19 作られた楽園

移動前、タイゾウパパはみんなに言った。

「次に戦うゴーリキ将軍はゴリラ型の改造人間だ。サムライ精神をインプットされたAIを埋め込まれたサイボーグ戦士だ。今まで何度となく戦い、お互いに手の内は知り尽くしている。前回の戦闘で、巻き込まれた客船の乗客を自分で傷つきながらも助けるという、怪人とも思えない行動を見せたのがゴーリキ将軍だ。奴は、かなり強いし、不死身かと思うほど粘り強くあきらめない。だが、卑怯な手や不公平なことはしない。そこが奴を憎み切れない点であり、ある意味、弱点かもしれない」

ハワイ島は東風の貿易風が吹く関係で、いつも山の東側で降水量が多く、西側では少ない。そこで同じ島でも降水量の多い東側は熱帯や亜熱帯の気候になるのに、西側は乾燥して、砂漠が見られるのだ。ハワイ島の東側斜面にある前線基地に名将ゴーリキ将軍が姿を現した。

広大なパイナップルの畑を見下ろす丘の上、ハイビスカスの咲き乱れる小さな広場があり、その周辺に、バナナやパパイヤ、マンゴー、ドラゴンフルーツなどおなじみのフルーツがたわわに実る果樹園がある。さきほどの白いビーチやヤシの林などとともに、いかにもハワイという感じだが、ここにあるフルーツのほとんどと美しい花は東南アジアから持ち込まれたもので、あの有名なマカダミアナッツでさえ、オーストラリアから防風林として持ち込まれた樹木の木の実である。

ハワイで昔からあるとされている、ココヤシ、タロイモ、パンノ木、サトウキビ、ククイなどの植物も、1500年前にハワイにやってきた先住民のポリネシア人が持ち込んだものであり、カヌープラントと呼ばれている。もともとのハワイは絶海の孤島であり、美しい花もフルーツもほとんどなかった。人間によって作られた夢の楽園、それがハワイだ。

中央の広場に収穫した食べごろのフルーツを担いでこの果樹園の農民たちがにこやかに入ってくる。

だが、そこにチーム緑ヶ丘を倒すため、不気味な戦闘員が集まってくる。ハワイ総合観光「HSK」の大きなロゴの入ったアロハシャツやTシャツを見せられると農民たちは何も文句を言えない。蜘蛛の子を散らすように帰っていく農民たち。

そしてたわわに実るバナナの影から将軍が到着だ。今度の戦いに向けた新兵器を用意しているようだ。早速戦闘員が台車に乗せた2つの箱を運んでくる。HSKの大きなロゴが入っている。台車も入れると高さ1、8m以上ある大きめの箱だ。

「よし、この広場の奥に置くのだ」

だがその時、戦闘員の1人が台車をハイビスカスの枝に引っ掛け、花が1輪、2厘と堕ちた。将軍は落ちた美しい花を踏まれないように拾うと、農民たちが置き忘れたフルーツの山にそっとかざった。

「花も生きている。気を付けるのだ」

そんな将軍だった。

この新兵器の開発には時間と並々ならぬ労力がかかっている。

「今度は必ず勝つ」

最初にスカルマスクに負けたときは、体中に超合金のメタルアーマーを取り付け、重くなった分エンジンのパワーを2倍に上げた。次に強化されたスカルマスクの必殺技を受けたときは、体の右半分が大ダメージをくらい、右腕右脚がハイパワーのメタル部品に代わり、何でも握りつぶす必殺武器のクラッシュグローブを手に入れた。

そして今回この戦いのために用意された新兵器が今の箱だ。将軍はそれから見晴らしのいい広場の端まで歩くと、スカルマスクを待つことにした。するとしばらくして、山の斜面を何か飛行物体が近づいてくる。ヘリコプターか?でも音がずっと小さい。

「気を付けろ!奴らスパイ用のドローンバイクでやってきた」

それは1人乗りのバイクの四方にドローンのついた、静かに敵に近づける最新の乗り物だった。小さく高度も低いので、レーダーにも映りにくく、あっという間にチーム緑ヶ丘は果樹園の上空まで近づいていた。

将軍の姿を早速見つけたタイゾウパパのスカルマスクは、不適にも将軍の正面にドローンバイクを着陸させると、バイクを降りて将軍をまっすぐ見つめ、言葉をかけた。

「お久しぶり。この間は沈没寸前の豪華客船から乗組員や乗客を助けてくれて心より感謝する。本当はあなたと戦いたくはない…」

「最強の戦士よ、正々堂々のお前の戦い方にはいつも敬意さえ感じる。だからこそ、持てる力をすべて出し、最高の攻撃でお前を迎えよう。行くぞスカルマスク!」

ゴーリキ将軍は必殺のクラッシュグローブをはめたままの右手を振り回し、アッパー、フックとまずはパンチ攻撃だ。とんでもないパワーでしかも切れ味が増している。スカルマスクもスカルガンで迎え撃つが、超合金で固めた奴の体にはほとんどダメージはない。

「どうした、逃げるばかりかな、スカルマスクよ」

「何を?!」

負けじとスカルマスクは強力な技を繰り出す。

「スカルスマッシュ!」

スカルマスクの連続パンチからエネルギー波の出る強力な技が決まる。さっと将軍は避けるが、爆風に巻き込まれてバランスを崩す。スカルマスクは続けて技を出す。

「スカルマスク流星キック!」

スカルマスクは大きくジャンプしエネルギーをためながら将軍めがけて急降下する。だが将軍もとっさにクラッシュグローブを広げながら叫ぶ。

「クラッシュグローブパワーバリア!」

すると大きな手のひらの形のバリアが広がり、流星キックと正面衝突だ。ズバーン、激しい爆発が起こる。

「な、なに!流星キックが跳ね返されただと?!」

「なんてパワーだ」

まともに戦っても奴は倒せない。スカルマスクは次の手を考えた。

「アルティメットリー、お前の出番だ」

するとドローンバイクからもう1人がさっと近づいてきた。白いマスクで顔を隠した謎のカンフー戦士だ。強化サイボーグだと言われているが、性別も生い立ちもまったくわからない。体の周りを自在に飛び回るエネルギーバリアを使いこなし、銃弾や飛び道具にも動じない。必要とあらば、金属を切るという銀星刀を見事に使いこなし、攻撃力も侮れない。

もちろん使い手はリンちゃんだ。彼女は全身の動きをカメラで撮り動きをそのまま画面に反映させる特殊なコントローラーを使い、プレイベースの中で実際に跳びはねながらプレイしている。

「ぬ、なんだこいつは、技が連続してつながり、切れがよく隙がない。アルティメットリーだと?覚えておこう」

なんと、豪快な将軍のパンチはすべてギリギリでかわされ、さっと間合いに入ってくるアルティメットリーの蹴りや突きが次々とヒットするのだ。

「ふ、やるわい。だがこちらもいよいよ新兵器を使わせてもらうかのう」

そのとたん、庭の奥に置かれていた箱の側面がパタンと開き、2つの影が飛び出してきた。なんとそいつらは4本足で高速で走行し、あっという間に将軍の横に2匹で並んだ。スカルマスクが叫ぶ。

「おお、こいつは強そうだ。アルティメットリー、一気につぶす、合体ブーメラン攻撃だ」

「了解。」

するとリーガ新兵器の方向に2つのブーメラン剣を左右に発射し、スカルマスクも将軍の上空にナイフを投げた。その上でリートスカルマスクは将軍と新兵器に向けて正面から襲い掛かったのである。

上空と左右からの攻撃を避けていれば正面からの襲撃に後れを取り、正面からの攻撃をまともに受ければ、ナイフと剣が体に刺さる。さあ、どうする?!

だが2体の新兵器はいち早く左右に動いて炎と雷でブーメラン攻撃を撃ち落し、将軍もクラッシュグローブショットで上空からのナイフを上がりきらぬうちに撃ち落す、その間に2匹の新兵器はもう態勢を整えてスカルマスクとリーを迎え撃っていた。ライオンに似た獣型のロボットらしい。身軽で高速で動けるようだ。

さらに将軍はあの50cm以上あるクラッシュグローブを広げてつかみかかり、さらに2匹の高速起動メカの炎攻撃と雷攻撃が空中を飛び交う。

スカルマスクはガンソードで跳ね返し、リーは紙一重の体術でかわしていく。

「私の指令電波で思うままに動いてくれるかしこいシモベだ。猫の敏捷さと犬の忠実さを兼ね備えた狛犬型高速機動メカヒライアンとライライアンだ。

奴らは時速70kmで走り、ヒライアンは腕や足に炎の紋章を付け、口から高温の炎を吐き、ライライアンは、イナズマの紋章を付け、放電する超合金の牙で何でもかみ砕いてしまうのだ。すると負けじとスカルマスクが叫ぶ。

「私の新しい必殺技を見せてやろう。重力エンジンを使った技だ。スカルゴッドプレッシャーパンチ!」

この技は危険だ、そう感じた将軍は、ヒライアンとライライアンに下がっていろと命令を出し、スカルマスクの方に進み出た。

すると上空に数mもある巨大な拳が現れ、将軍を狙って、押しつぶすように打ち下ろされたのだった。

ズガーン!

「やったか」

将軍は巨大な拳とともに地面にめり込む。だがやがて巨大な拳は少しづつ持ち上がり、将軍はなんと、少しずつ立ち上がり始める。

「なんというパワーだ。だがこれでどうだ、パワー注入!」

巨大な拳にさらに重力パワーが加わる。さすがの将軍の表情がゆがむ、少しずつ拳が下に下がってくる。だがその時だった。

「ワワン!」

なんと下がるように言われていた狛犬メカが2匹とも、拳の下に潜り込み、一緒に拳を持ち上げだしたのだ。

「お、お前ら!」

巨大な拳は1度止まり、そして少しずつ上がり始めたではないか?!やがて将軍が立ち上がり、目よりも高く持ち上げ投げ捨てる。

「うおおおおおう!」

巨大な拳は光の粒子となって消えていく。

「お前たちのおかげで助かった。もう負けない」!

互いの攻撃はすべて跳ね返され、スカルマスクと将軍は向かい合ってにらみあった。強い。お互い隙が無い。スカルマスクが動いた。

「忍者ヌエと黒猫博士よ力を貸してくれ。闇玉の陣だ」

「ははっ、かしこまり」

すると、暗闇でもよく見えるコウモリメガネをかけてさっと現れたのは忍者ヌエと黒猫博士、使い手はサトミとシオリの2人組、周囲に煙球を放った。周囲は数秒の間黒く煙って何も見えなくなる。真っ暗で将軍も何も見えない。その間、ヒライアンとライライアンの2匹の狛犬型機動メカは動きが止まる。

「動きが止まったか、やはりな…」

そう狛犬ロボは将軍の指示や電波がないと一瞬動きが止まるのだ。

そのほんの数秒の間に何かが起きた。

空中を何かが飛び交った。だが金属音がして、煙が晴てくると、将軍にも狛犬メカにも何のダメージもなかった。

「短い闇を使っての手裏剣攻撃か。だがあいにく、私も狛犬たちも、手裏剣では傷もつかぬわ。では今度はこちらの番だ」

敵は将軍と2体の狛犬の3体、こちらはスカルマスク、アルティメットリー、忍者ヌエと黒猫博士の計4人、出場人数はもう一杯だ。

「必殺銀星刀!」

アルティメットリーがすらりと銀色に輝く刀を抜く。

「火竜盤の術!」

2人の忍者は爆薬を搭載したステルスドローンを呼び出す。火竜の盤は炎を噴き出しながら回転し、そのまま将軍に襲い掛かる。

「ウライアン、サライアンよ、お前たちのスピードと破壊力であの白いマスクのカンフー戦士を倒すのだ」

将軍はそう支持すると、自分では、クラッシュグローブを振り上げ、まずは1撃で忍者たちのステルスドローンを握りつぶした。そして2体の狛犬は素晴らしい瞬発力で左右に分かれると、今度は跳びはねながら、2方向から、アルティメットリーに踊るようにとびかかった。

リーの銀星剣がうなる。火の玉と雷がリーに同時に襲い掛かる!

だがそのタイミングでスカルマスクは忍者たちに合図を送った。

「今だ」

ズバババーン!

「こざかしい忍者ども、これで終わりだ」

ゴーリキ将軍のクラッシュグローブが女忍者に振り下ろされる。

しかし、悲鳴は聞こえない。

「うぬぬ、これはどういうことだ」

女忍者は突然消え、巨大なクラッシュグローブは空を掴んでいた。

「忍術、立体画像変わり身の術!」

さらに狛犬はとんでもないことになっていた。

「キャン、キャキャーン」

将軍が慌てて駆け寄る。

「ヒライアン、ライライアン、一体どうした」

2匹の狛犬ロボは、アルティメットリーに左右から同時に襲い掛かった瞬間突然空中で激突し、炎と雷が爆発、ダメージを負って、そのまま地面に墜落、うごかなくなった。

なんと先ほどの短い闇の間、手裏剣と見せかけて、ヌエと黒猫博士の2人は、動きの止まった狛犬に近づき、博士発明の強力な磁気を出す電磁爆弾を仕掛けたのだ。スカルマスクの合図で電磁爆弾のスイッチを入れれば強力な磁気で、電気系統がマヒして、そのまま左右からとびかかったはずが互いを攻撃、激突したのである。

「うう、ぬかったわ。こんな簡単な罠に気付かないとは…。私のミスだ」

その狛犬たちののど元にアルティメットリーが大きな剣を振り上げた。その時だった。

「ま、待ってくれ。私の負けだ、とどめは刺さないでくれ」

将軍は頭を下げ、負けを認めた。アルティメットリーが剣をしまうと、将軍はそのまま怪力で狛犬たちを両脇に抱え、撤退を始めた。

「すまぬ、私の失敗でお前たちをこんなめに…。アルティメットリーよ、感謝する」

狛犬たちはすぐに修理され、また姿を現すに違いない。

その時、画面に勝利が表示される。

「やったー、2回戦も突破だ」

農園の農民が、山のように盛り付けされた、ハワイのバナナやパイン、マンゴーやパパイヤなどを皿に盛ってにこにこしながらやってくる。その傍らには将軍が大切にしたハイビスカスが咲いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る