エピローグ 地球人の仕事

みんながいなくなると、別の人影がやってきた。グリーンヒルの森の方からいつの間にか姿を現し、静かに赤レンガのテラスにあるテーブルにちょこんと座っていた。

そう、あの中学生の男の子だ。ただ珍しく今日はちょっと元気がない。時子は15年間の思いで、胸が張り裂けそうに苦しくなってきたが、いつものように語りかけた。

「今のゲーム見てた?ノボル君のゲームをやっていたんだけど、みんなノリノリで最高に盛り上がったよ」

「ゲーム盛り上がったね。僕のゲームで楽しんでもらうことが1番うれしいんだ。でもごめんねタイちゃん、ぼくは今日は違うことを言いに来たんだ」

ノボルは神妙な顔で言った。

「タイちゃん、実はぼく、しばらく旅に出ることになったんだ」

「旅に出るって、1人で行くの?」

するとノボルはちょっと大人っぽく答えた。

「ああ、1人で行くさ。でも、たくさんの命とかかわることになるだろうね」

時子はその時驚きを隠せなかった。ノボルはしゃべるほどにだんだん成長して大きくなってきたのだ。時子はなぜかわくわくしながら次の質問をした。

「それでどこに行くの?そして何をするの?」

するとノボルは、もうすでに二十歳くらいの若者になって、こう答えた。

「世界中を巡り歩きたいね。それからまず1つの優れたものを別のものに応用していきたいね。それから1つのものに全く別な機能を加えていくのもいい。あとはつながりとか組織化とかね。でも、全く別のものを組み合わせて新しいものに変えられたら最高だね。

ノボルは何を考えているのだろう。さっそく聞いてみる。

「ノボルが目標にしているものって何かあるの?」

するともうスーツを決めて時子と同じ年代になったノボルはこう答えた。

「それは数えきれないほどあるけど…ツノゼミのデザインだとか、フウチョウの新しいダンスとかクジラの新しい曲とか、、最近研究したものだとコバンザメかな」

「コバンザメ?」

一体どういうことなのだろう、意外な答えに時子は驚いた。

「だって驚いたよ、吸盤のもとはコブやウロコでもなく、上にピンと伸びた背びれなんだよ。あの背びれがだんだん進化して吸盤になったのさ、だから背びれと同じ筋肉で動かしてくっつく力を調節できるんだ。でもたてに伸びた背びれが吸盤だよ、そんなすごい発想が現実の形になり、その結果、大きな速い魚と同じ速さで遠くの餌場まで一緒に行けて、しかも食べ残しを頂戴できるんだ。こんなことが現実に起きている。そんなことができたら最高でしょ」

もうその頃にはノボルは光り始めていた。そして時子はノボルの正体がだんだんわかってきた。

ノボルはあらゆるものを結び付け進化を促進するオクト波動を浴び続け吹き飛ばされた。

「ねえノボルって、生き物の進化をデザインしたり、それを実行させていく宇宙の意識と同じになったんだよね」

「その通り、でも今の地球は人間が増えすぎて、海洋汚染や森林破壊、異常気象など各地で問題が山積みだ。1度に問題を片づけることは出来ないけれど、目の前の問題から少しずつ取り組むことは出来る。今の生き物たちには数えきれない奇抜な発想やいくつもの異なるものを同時に生かし合う組織化のきらめきが息づいている。それを大自然の軌跡とか神の力とかで終わらせたくないんだ。ぼくはさらに研究してそれを宇宙の意識1部として実現して行きたいんだ。もっと豊かな宇宙を作りたいんだ」

時子にはノボルがもう人間の形をした光そのものに見えてきたのだった。

「行ってらっしゃい。でも私はいつもあなたと一緒にいるから、光をみているから…」

ノボルはにこっと笑って立ち上がり、一瞬まばゆく輝くと、やがて透き通って消えていった。グリーンヒルの森は、今日も静かに笑っていた。 

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スカルマスク ~グリーンヒルの超人~ セイン葉山 @seinsein

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