25 オクタゴンダイバー、熱き思い
「すごいわ時子さん、スカルマスク危機一髪インハワイの記事が、昨日ネット版を上げたばかりだけど、もう大反響ね。ネタバレしないようにうまくまとめたRPG版のストーリーやプレイポイントも魅力的だし、ヴァーチャル体験コーナーのスカイダイビングや海中散歩、火の山や星空体験なんかもイラストがわかりやすいって評判いいし、まさかの怪人図鑑やスカルマスク裏話なんかもけっこういい手ごたえだわ」
久しぶりの佐々岡さんはまあよくしゃべる。そんな佐々岡さんを見ながら、時子はニコニコして、トパーズの昼のスペシャルサラダを食べまくっていた。
グリーンヒルで大学の研究室が実験栽培しているワサビの葉や茎を使った湧き水サラダだ。ワサビは根をすりおろして食べるのだが、実は葉や茎にもワサビ独特の辛みが少しあり、和風ドレッシングで食べるとかなりおいしい。今時子は、ワサビの葉と茎とおでんサラダの野菜とトッピングに和風ドレッシングをかけて食べている。
「あのグリーンヒルの清らかな湧き水の味かも」
やがて最後の打ち合わせも大成功のうちに終わり、帰り際に佐々岡さんが言った。
「今日夕方から新しくできた現代アート美術館の記念式典があるんだけど、よかったら顔出さない?。アーティストがデザインしたおいしいスイーツがたくさん出るみたいよ」
でも時子はお茶に誘われているからと断った。時子がなにか楽しそうなので佐々岡さんはすぐに質問する。
「やけに楽しそうね、デートかしら、あ、この間の彼?」
「違います。もっといい人です」
佐々岡さんと別れ、時子はニコニコしながら店を出ていく。
「あ、時子さん、時子さんが選んだあの新製品も今日発売よ」
ホノカちゃんから声がかかる。タイゾウパパもニコニコして出迎えだ。ホノカ親子の店t&hでは新製品コーナーが充実し、この間の「大学芋グラッセ」や「焼き芋焼きプリンクルミ味」がついに売りに出された。時子はお客様用にそれらを大量に買いまくった。
さすらいカレーの大河さんも時子を見つけて声をかける。
「おや、メモリちゃん、今日は地鶏の最高のもも肉が入ったんだ。骨付き地鶏のインドカレーが久しぶりに出るよ、来るかい?」
「はーい、ちょっと遅くなるけど必ず行くからね」
ただ残念なのはサンドイッチの名店リバプールが突然閉店してしまったことだ。キヨタカさんは宇宙警察に帰って、もう職務についているのだろうか。それともしばらく休暇でも取ってるのかなあ。あああ、あのサンドイッチが食べたい、もちろんキヨタカさんの顔をながめながらね。
いなくなったと言えば、クレリア女王もファルミリアに帰ってしまった。責任感の強い女王は日本蜜蜂の世話を大学の職員に任せ、15年ぶりに母星に帰っているのだ。でも、来年の春にはまた帰ってきて、蜜蜂の世話をしたい、春夏は地球、秋冬はファルメリアで過ごしたいとも言っていた。
そして時子は駅ビルを出て商店街を抜けて、自分の家に直行だ。今日はちょっとお高いボディソープでしっかりと肌を磨き、ロイヤルゼリー入りのシャンプーで髪をつやつやにして、シャワーのあとは、丁寧に髪を整えていた。自慢の超大型冷蔵庫に冷えてもおいしいミルクティーとアイスコーヒー、大河さん仕込みのラッシー、そしてザ・スパイで買った100%ミックスジュースをたっぷり用意し、お客様を待った。
やがて柱谷家から、桂岡さんと幸花ちゃん、ジュピターから京極さんと森村さんがやってくる。幸花ちゃんは今日も至高のクッキーを、そして京極さんが餅月のパンの詰め合わせの差し入れだ。
みんなが席に着くとプロフェッサー京極さんの話が始まる。
「実はわれらのゲームカフェに先月、そこにおられる芽森時子さんが来店し、15年ほど前に作られたオクタゴンダイバーというゲームの失われたカードを捜しているというのです。そしてジュピターのみんなの協力によってそのカードはそこの桂岡さんのお宅で発見されました」
すると桂岡理事長が話し出した。
「現在住んでいる北辰神社の隣の土地は、先祖代々のものなのですが、豊かな緑やいくつもの湧き水があり、敷地内の大学の研究施設では、マスの品種改良や、ワサビの実験栽培なども行っております。そこは通称グリーンヒルと呼ばれ、この地域の方々にも親しまれております。すぐ隣の外交官の水谷さんとはよい近所づきあいをしていたのですが、そこの息子さんのノボル君がそこの時子さんと一緒にうちの庭に出入りし、専門家の指導監修のもと観察や研究を続け、中学生の時に「オクタゴンダイバー」という自然を学べるゲームにまとめてくれました」
京極さんがそのカードを箱の中から丁寧に取りだし、みんなの前に並べて見せた。
「でも見つかったのはよかったのですが、64枚のカードはすべて、字からイラストまで全部ノボル君と時子さんの手書きでとても貴重なものです。正直これを使ってゲームをするのはおすすめできません。でもそれではもったいないので、許可を得て高精細のコピー機でデジタルデータに置き換え、うちのジュピターで復刻しようと挑戦してみました。今5部の実際に遊べるものを作ってみました」
京極さんはそのカードも並べて見せてくれた。当たり前だがとてもきれいで紙質もつやつやだ。
「ゆくゆくは細かい部分を整えて手書き部分も新しくして、製品版にできたらと考えています。話し合いが終わったら、さっそくこのカードでゲームをしてみましょう」
すると今度は時子が話し出した。
「もうご存じの方もいるようですが、今、ネットで注目されているグリーンヒル通信というサイトがあります。私もイラストなどで協力していますが、中心でやっているのはこの人です」
すると幸花お嬢様がダイジェスト版のプリントをみんなに配って話し出した。
「今から15年前に大きな山火事があって、森は1度大部分が失われてしまいました。私も覚えていますが、なんか爆発の後みたいで、焼け焦げた木や枝があちこちに落ちていて、焼け焦げた強い臭いを覚えています。でも、ノボル君がどこにどんな木が生えていて、せせらぎや池はどんな様子だったのか、資料や写真をたくさん残しておいてくれたので、大学の復活プロジェクトでやっとここまで復活できました」
そう言ってお嬢様は柵の向こうのグリーンヒルを見渡し、さらに続けた。
「私はいろいろな人の力でよみがえってきたこのグリーンヒルの森と一緒に育ちました。この森によって癒され、安らぎ、わくわくし、学び、励まされてきました。最近ホタルは帰って来たけれど、まだムササビは見ていません。私はさらに研究や環境整備を頑張って、元の森以上に豊かにしていきたいと思っています。そこで、今の森の現状はどうなのか、何が問題で、何が前進したのか、これから何を取り組むべきかを広く世界に発信したいと考えてグリーンヒル通信を始めたのです。大学の環境研究チームや昔の森を良く知っているイラストレーターの時子さんの協力も得られてとても楽しく取り組んでいます。ありがとうございます」
そのあとは、あの日影にある赤レンガのテーブルでみんな腰かけてゲーム大会だ。
「ではいよいよ、伝説のオクタゴンダイバーをやるぞ!」
基本的にはトランプの7ならべだが、各カードにテーマがあったり、環境クイズなどもあり、けっこう勉強にもなる。
「私の小さいころはこのカードにあったいろんな生き物が半分もいなかったけど、15年たってやっと85%ぐらい復活して来たみたいです」
そう言って幸花ちゃんは目を輝かせた。京極さんはゲームの専門家だし、森村さんはゲームの上級者、桂岡さんもこの土地の人だが、幸花ちゃんはグリーンヒルとともに育ったためか、知識と思い入れはかなりのものだ、ゲームはどんどん盛り上がってきた。
まず、プロフェッサー京極が、ヨーロッパで環境運動を記念して発行されたという、森とせせらぎの金貨のレプリカを取りだした。1つ1つの金貨に、森の木立や新緑、花や動物、泉やせせらぎなどがデザインされたレリーフが輝く金貨のレプリカだ。
「ゲーム盤を見てください、森や川などの自然テーマサークルが8つあり、そこに8枚のカードが置けるようになっています。8×8の前部で64枚ですね。そこに1人1枚ずつカードを順番に置いて行き、1つのテーマを完成させると金貨1枚、それぞれのテーマのクイズに正解するとさらに1枚か2枚がもらえます。そして1つのテーマを完成させた後に関係の深いテーマサークルの接続カードをつなげるともう1枚金貨がもらえるのです。自然はすべてつながっていますからね。すべて終わったとき金貨が多い人が勝ちです」
さらに京極さんは手札のカードの他、クイズカードを取りだした。
「今日は初めてなので、この環境クイズをやりますよ。どれもまじめな一般常識の問題なので、とても難しいですね。でもキーワードを言うだけでも正解にしますから、積極的に答えてくださいね」
京極さんはまず1人4枚ずつカードを配ると、残りのカードをテーブルの中央に重ねて置いた。そしてじゃんけんで1番を決めると、その人から時計回りに中央のカードを引き、好きな場所に1枚ずつ置いていくのだ。置くのは1枚ずつ、どのテーマサークルに置いてもいいし、番号の順番に関係なく置いてもいい。また引いたカードを見た後、パスと言って中央のカードの隣に戻せばもい1回引くことができる。各回1回ずつ引き直しができる。
「それから、カードを引く代わりに誰かを指さしてカード交換を宣言することができる。その場合は、お互いに相手の手札を1枚ずつ引き合わなくてはいけない。そのあとでカードを置くわけだ」
また1つのテーマを完成させて金貨をもらうためには、そのテーマの中に自分のカードが2枚以上なければいけないというルールもある。
「お父様ってカードゲームをやったことはおありなの?」
幸花お嬢様が聞くと、桂岡さんは、にやっと笑った。
「こういうカードゲームは全くないよ、でもポーカーなら少しばかりやりこんで自信はあるがね」
実力のわからない不気味な存在ではある。そしてじゃんけんして、時子から、カードを引き、好きなテーマに置いていく。
幸花お嬢様は、最初からテーマが森のカードとそれに関係したカードしか狙っていないようだ、カードの引き直しが多く、置く場所も偏っている。
テーマサークルの配置は以下のようになっているのだが。
上段;森、動物の生態、食物連鎖のピラミッド。
中断;落ち葉、草花。
下段;川、中流の流れ、ワンド。
「なるほど、森は、木の実、花粉や蜜、果実、木の葉や昆虫、木の皮、樹液などで多様な生物に餌を与え、樹上生物に住処や素になる洞を与え、その木の葉は森の栄養になり、やがて水を貯めて緑のダムとなってせせらぎを作り出す、森ってすごい。いいカードばかりだわ、がんばって集めまくるわ」
幸花お嬢様は、上段の森から中段の落ち葉や草花のカードを狙い撃ちにしているようだ。森村さんはここでも冷静にカードの内容を読み、しきりに感心している。
「ふうむ、日本の森でも、食物連鎖のりっぱなピラミッドがあるんだな、そして、場所をすみ分ける、時間的にすみ分ける、餌を食べ分ける、季節で移動してすみ分けとか冬眠するとか、豊かに多様性をたもっているんだなあ。おや、川の中でも流れの速さによっていろいろ澄み分けている、これはおもしろい」
川の中でもカーブのあたりでは、カーブの外側、真ん中、カーブの内側で流れるスピードが違い、岸を削る力も違う。カーブの外側では川底が大きく削れ、深いよどみとなり、コイやナマズなどの大型の魚が見られる。真ん中は早瀬から平瀬となり、小魚やハゼの仲間の餌場となる、そしてカーブの内側は砂が積もり、シマドジョウやカマツカなど、砂に潜る魚が見られるのだ。
静かな森村さんは、最初はどこを狙っているかわからなかったが、どうも上段の動物の生態系やピラミッド、そして下段の川や中流の流れに狙いを絞った感じだ。
だが時子はこだわるものがないのか、あるいはすべてにこだわっているのか、8つのテーマのほぼすべてにカードを置いているようだ。だがこれがあとですごい作戦となる。そしてまだ正体不明な桂岡さんは、みんなのカードが集中しないところにカードを置いているようで、チャンスをうかがっているようにも見える。
やがて中盤戦で、けっこうあちこちにカードが並べられたころ、早々と幸花お嬢様が森のテーマの最後の1枚を置いて金貨を1枚手に入れた。
「おお、幸花さん、早いねえ。ではさっそく環境クイズだ。ある山の中で大規模な開発が行われ、緑が減り、大きな分譲住宅に代わってしまった。多様な生物が失われ、最後には湧き水も枯れてきた。さあ、あなたならどうする?」
最初からどう答えたらいいのかわからない難問が出題された。幸花お嬢様は、でも、落ち着いてじっくりと考えて口を開いた。
「ええっと…まずは緑を増やすこと…、それと枯れそうな泉を助けるためには…、街路樹の整備や公園の緑化を進め、あとは住宅の敷地のあちこちに、雨水を地下にしみこませるための設備ええっとなんだっけ…雨水浸透桝を整備する…。生物の多様性はもう戻らないけど、泉は持ちこたえられるかもしれない…」
するとプロフェッサー京極は驚いた。
「すごい、よく答えられたね。君が勉強しているというのは本当だね。緑を増やすっていうのは誰でも出てくることだけど、緑のない住宅地の雨水を地下に浸透させる方法まではなかなか出てこない。正解だ…、金貨を2枚追加しよう」
「やったー!」
大喜びのお嬢様、しかもさらに関係の深い落ち葉のテーマに接続して、金貨をゲット。
「木の葉を主に分解する生物、倒木を餌にする甲虫の幼虫、他にもシロアリや、カビ、キノコなどが木の葉や倒木を分解し、栄養に変え、そのフワフワの土で水を貯めこむ、やったあ、森からすぐ下の木の葉のテーマにうまく接続できたわ」
カードを集めて1枚、クイズに答えて2枚、接続して1枚、あっという間に金貨4枚でトップに躍り出た。
だが森村さんもスピードなら負けていなかった。
「お、ついに引き当てた。何が出るかと思っていたら、食物連鎖の一番上、ピラミッドの頂点は絶滅したニホンオオカミか。そうか、興味深いね」
続けて森村さんもピラミッドのテーマを制覇、クイズに挑戦だ。
「さあ、クイズだ。強い農薬を水田で使ったため、そこにいた小魚や貝類、水生昆虫や両生類などが大幅に減少してしまった。ただそのおかげで、コメは豊作となった。さあ、あなたならどうする?」
森村さんは言葉を選びながら答えた。
「…そうですね…、収穫は少し減っても、農薬に頼らない、有機農法や自然農法でコメ作りを進めます」
「はい、正解!はい、金貨だ」
「ようし、ゲットだ」
だがここで時子の作戦が火を噴く。なんと中段の幸花が狙っていた草花のテーマと森村がそろえていた川の中流のテーマを立て続けにゲットしてしまったのだ。つまり他の人にカードを集めさせ、最後の1枚だけを自分で置いてそのテーマを取ってしまうのだ。だがそれぞれのテーマに自分のカードが2枚以上ないと取れないのだが。もともと時子はあちこちのテーマに自分の手札を1枚は入れておいたからできたのだ。
最初は草花のところのクイズだ。
「植物は自分の花粉を運ばせて受粉させるためにあるものを使います。3つ答えなさい」
一見難しそうだが、実は答えはカードの中にあるのだという。時子はそれを憶えていて慎重に言った。
「ええっと風に運ばせる風媒花と、蜜蜂など蟲に運ばせる虫媒花があったわね…あと1つはええっと…鳥やコウモリ、ネズミなどの動物がカードにあったわ」
「はい、正解、金貨2枚だ」
さらに次の貝のクイズではこんな問題が出た。
「え?農業用水や工業用水を取るために川をせき止めて作る施設を堰と言うが、これを作ると大きな問題になることはなにか、そして解決する方法はあるのか?ええっとこれは難しいわね」
しまった、これもカードにあるそうだが、まだ読んでない問題にあたってしまった。
すべて正解すると金貨2つだが、そううまくはいかない。すぐに答えが出てこなかった時子だが、とにかく思いつくことを答えた。
「ええっと、川をせき止めるってことは、川に仕切りを作っちゃうってことだから…魚が泳げなくなる…、そう、魚が自由に泳げなくなる…ってことよね」
「ううん、金貨1枚だけだな。海で育って川を遡ってくるアユやマルタウグイなどの魚がそこでとまってしまい、産卵ができなくなるのが大きな問題だ。解決法としては、堰を越えることのできる魚道を作ることが有効となるわけだ」
「魚道ね、そういえば聞いたことがあったわ」
クイズの金貨は1つだけだが、ここで時子も追い上げてきた。さらに時子の5枚の手札の中にまだ1枚の隠しカードがあった。川の岸辺にある「魚のゆりかご」と呼ばれる小さな入り江、ワンドの最後のカードだ。みんなにワンドの他のカードを集めさせ、この温存した最後の1枚でこのテーマを完成させて自分のものにしようという作戦だ。だがみんなの手札をじっと見ていた桂岡さんが思い切った手を撃ってきた。
「カード交換!」
時子を指さして、カード交換だ。するとポーカーフェイスの桂岡さんは、何の躊躇もなく、時子の手札の中の1枚をすっと引いた。温存していたのがばれたらしい。
「あ?!」
やられた、ワンドの最後の1枚が桂岡さんの手に移り、そしてすぐにワンドの最後の空白に置かれてしまった。
「それではクイズです。洪水の被害を減らすように、川の岸がコンクリートで固められる計画が立てられた、だがこれを進めると大きな問題があるという、それは何か、そしてそれを解決するためにはどうしたらいいのか答えなさい」
今度も金貨2つの難問だ。だが大学で人気の講座を持つという桂岡理事長の博識はなかなかのものだった。
「すべてコンクリートで固めると、小魚や、ウナギやぎバチなどの夜行性の魚の隠れ場所がなくなる。そこで、小石を細長い金網に詰めた蛇篭や自然の石を使った多自然型の岸辺が有効だと考えられる。どうかな」
「さすがです、正解。金貨2枚です」
さて、ゲームも終盤に近付き、幸花お嬢様が2つのテーマサークルをとり、森村さんは1つ、時子は2つ、桂岡さんは1つで、もう6つが取られて残るは2つのテーマサークルだけとなった。あとは手にした金貨の量が少しずつ違う。さて、優勝は誰の手に?
まずは時子が川のテーマサークルを埋めてクイズに挑戦だ。
「それではクイズです。ワンドの近くの河原に生えているサワヤナギは、よく洪水に出会い被害を受けるのですが、ある方法で洪水からの被害を減らしています。それはどんな方法でしょう」
どうやらカードに答えがあったらしいのだが、時子はあせって見落としていた。サワヤナギは背の低い木らしいが、洪水で河原から流されてしまったら、どうにもできないと思うのだが?
「残念金貨なしだ。答えはほら、このカード、低木で流されやすいサワヤナギだが、なんと洪水で流されても、流れ着いた先で、枝や幹から根っこがまた生えてきてそこでまた根をはって生き返るのだそうだ」
「すごい、うそみたい」
さて次は最後のクイズとなってきた。
幸花お嬢様が神妙な顔で京極さんの顔を見つめていた。
「よし、これが最後のクイズだ。高い木の上に全く違う枝が伸び、こんもりと全く違う葉が茂っていたりする。寄生植物ヤドリギだ。さて、このヤドリギ、どうやってこんな高い木の上でたった1本育つことができたのだろう。そのメカニズムを答えなさい」
考えてみると不思議だ。木だけ風に乗って飛んできたのだろうか、それともだれかが、高い木の上に登ってヤドリギの種でも蒔いたのだろうか?
だが京極さんがその問題を出すや否や幸花お嬢様は、ニコッと笑って手を上げた。
「はい、カードに間違いなくあったわ」
カードにのっていた短い文をお嬢様はきちんと憶えていた。
「ヤドリギの種の周りにはねばねばした成分が付いていて、それを食べた小鳥の糞もねばねばになって、高い木の枝にくっつくのです。これでどうかしら」
「ピンポン、正解、金貨2枚です。おめでとう、これで君の優勝が決定だ」
「やったあ!」
みんなが拍手。戦いが終わりを告げた。
本当は羽鳥さんにも来てほしかったが、もともと女王蜂は寿命が1000年ほどあり、現在の羽鳥さんでも地球の年齢で言えば150才を越え、知能指数も200以上あるとショーンさんがあれから話してくれた。だとすると初心者でもけっこう強かった、いや、誰も勝てなかったかもと時子は思った。
「よし、じゃあ、もう1回やろう。今度は負けないぞ」
「いいわよ。クイズなしでもやりましょうよ」
ゲームはかなり盛り上がり、クッキーも望月のいろいろなパンも大好評、大学芋グラッセや、焼き芋焼きプリンクルミ味もすぐに売り切れだ。あんなに用意した飲み物もほとんどなくなった。2時間があっという間に終わった。
桂岡親子は楽しそうに自宅に帰っていった。初夏の透き通った日差しを浴び、やわらかな新緑の香りの中、あのせせらぎ沿いの小道をゆっくり上がって行った。帰りに森村さんがやってきて、今日は楽しかった。またよかったら誘ってくれと言って右手を差し出した。時子は心をこめた握手でそれに答えた。
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