火山をドローンバイクはどんどん上りだしたのである。

新しいメニューがまた画面に出る。

「あら、また新しい項目があるわ」

そして時子は、ハワイの自然、火山編から、サブメニューの「火山が作るハワイ諸島の歴史」を選んだ。

今度はハワイ島の実際の映像と図解アニメーションの組み合わせた映像だった。

まず地球の縦割り図からはじまった。

地球の中心には核、その周りにはマントルがあり、1番外側には地殻がある。地殻の上には海と大陸があり、大陸は厚く重く、海は薄く軽い。そこで大洋の中心のあたりの海底から溶岩が噴き出し、どんどん新しい島が作られて行く。

今度は上空から見た本物の映像だ。

ハワイ島では5つの大きな火山がある。マウナケアは4200mの高さだが、海底からの高さは1万200mとエベレストより高い。

太平洋の中心にあるハワイでも新しい島が生まれている。でも新しい島ができると台地も新しく作られ、だんだん土地が作られ、年に数センチずつ改定事、ハワイでは北西方向、北太平洋の方に海底が動いている。ハワイでも1つ島ができるとそれが動き、また次の噴火で新しい島ができる、それが長い年月の間にいくつもの島が作られ、ハワイ諸島となる。

「へえ、それをプレートテクトニクスっていうんだ。スケールがでかい話だわ」

そして次は、キラウエアの火山活動をサブメニューから選ぶ。

まずは急斜面を降りて海に近づく。するとキラウエアから流れてきた溶岩が海に注ぎ込むシーンが大迫力で目の前に広がる。1000度近くあるものが海に流れ込むと、すごい水蒸気を上げて、どんどん固まっていく。バーチャルなのですぐ目の前まで近づくこともできる。驚くばかりの風景だ。次にドローンバイクは、その熔岩を追いかけ、山を登り始める。日本の火山なら爆発に巻き込まれそうだが、ここの噴火はただトロトロと流れ出していくだけだ。そしていよいよ噴火口に近づく。キラウエアの噴火の様子だ。ドローンバイクはあっという間にキラウエアの噴火口に近づく。危険で近寄れないような場所にすいすいと地数いていく。

「うわ、すぐ目の前で溶岩が吹きあがっている」

ここは太平洋の真ん中で溶岩が湧きあがってくる地域なので、もちろん危険な爆発もあるが、溶岩の粘りが少なく、トロトロの熔岩がそのまま吹きあがってくるような爆発が多い。

今目の前にある噴火口は大きな長い割れ目から何mにもわたって細長く柔らかな溶岩が噴水のように吹きあがっていた。

その粘度が低い熔岩は流れやすいので、上に重なって高くなる富士山など日本の火山とは異なり、火山の熔岩は広がり、底辺の広い、お盆を伏せたような盾状火山になる。

流れ出した溶岩は遠くまで流れ、やがて海に沈んで固まる。

そしてドローンバイクはワープして、さっとキラウエアの斜面まで戻ると、今度は雨の少ない西へと舵をとった。途中で島の西南部にある砂漠へと降下していく。今度は、そこは赤茶けた火星の表面のような砂漠と溶岩の大地が広がる荒涼とした場所だった。

唯一この辺りに生えているのはあの見事な赤い花のオヒヤレフア、実は溶岩が流れた後に一番先に咲く、生命力のある花としても有名なのだ。

「ドハハハハ、いよいよ来たな、スカルマスクたちよ」

それは時子が初めて見る、ロボットでもない改造人間でもない、宇宙人連合の大幹部たち、宇宙人の3人組だった。

同じ宇宙人の大幹部だった死神貴族オルパがつぶやいた。

「あの3人組か?強いしタフだし、なんといってもチームプレイも見事だし…、簡単には倒せないぞ」

3人のうち2人は太ったヘビの兄弟で、ナメクジが立ち上がったような、ツチノコが体を立てて歩いているような爬虫類型宇宙人で、1人500kg、2人合わせて1t、太っているけどガラガラヘビに近い、ファットマンパイパー兄弟のゼルとモラだった。そしてもう1人は、1人だけで800kg、体のまんまるなガマガエルに鎧を着せたような、両生類型の宇宙人ガマドレイクだった。

この3人に共通しているのは、見た目が恐ろしいほどのデブで、しかもみんな頭が丸く、ハゲに見えることだろうか?

ふてぶてしい、いかにも強そうなデブハゲの怪物が3人でこっちを見ている…、そんな感じだった。

タイゾウさんのスカルマスクが早速作戦;1と作戦;2をすぐに提案する。

「…つまり、奴らを怒らせ、本気にさせなければ、付け入るすきは生まれないということだ」

するとまず時子が手を上げた。

「それならまず私にやらせてください。私のロボット刑事ブロッケンは、体が丈夫で簡単にはやられませんから」

しかしその時、忍者カラクリの黒猫博士も負けじと手を上げた。

「でもあのハゲデブ3人衆は強そうですよ。どうですか時子さん、私の忍法カラクリと力を合わせるっていうのは」

「うん、一緒にやりましよ」

思えば時子も猫耳シオリも、アクションは素人だが、ボードゲームはかなりのやり手だ。2人の思考回路がうまく組み合わさってきたのかもしれなかった。そしてここにロボット刑事と忍者カラクリ博士の新タッグが誕生したのだった。そこにタイゾウパパも参加しての入念な作戦会議、みんなの目が燃えていた。

出場メンバーはタイゾウパパのスカルマスクに時子のブロッケン、シオリの忍者カラクリの黒猫博士、そしてキヌちゃんのスナイパー、セシルボウマンが選ばれた。

そしてこの荒涼としたキラウエア火山の西南の砂漠で戦いの火ぶたは切って落とされた。

まずはスカルマスクが、相手の戦力をうかがうために1人で飛び出していった。

スカルガンマックスパワー!

威力をためながら、銃をうち、突っ込んでいく。でも、デブハゲ3人衆は動じない。装甲の防衛力がもとから高い上に、ガマドレイクがバリアシールドを操り、ほとんどを跳ね返してしまうのだ。

「スカルスマッシュ!」

ファットマンパイパー兄弟は、ビョンビョンはねて機敏にかわし、ガマドレイクは大きくジャンプしてかわすと見せかけ、スカルマスクの位置を狙って着地、さっと避けていなければペッちゃんこだ。

「思ったよりずっと素早い、あの体重に押しつぶされたら即死だ」

するとそこで黒猫博士が登場、大きな声で叫んだ。

「カラクリ忍法百鬼夜行!!」。

宇宙人たちは最初その意味が分からず、あたりをうかがっていた。するといつの間にか地面に白い煙が流れたようになり、空に黒い雲が現れて、あたりが薄暗くなってきた。そして少し離れたところに黒い雲がうごめき、その中から、日本の魑魅魍魎が、妖怪たちが列を作ってこちらへ向かってくるではないか。

「なんだこれは、日本のハロウィンの行進か?」

あの真っ赤なオヒヤレフアの花の前を異形の者たちが近づいてくる。最初は薄暗い中を、ぼんやり明かりが近づいてくる。近づくとそれは提灯小鬼、提灯を持った小鬼が先頭を照らしていた。そしてそのすぐ後ろには、顔がそのまま大きな提灯になっている提灯婆、明かりがぼうっとあたりを照らす。次は行儀正しい着物姿の男の子が2人、静かに歩いてくるが、よく見ると、猫の頭と犬の頭をしている。猫童子に犬童子だ。次は白無垢姿の3人がしずしずと歩いてくる。よく見ると3人とも目も鼻もない。化け花嫁だ。口紅、お歯黒、大口の恐ろしい口が付いている。

次の2人は、お供のサムライや女官を連れてやってくる。頭に烏帽子をつけ、高貴な貴族の衣装だが、顔は蟲なのだ。蛾大臣、蝉大臣だ。次は車輪をきしませながら紫色の牛車が進んでくる。なかから姫君が外をのぞく。オボロ姫だ。彼女はこの行列にいるような妖怪を式神として操る力があり、決して怒らせてはいけない。その後ろは前進真っ黒の背の高い怪物が大きな足音で練り歩く闇坊主だ。

さらに、その後ろには小さなもののけがたくさん続く。お化けから傘、お化けやかん、お化け手鏡、お化け羽織。

そしてよく知られている妖怪も姿を見せる。1つ目小僧、ろくろ首、河童、狸、ネコマタ。

そしてさらにその後ろには、強そうな妖怪変化が続いていく。人魂虚無僧、蜘蛛姫、亡霊武者、隼天狗。そして仏像のようなふくよかで大きな顔に足が生えた目つむり大夫(めつむりだゆう)、大きな体に赤、青、茶の3面のくまどりのデカ顔が入れ替わる大妖怪歌舞伎鬼、体の大きな2人組、怪力象丸、魔法を使う獏丸。

1番最後に足の生えた歩きつづらが3人で追いかける。

「なんだこれは?ただの幻か?それとも…」

だが百鬼夜行が近づいた時、ハゲデブ軍団がにらむと、なんと提灯婆がカパッと大きな口を開け、ベロンと大きな舌とともに火の玉を吐き出した。避けるファットマンパイパー兄弟、ガマドレイクが盾で受けると、火の玉は熱を発しながら砕け散った。

「なんだこれは、プラズマキャノンか?こいつらは本物なのか?ファットマンパイパー兄弟がその丸太のようなぶっとい腕で犬童子、猫童子に殴り掛かる。

「キャイン、ニャオーン」

声がして2人はフワット消え、別の場所に姿を現す。

「殴った感触が全くなかった。やはり幻か?こいつらは一体何なんだ」

だが、化け花嫁の恐ろしい3つの口から火炎放射が噴き出した時にはさすがに奴らもあわてだした。

「アチチチ、幻でも本物でもどっちでも構わない、すべてぶっつぶすのみだ」

なんと2人のデブヘビ兄弟は、体を立ったまま縮めるとボールのようになり、ジャンプすると、立ち上がったツチノコのようになる。そんな風に体を変形させながら、ビョンビョンとはねて、周りを押しつぶしながら進むのである。ガマドレイクの方はお腹をぽよぽよさせながら強力な足で大きくジャンプし、超合金の鎧をつけたお腹ですべてをぺちゃんこだ。

奴らのめちゃくちゃな重量攻撃で、ほとんどのお化けは少し攻撃して、さっと逃げたり消えたりしていく。だが攻撃がオボロ姫に及びそうになった時、2匹の妖怪が前に躍り出る。

「グフォフォフォフォ、目つむり大夫でやんす」

そう言って足の生えた目を閉じた巨大な顔が笑う。

「われは、歌舞伎鬼の荒琴十八郎なありいい」

そう言って大きく見えを切る。どちらも2mほどもある怪物だが、

目つむり太夫はよく見ると大きな瞳は閉じたまま、横に張り出した大きな耳の先にふくよかな指が付いていて、どうやら手のようだ。その手を振りながら、ぷにぷに体を震わせて歩く、得体のしれない肉の塊だ。パイパー兄弟の兄のジェムは、このぷにぷに動く肉の塊に何か不気味な怖さを感じて近づき、殴ってやろうと拳をふりあげた。だがその時、なにか急に眠気を感じ、手が止まった。

「まあこのぷにぷにの肉の塊はどうでもいい、隣の奴から殴り倒そう」

歌舞伎鬼の、荒琴銃八郎は体もデカいが頭も漫画みたいに大きい。人間の倍ほどもある大きな白塗りの頭に阿修羅像のように顔が3面ついている。それぞれにくまどりの色が違う。赤は正義の赤、青は悪の青、茶色は化け物の茶色だ。ちなみに今日のくまどりは、義経、弁慶、土蜘蛛に似ている。

「なにい?!俺のパンチを跳ね返しただと!」

パイパー兄弟の兄のジェムが素っ頓狂な声を上げた。歌舞伎鬼の顔を殴ろうとしたら、確かに感触のある力強い腕に受け止められ、突き飛ばされたのだ。

そしてさらに赤の隈取の面がくるりと青い隈取面に代わり、今度は力強く殴り返してきたのだ。

「けっこうな力だ、この歌舞伎鬼は侮れないぞ」

さらに今度は茶色の面に代わると、目のあたりが光り出し、怪光線が発射された。

「ぐおおお、なんてこった、こいつはとんでもない日本の化け物だ。弟よ、合体攻撃で一気につぶすぞ」

「合点だ、兄者」

その声を確認したタイゾウパパは、キヌちゃんのスナイパー、セシルボウマンに出撃命令を告げた。

「オーケー、じゃあ、ペイント弾ライフルを用意して、特殊攻撃を実行するわ」

セシルボウマンは近くの岩山に陣取り、ペイント弾を打ち出すライフルをセット、さらにペイント弾ではない特殊な銃弾を用意した。

その頃、パイパー兄弟と歌舞伎鬼は殴ったり殴り返したり、激しい攻防を繰り広げていた。

パイパー兄弟は太い胴体の下に細長いヘビのしっぽを隠し持っていて、必要に応じてムチ攻撃や首を狙っての締め上げ攻撃、さらに強力な血管毒も持っているのでいざとなったら噛みつき攻撃も強力である。だが相手が妖怪のせいか首をしめても毒液攻撃をしても全く効果がなく、結局は殴り合いになってしまうのだ。

ところでもう1人の目つむり太夫は、そいつと戦うと眠くなると言われて戦いの輪から外されていた。

「ようし、パイパーサンドイッチ攻撃!」

なんと体重500kgの兄弟が右と左から跳びはねながら突進し歌舞伎鬼を左右から挟んで押しつぶすのだ。

ガシャバチーン!

物凄い勢いで2人のデブが挟み込む。

「ううむむむ、われは、荒琴十八郎なありいい」

ふらふらになりながらも、歌舞伎鬼は立ち上がり、みえを切る。

「しぶとい奴だ、必殺技で決着をつけてやる」

セシルボウマンはこの時とばかりに銃弾の交換作業を終了し、ライフルをセットして、パイパー兄弟やガマドレイクを狙い始めた。

行くぞ、スーパーファットマントリプルプレス!

その時歌舞伎鬼はなぜか一度しゃがみこみ体を縮め、また立ち上がって大きく伸びをした。そして10歩ほど歩いて、溶岩の舞台の上に進み出ると、大きな声で叫んだ。

「われは不死身の歌舞伎鬼なり。貴様らの攻撃ではびくともせぬ」

「なんだと!」

するとファットマンパイパー兄弟がビョンビョン跳ね始めた

そしてガマドレイクが超低音振動派の特殊な鳴き声音波を歌舞伎鬼に浴びせた。

「私の破壊音波を味わうがいい、ゲゲゲゲロゲーロ!!」

「な、何だこの振動は?!」

破壊音波を受けた歌舞伎鬼は、動けなくなりうずくまった。

「行くぞ、フィニーッシュ!」

まず大きくジャンプした兄が500kgでおなかからボディプレス、歌舞伎鬼の体が溶岩にめり込むような衝撃だ。そしてすぐに弟がその上にダブルプレス、さらに500kg、合わせて1tだ。そこにガマドレイクが800kgでとどめのプレスだ。

そしてここがチームプレイで、ガマドレイクのプレスの直前、パイパー兄弟は、さっと左右に転がり、ガマドレイクの超合金の鎧だけが獲物に直撃、とどめとなるのだ。

だが、今回、なぜか兄弟は2人とも動けず、800kgの超合金の塊は下の2人に直撃した!!

デブ兄弟が悲鳴を上げる。

「グゲエエエエ、痛いです、重いです…、ガマドレイク様、速く下りてください」

「それが多分お前たちと同じ理由で、全く動けん、接着剤のようなもので腹がくっついて取れないのだ」

なんと3人が飛び上がって技を仕掛けようとした直前に、キヌちゃんのセシルボウマンが接着剤の入ったペイント弾を3人の大きな腹に命中させていたのだ。

今デブハゲ3人衆は瞬間接着剤でくっついたお腹がとれず動けず、

デブハゲの肉塊と化していたのだ。

「畜生、こうなったらこのガマドレイクの破壊音波ですべてを破壊しつくしてやる」

だがその時、あのぷにぷにした目つむり大夫が出てきて、ガマドレイクの前で優しく笑った。すると動けなくなったガマドレイクもパイパー兄弟もその攻撃をまともに受けたのか、ぐっすり眠り、戦いは静かに終わった。

3人の大きないびきが聞こえる中、荒涼とした溶岩の大地と赤い砂漠の風景の上に勝利の表示がドカンと出た。

「やったー、4面クリアだ」

わきたつみんな。すると黒猫博士がひょいと出てきて叫んだ。

「百鬼夜行、これにて終了」

するとあれだけたくさんいたもののけたちがふわーっと消えていき、その本当の正体を現した。すべては立体映像と数十基のカラクリドローンの組み合わせだった。ドローンの上に妖怪の画像とレーザー中やプラズマキャノンなどがのっていて、それで時々攻撃もしてきたのだった。だからほとんどの妖怪は実体のない幻。小さな武器を乗せただけのドローンだったのだ。では殴り合いをしていた歌舞伎鬼や相手を眠らせていた目つむり太夫はどうなっていたのか?

終わってからひょっこり出てきた歌舞伎鬼の正体は、防衛力の高い、時子のロボット刑事ブロッケンだったのだ。さいごに一度しゃがんだ時に幻の歌舞伎鬼と入れ替わり、本人は透明になってそっと逃げて、デブハゲ3人衆のプレス攻撃をかわしていたのだ。

「ああ、でもあのデブに挟まれた衝撃はすごかった」

ではあの謎のぷにぷにの肉塊、目つむり太夫は何だったのか?

目つむり太夫の映像が消えると、そこに現れたのは、変わった形の銃を持ったスカルマスクではないか。耳と花をつなげたような「眠り銃」は、特別な音波と不思議な香りで眠りを誘う黒猫博士の発明だった。もちろん、ロボット屋アンドロイドには降下はない。スカルマスクのタイゾウパパは謎の妖怪に姿を変えて百鬼夜行をうまく導いていたのだという。相手を本気にさせて最後の必殺技まで出させるのは相当の苦労だった。

「よし、ついに最終ステージだ。相手はめちゃくちゃ強いけど。ついに最後だぞ」

「今度はどこに行くんですか?」

時子の問いにタイゾウパパは笑って校答えた。

「ハワイ島で一番高いところ、富士山より高い4205mのマウナケアの山頂さ。ハワイなのに年に数回雪が降るという場所だ」

「ハワイなのに雪が降る場所があるの?」

「そうだよ、さあ出かけよ」

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