20 ハワイミツスイ

今度はみんな、ドローンバイクにもう1度またがり、東側のジャングルの中を自由飛行だという。

「え、うまく着陸できるのかしら?」

サトミが心配していると、タイゾウパパがこう言った。

「はは、さっきの潜水艦と一緒だ、見たいものや行きたいところを指定するだけでそこまで自動運転だよ」

早速画面にメニューが出てくる。

1;敵の基地までの移動方法と戦闘場所の地形。

2;予想される敵の怪人の概要。

NEW3;ハワイの地上の生き物、昆虫から鳥まで。

4;ハワイの観光、観光名所、特産物、フルーツからナッツ、コーヒーまで。

5;ハワイの観光、歴史、カメハメハ大王物語。

6;ハワイの自然、火山編。

NEW7;ハワイの自然、固有種や貴重な生き物。

「あら、新しい項目があるわ」

時子は7を選び、その中のサブメニューの「ハワイミツスイ」を選んだ。そのとたん時子のドローンバイクは静かに降下をはじめ、ジャングルの中の広場に着陸した。

そこは目の前に大木のある広場で奥には広い森が広がっていた。

「あっ!」

すると遠くから赤い美しい小鳥が舞い降り、目の前の大きな木の枝にとまった。

「わあ、きれい、こんな小鳥がハワイの森の中にいるんだ」

それは、現在もハワイ島にいるベニハワイミツスイという鳥であった。しかしそれから画面に映ったハワイミツスイの歴史は過酷なものだった。

ハワイミツスイ類は、スズメ目アトリ科ヒワ亜科の鳥だ。約350万年前、絶海の孤島だったハワイに北米からハワイミツスイの先祖が舞い降りた。その後、ハワイミツスイは環境に適応し、すむ場所や食べ物によって、さまざまに進化していった。ガラパゴス島の適応放散したダーウィンフィンチも有名だが、ハワイミツスイの方がさらに多様で変化に富んでいた。羽毛の色も赤から黒まであり、大きさも10cm~20cmと様々で、嘴は、イカルのような木の実を割るのに適した太いものからハチドリのような蜜を吸うのに適した細くて長いものまで色々あった。

画面で解説されるたびに嘴の太いのやら細長いのやら新しい鳥が飛んできて、目の前の枝にとまる。それと同時にサブ画面で嘴や羽毛が大写しになる。そして1羽、また1羽とミツスイの種類は増えていき、最後には画面に1つの鳥から分かれていった50種類近くの樹形図のようなハワイミツスイの画像が広がり、元気そうに一斉に羽ばたいた。ところが今度は、その鳥の画像が一羽ずつ、だんだん色あせていく。

「え、一体なにがあったの?」

美しい羽毛は羽飾りに乱獲され、住処である森林は入植者によって破壊され、そして人間が持ち込んだ他の鳥が餌を奪い、島内で繁殖したクマネズミが巣を襲った。

中でも大きな原因と考えられるのが鳥マラリア、鳥ポックスなどの感染症である。

20世紀初頭に、愛鳥家たちが、南北アメリカや東南アジア、アフリカから約100種類の鳥をハワイに放った記録がある。感染症はその中の鳥が持ち込み、人間が持ち込んだネッタイアカイエカによって広まったと考えられている。

そしてもともと推定50種類以上あったと考えられているハワイミツスイは、どんどん種類を減らし、近代まで生存が確認されていた41種のうち、17種がすでに絶滅し、13種が絶滅寸前にある。現在の環境に適応して数が安定しているのは3種だけとなる。

あんなにたくさんいたハワイミツスイは、滅びたものから白黒に代わっていった。

1番最後には、現在まで生き残っている16種のハワイミツスイだけがカラーのまま枝に残り、そして美しくさえずると、羽ばたいて飛んでいった。

「へえ、ハワイでも環境問題は大変なのね」

しかし進化の実験室と呼ばれているガラパゴスより凄いところがハワイにあったとは…。正直驚いた。でもハワイにはゾウガメや、海イグアナはいない。ガラパゴスの約5倍も大陸から離れているから、他の生き物が流れ着き、増えるのは難しかったのだろう。

画像が終わると時子のドローンバイクはゆっくりと離陸し、しばらく飛ぶと、今度は谷合の清らかな滝のある所へと降下を始めた。

やがてしばらくすると、チーム緑ヶ丘の全員がそこに集まってきていた。

左側のごうごうと流れる滝は清らかですぐ近くに滝つぼが見える。ここは聖なる場所で、古代のハワイの王も水浴びに来ていたという。そこから川が大きくカーブし、またジャングルの中へ流れ込んでいく。その川沿いには熱帯の派手な色彩の花が咲き乱れ、美しい小鳥が水を飲みに訪れる。この滝つぼと蛇行する川に囲まれたエリアはハワイミツスイの水飲み場でもある。ここをさらに下っていくと木製シダの林があり、さらに下には、先住民のタロイモ畑のある湿地帯に出るそうだ。タイゾウパパがみんなに言った。

「我々の気配に気づいて、怪人たちがやってきたようだ。今度は森から、滝つぼから、そして河原の岩陰からと3方向から近づいてきたようだな。では、私とホノカのコンビで森からの奴らを迎え撃とう。大河さん、河原の岩陰の奴を、そしてリンちゃん、滝つぼのあたりに隠れている奴を頼む」

みんなざわざわと動き出した。今度の敵もかなりの強者らしい。

「今度は、敵は3方向から来るやつ全員で4人のようだ。あとこちらのチームはもう1名出せる。相手の出方によってこちらも誰を出すか考えないといけない。あとはいつ呼ばれてもいいように、みんな覚悟しておいてくれ。じゃあ、行くぞみんな!」

「はい」

大河さんは、河原へと出かけ、リンちゃんは滝の裏手へと回って消えていった。タイゾウパパとホノカちゃんは森の中へと進み出る。いよいよ勝負だ。

森の中には、漆黒の復讐者、あの因縁のハサミムシ怪人のメガザスと、やはり何度も対戦したムカデ怪人のガデムが待っていた。

「フフフ、俺様にはハワイ征服だの基地の防衛だのは関係ない。スカルマスク、お前を地獄に引きずり込むためだけにここにやってきた。そのために俺様もガデムもさらに体を強化改造してやってきたのだ。さあ、まずは、お前と会う日のために私が用意したプレゼントを味わうがよい」

「プレゼントだと?!」

するとその時、森の中から湧いて出るように、ガイコツのような不気味なロボットたちが20体ほど次々と姿を現したではないか。

その頃、河原へと歩いていったのは、大河さんの死神貴族オルパだった。人間型の宇宙人だが、強靭な肉体と地球人の数百倍の視力や嗅覚を持つ。格調高いスーツに白い肌と長い銀髪、そして堀の深いなかなかのハンサムだ。そのオルパの前にはメタルブラックの不思議な怪人が現れた。なんと光を浴びると、漆黒のボディが虹の色に照り返すのだ。

「ハンミョウ怪人オメガニクスだ。おお、死神貴族オルパ様。これはこれは宇宙人連合の大幹部だったお方だ。私のような改造人間があなたと戦えるとは光栄だ」

だが死神貴族オルパは慎重に答えた。

「改造人間研究所のラモー博士に一度聞いたんだ、宇宙人、ロボット、改造人間で1番強いのは誰でしょうかねってね。すると。ラモー博士はしばらく考えてから答えたよ。宇宙人なら、エッグスクリームかな。ロボットなら、ボムナックルボルカーか、スカラベリダかな。単純に殴り合うならボルナックルボルカーに間違いはないんだが。改造人間ではまあ、それぞれの怪人が得意なフィールドと言うものがあるから難しいが、もし広々とした場所で、かつ特別な兵器を使わなければ、私はあの虹色の殺戮者との異名をとる、オメガニクスを推すかな。と言っていた。昆虫型の怪人ならカブトムシやクワガタなどの怪人もいるが、あいつは唯一の肉食系甲虫の怪人で、他の生き物を狩るハンターだからね。具体的な理由は戦ってみればわかると言っていたがね」

「ではその虹色の殺戮者の理由を実際にお見せしましょう」

そのとたん、細身のオメガニクスの体中の関節や出っ張りに超合金の刃が飛び出し、さらに肉食昆虫特有の精悍でクール、かつ凶悪な牙やカギヅメも金属音とともに長くなった。特に腕からひじの大きな刃、肩から延びる剣上の突起、足の大きなカギ爪が目立つ。

そして驚くべきは、次の瞬間、かすかなブンブン言う低い羽音とともにオメガニクスは地上から40cmほど浮き上がったではないか。そしてよく目を凝らせば、背中の甲が少し開き、透明な羽が凄い勢いで羽ばたいているのだ。そしてその次の瞬間、ヴォンと言う大きな振動とともに、何の前触れもなく、オメガニクスはオルパのいるところに、空中に浮いたままありえない高速でダッシュしてきたのだ。

「ウオオオオオオオ!」

まるで虹色の光の矢だった。オルパはギリギリで運良くかわしたが危なかった。

「次の動きを予測させる前触れもほとんどなく、それも突然ありえないスピードで凶器のボディが最初から高速でダッシュして向かってくる。どういう仕掛けだ」

するとオメガニクスは静かに答えた。

「今ではあなたの相棒のスカルマスクも持っている重力エンジンを私はこんな風に使っているのです。体重をその都度軽くして、羽の力で浮いて進んでいるのです。こちらも驚きましたよ。私のファーストアタックを無傷でかわしたのはオルパ様、あなたが初めてです」

あんな体中が凶器のような奴に突進されたら、命がいくつあっても足りやしない。しかもこのオメガニクスも重装備で、簡単には銃弾も通りそうもない。

死神貴族オルパは、必殺武器のオルパキャノンをしっかりと右手に持ち、攻撃態勢をとった。

オメガニクス、とんでもない敵と出会ってしまった。

アルティメットリーも滝つぼに近づきながら緊張を高めていた。ここは地形も複雑だし、なんといっても滝の音ですべてが打ち消されてしまうのだ。しかも敵はどこに隠れているのかまだ姿を表そうとしない。蛇行する川に近づくか、それとも滝つぼか、滝の裏に洞窟のようなものもあり、そこも怪しい。アルティメットリーは、全神経を集中して、滝つぼへと近づいていった。

ちょうどその時、スカルマスクは近づいてきたスカルロイドを見て叫んでいた。

「これは、スカルロイド、目の色がおかしい、お前たち、私の昔の部下に何をした」

森の中から近づいてきたそいつらはガイコツにそっくりの戦闘アンドロイド、スカルロイドだ。スカルマスクが地球人の見方になった後、倉庫にしまわれていたはずだったが。

「ハハハハ、昔の自分の部下たちに倒されるがいい…。行け、スカルロイド達よ」

スカルロイド達は両手を振り上げ、ゆっくりとスカルマスクたちに向かって歩き出した。スカルマスクのような、ずば抜けた強さはもちろんないが、戦闘パーツはほぼ同じものを使っているので、逆に言うとそれほど弱くもない。

「ぱぱ、これって対戦ルール違反じゃないの?敵が多すぎ!」

「はは、それが違うんだなあ、すぐにわかるよ」

そのスカルロイド達に混ざって、メガザスとガデムもこちらに攻めてくる、こいつたちはマジにヤバイ。2人とも何回も戦っていてこちらの戦力もわかっているし、しかも2人はそのたびにやはり確実に強くなっているのだ。メガザスは右手を槍が飛び出すように強化し、さらに左手の挟んだものを確実に切断するギロチンの刃を加え、さらに今回はどこが強くなっているのか?

ムカデ怪人ガデムは伸びる首と毒牙が武器の危険な怪人だった。改造後は、顎が頑丈になり、ついているハサミのような牙が超合金になった。そして、金属を腐食させる超強力な酸の毒が加えられて、ロボットでも倒せるようになった。そして今回、上半身全体が改造されたらしいのだが、一体どんな風に強化されたのか?

スカルマスクは最初にやってきたスカルロイドを電磁張り手で気絶させるとスカルジェニーに言った。

「スカルジェニーよ、命令回路を調べてくれ」

「あ、そういうことね、わかったわ。あ、ちゃんと調べるメニューが新しくなっているわ、さすがね、パパ」

そう言っている間も敵はどんどん攻めてくる。

「スカルスマッシュ!」

パンチから繰り出すエネルギー波で数人が吹き飛ぶ。

「電磁張り手!」

強力な電磁波で、1発で気絶だ。

「スカルハンドソード、&大切断チョップ!」

手の先から出た光が剣となり、相手の体を真っ二つだ。

3人をあっという間に倒したが、敵はまだまだ山のようにいる。

「パパ、調べたら、新しい命令装置がつけられている。何とかなりそうだわ」

するとスカルジェニーは大きく手を振り上げて叫んだ。

「スカルジェニー、電磁ストーム!」

スカルジェニーの体が輝くと、凄まじい電磁気の嵐が吹き、スカルロイドに付け足されたた新しい命令回路はすべてはじけ飛んだ。

「どわああ!」

するとスカルロイド達の目の色は元通りに治ったのだった。

そこでスカルマスクが叫ぶ!

「わが部下スカルロイドよ、そこにいるメガザスとガデムを倒すのだ」

「おーっ!」

「な、なんだと!」

「スカルロイドよ、戦闘モード07だ」

なんということ、スカルロイドは一転してメガザスとガデムに襲い掛かる。しかも今度はスカルマスクの命令で、スカルスマッシュやハンドソードを使い、組織的にきちんと動いている。スカルマスクが、久しぶりに悪魔のような笑みを浮かべる。

「フハハハハ、スカルロイドの操り方も知らずに愚かな者たちよ、自分たちの目覚めさせた恐怖を自分たちで味わうがよい」

残りの15人ほどのスカルロイドが手の先からエネルギーソードを出し、威嚇しながら迫ってくる。だが、メガザスもガデムも、まだ動じなかった。

「おもしろい、ではまずお前たち雑魚から血祭だ」

メガザスが体を反転させながら、右手と左手の大ハサミで、素早くスカルロイドを挟み込む。

次の瞬間、右手の手首からは槍が飛び出し串刺しに、左手の肘からはギロチンの刃がスパッとおりてきて、体は真っ二つだ。

その2人をすぐに投げ捨ててさらに暴れまくるメガザス、そして強化改造されたガデムも負けていない。以前は首だけがムカデのように長く伸びて襲い掛かってきたのだが、今度は腰から上、上半身全体がムカデのように伸びて、敵をぐるぐる巻きにして動けなくして強力な酸を流し込んだり、伸びる上半身でクレーンのように相手を高く持ち上げてからそり投げや抱え投げで落として脳天を砕いたり、相手を高く釣り上げて首つり攻撃を仕掛けたりするのだ。あっという間に2人のスカルロイドが毒液を流し込まれ、脳天を砕かれて動かなくなった。

「なかなかやるな、ではこれはどうだ。山崩しの陣、攻撃集中だ」

すると残りの10人ほどのスカルロイドが全員でスカルスマッシュを打ち込んだり、10人一緒にハンドソードで斬りかかったりし始めた。

「グオオオオ、さすがにこれではよけきれん」

「ソードの一斉攻撃だと、奴らこんなこともできたのか?!」

スカルロイドのまさかの組織的な動きに、さすがの強化怪人が弱音を吐き始めた。

その時、一瞬スカルロイド全体が少し後ろに下がった。目がですがそれに気が付き、ガデムに合図を送った。スカルマスクが叫ぶとスカルジェニーも続けた。

「新必殺技、ゴッドハンドプレッシャーパンチ!」

そう、あのゴーリキ将軍に使った重力エンジンの応用技だ。怪力の将軍は跳ね返したが、今度はどうだ?

「私も行くわ!ゴッデスヒールドロップ!」

相棒にも似た必殺技が装備されていた。

最初はあの巨大な拳が打ち下ろされ、続いて巨大なハイヒールが踏み下ろされる。ハイヒールは、重力を爪先とヒールの先端に集中するので、範囲は狭いが強力だ。

「グォ!」

ダメージを受けながらも、ギリギリで転がるように逃げるネガデス。だがガデムは最後までスカルロイドにまとわりつかれ、巨大なハイヒールが脳天に直撃、リタイヤだ、光りながら消えていく。

「ガ、ガデム!おのれ」

打倒スカルマスクに執念を燃やすメガザスは静かに立ち上がったが片足に大きなダメージを追い、うまく歩けないようだった。そして、スカルマスクをにらみつけると絞り出すような声で言った。

「ぐぐぐ…、今日のところは引き上げるが、すぐに戻ってくる…覚えておけ!」

その頃、アルティメットリーは、敵の気配のする場所を1か所に絞り込み、滝つぼへと歩いていった。滝の音が大きく何も聞こえない。リーは呼吸を整えると秘憲の呪文を唱えた。

「…円…空…心…」

リーは自分の周囲に「気」の結界をつくり、感覚を研ぎ澄ました。

滝の音が一瞬消えた。…すると…、強烈な敵の殺意が胸に突き刺さってくる。奴はすぐ近くにいる、どこだ、どんな姿でどんな能力を持っているのだ。

バシャーン!

凄い水音がして水から2m近く飛び上がり、なにかが背中から襲い掛かってきた。そいつの太い腕には頑丈な鎌のような突起があり、つかまれたら簡単には引き抜けない、そのまま水に引き込まれてもう終わりになりそうだった。

だが今のアルティメットリーにはそのとびかかるさまが、振り返りざまスローモーションのように見えた。

「トオー!」

その鋭い後ろ回し下痢は、確実に襲撃者の出鼻をくじいた。だがそいつはすぐに立ち上がるとついにその正体を見せた。

そいつは黄金の暗殺者、タガメ怪人のキラーカーメンであった。

「この滝の音の中、斜め後ろから襲い掛かった俺を、なぜお前はわかった」

「さーな」

キラーカーメンは激痛で目が明けられなくなる毒水ジェットを口の管から打ち出し、頑丈な両腕の鎌でのチョップ攻撃、鎌腕の下の手から毒針攻撃で切れ目なく攻めてくる。だが、リーの白いマスクは毒水をはじき超合金のグローブは、鎌を毒針を的確にはじいた。

「プラズマフラッシュキック!」

そして両足のエネルギースニーカーは、光りながら改造人間の胸元を砕いた。

「グオオオオオ!」、

キラーカーメンは大きなダメージを追い、滝の轟音の中、消えていった。

射撃の名手死神貴族オルパは追い詰められていた。接近戦では凶器だらけのそのボディにさんざんてこずらされた。

漆黒の体が一瞬虹色にまぶしく輝くレインボーフラッシュという技で相手の視力を一瞬奪い、そこにダッシュで接近、ガードする相手の腕ごと切り裂くブレードラッシュパンチや体をズタズタにする ブレードアタックなどの技が強烈で、かなり危なかった。

死神貴族オルパの指輪の魔力で、魔法生物ダークゴーレムを呼び出し、挟み撃ちにしようとしたのだが、最初に殴り掛かったダークゴーレムはあっという間に左腕を切り落とされ、頭を食われていた。

現在は岩の影に隠れながら射撃戦に持ち込むのだが、装甲が厚い上に、絶えず高速で動いているので銃弾は当たってもなかなか致命傷にならないのだ。

そして何より肉食甲虫のハンターのスピリットが、攻めて攻めて休むすきすら与えない。その時、オルパは残りの銃弾があと2発しかないことを知る。オメガニクスはそれに気づいたようだった。

「オメガニクス、無限の陣」

なんと今度はオメガニクスは、右手にハンドガンを握り、オルパを中心に8の字を描いて回りだした。上から見れば無限大に見える8の字である。

離れたり近づいたりしながら、銃弾をすべて撃ち尽くすように仕向け、とどめを刺すのである。だが高速なうえに意識的に少しずつ角度や形をずらしながら地面を少し浮いて突進してくるので、思ったように銃弾には当たってくれそうにない。しかもすれ違いながら攻撃がてら体の向きを変えるので後姿を狙うこともできないし、近づいてから撃とうとすれば、こっちが危ない。

じつはタイゾウさんから羽を羽ばたかせる根本、肩が弱点だと聞いてはいたのだが、肩の周りにトゲや刃が多すぎて遠くからではこれも難しい。

「よし、イチかバチかだ」

死神貴族オルパはなんと大きな岩の上に飛び乗り、迫ってくるオメガニクスに、オルパキャノンを向けた。だがこれではオメガニクスのハンドガンのいい標的だ。

「差し違えるつもりか?受けて立とう」

オメガニクスが旋回してこちらにまた近づいてくる。オルパキャノンで肩を狙い、1発撃つが、ぎりぎり当たらない。それどころかオメガニクスのハンドガンが火を噴き、よけようとしてオルパはバランスを崩す。

「あっ!」

オルパは岩の後ろへ足を踏み外し落下してしまう。万事休すだ。

「おろかな?!」

オメガニクスが、ここぞチャンスと、ハンドガンを構え、スピードを落とし近づいたその瞬間だった。

バキューン。

「うおっ!」

オメガニクスがとどめを刺すより早く、オルパキャノンが真下から火を噴いた。銃弾は真下から羽の根元を撃ち抜き、オメガニクスは墜落した。

「真下から撃つだと?!しかも私より早く?!」

大河さんの死神貴族オルパは、わざと岩の上から落ちて、待ち構えていたのだ、一瞬でも早く銃を撃つために。しかも真下から甲の隙間を狙えば、何も邪魔になるものはない。肩を撃ち抜かれたオメガニクスは苦しそうに言った。

「死神貴族オルパ…、今日は私の完敗だ。でもあなたと戦えて本当に光栄だった。傷がいえたら私は又来る。さらに強くなってね…」

オメガニクスは虹色に光りながら消えていった。

その瞬間、雲間から滝に日光が差した。

「ねえ、見て、虹よ滝に虹がかかってる」

誰かの声にみんなが滝を見た、七色の虹がきらめいていた。

画面に勝利の表示が大きく出る。

「やったー、第3ステージクリアだ」

その時、全員にタイゾウパパから連絡が入る。

「皆さんごくろうさま。3つのステージをクリアしてあとは後半の2ステージで終了だ。これからヴァーチャルゲームの中で昼ごはんだ。ハワイ名物が出るそうだから、みんな期待していいよ」

そしてタイゾウさんは愉快に笑っていた。そう言われると、本当にお腹が空いてきた気がするが、バーチャルでお腹はいっぱいになるのだろうか?

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