15 ヴァーチャルゲーム
休憩は終わり、新作ヴァーチャルゲームの発表の時間になった。
「では、予選大会で合格ポイントを出した人で、今日体験対戦を希望する人はステージ前に集まってください」
放送を聞いて十数人が集まってきた。実はあらかじめネット上で機械帝国の悪いロボットをやっつける惑星ローリーと言うゲームを使っての予選が行われていたのだ。あるポイント以上の成績を取った人には成績と通貨ワードが配信されていたのだ。
そこで迅速に2次受付が行われ、今日、体験イベントに参加する6名の出場者が決定した。続けて開発したコンピュータ会社のチーフエンジニアから説明があった。
「みなさんこんにちは」
時子は驚いた。チーフエンジニアって、あのジュピターで出会った冷静な森村さんじゃないか。
「ええ、今回こだわった点は2つあります。1つはコアなスカルマスクファンの方々のために、基本的な設定やストーリーは徹底的に原作通りにしたことです。ところが昭和の時代と今ではいろんなものが新しくなっています。このゲームで言うと、電子機器や博物館の内部などが昔とはかなり違ってきました。そこでストーリーなどはオリジナルにこだわり、ビジュアルは近未来風に変えることにしました。本質は変えず、ビジュアルは近未来風に進化したスカルマスクをお楽しみください。ちなみに初心者もそこそこ遊べるイージーモードですから、ある程度ダメージを与えると逃げていきます。ゴーズとメーズの助太刀や強化変身も今日はありません」
今回はイベントと言うことで、ヴァーチャル画面を体験できるVRヘルメットをかぶるのはプレイヤーだけで、彼は舞台のすぐ下に作ったプレイベースに1人で立つ。ハンドガン型コントローラーで敵を撃ち、プレイベースを踏む足の位置で前後左右に移動する。観客の見ている大画面には彼の見ている画面がリアルタイムに表示される。画面を見てトリガーを引くことによってハンドガンで攻撃できるが、横に着いた動作ボタンで、画面のあちこちをつつくと瞬時にメニューが表示され、モノを拾ったり、動かしたり、投げたり、操作したり、武器を持ち換えたりできる。
「ではエントリーナンバー1、ビジネス戦士大谷さんお願いします」
若いサラリーマン風がプレイベースに立つ。最初の1人なのでタイトル画面やストーリー画面が先に上映だ。
「スカルマスク生誕40周年記念VRゲーム発表会。スカルマスク、博物館の戦い」
そしてここからはドラマの映像を再編集した短編映画風に映像とナレーションが進んでいく。
ステージ1、宇宙博物館の対決、決められた武器で、1対1の勝負。宇宙基地の映像、近くに緑に囲まれた広大な敷地、大きな博物館がある。
「ビー、ビー、ビー…」
その日、エクアドルの中南米ワールド博物館から宇宙警察に緊急連絡があり、それ以降音信不通になる。
ここの博物館は、観光客のための中南米の珍しい動植物の展示、さらにアルゼンティノサウルスヤ、ギガノトサウルスと言った南米の巨大恐竜、クリプトドン、メガテリウムと言った古代の巨大哺乳類、まや、あすてか、インカなどの古代文明などの総合的な展示を行う巨大な博物館である。併設の熱帯植物園はいま大規模な改装工事中であった。
今週は宇宙基地との協賛で、惑星イシュタリオンの超古代の宇宙遺跡の石板や神像の展示が行われていたが…。
「博物館、博物館、どうしたのだ。あそこには最新鋭の警備システムが導入されていたはずだが、一体何があったんだ?」
「おい、警備システムのカメラ映像を確認しろ。何?巨大な蟲の怪物が…」
監視カメラには何メートルもあるサソリかムカデのような巨大な蟲の姿が一瞬映り…そのまま通信は切れた。調査部隊が突入したが他にも正体不明の怪物がいくつも発見され、中は無法地帯へと化していた。宇宙警察のパトロール艇が着陸するシーンが映る。下りてくるのはそう、スカルマスクだ。
(電子音が鳴りいよいよゲーム開始だ)
スカルマスク役のビジネス戦士大谷は、まず静まり返った巨大な博物館の門を入る。
「うぬ、ロボットの見張りか?」
あのガイコツに似た戦闘ロボットスカルロイドが門の奥のゲートを守っている。
だが銃に自信のある大谷はスカルガンで遠くから機能停止させ、すばやくゲートへと近づく。そして、1階の大ホールへと進んでいく。さっと右を見ると突入した警備員が銃を持ったまま倒れている。その先の壁には大きな穴が開きその向こうには熱帯植物園が見える。
穴の付近にも警備員が2人倒れている。武器は使われた形跡がない、一体何が、どうやって警備員を倒したのだろう?
「そもそも、こんな大きな穴をどうやってあけたというんだ」
ビジネス戦士大谷に緊張が走る。大ホールの恐竜の骨格標本が見えてくる。その時、部屋の奥から声がする。
「おや、これはこれは、宇宙警察のスカルマスク君じゃないか。仕事の邪魔だ。さっさと消えな!」
声とともに現れたのはにっくきライバル、ハサミムシ怪人メガザスではないか。
「お前たちこそこんなところで何をしたんだ!すぐに消え去れ!」
だがメガザスは、その大きな両手のはさみで威嚇しながら近づいてきた。右手のはさみは先が槍のように伸び縮みして相手に突き刺さるスピアクロス、左手は切断能力の高いシルバーギロチンだ。
さあ、戦闘開始だ。横のボタンを押してガンモードにする。
メガザスは接近戦が得意だから、なるべく遠くにいるうちに銃弾を命中させて体力を削っておく必要がある。銃弾が当たれば近づくのが遅くなり有利になってくる。だがメガザスは、動きは遅いが装甲は暑く、連続で同じ場所にヒットさせなければ球をはじき返し、近づいて来てしまうのだ。
「よし、命中だ」
こんな遠くからもビジネス戦士大谷の銃弾はヒットした、さすがだ。だが黒光りするメガザスの装甲はもう回復し始める。ヒュッ、ガチャン、何かが高速で飛んできて頬をかすめる。ビジネス戦士大谷の体力ゲージがわずかに下がる。
「く、しまった」
ビジネス戦士大谷がもたもたしているうちにメガザスは中距離まで近づき、展示してあったアンモナイトやべレムナイトの化石なんかを投げてきた。それを避けようとしてじたばたしているとメガザスはさっと左の物陰に飛び込んだ。遠回りで回り込むつもりか。いつの間にか近づいているようだ。
「どこだ、どこに隠れた」
ティラノサウルスにも負けない、大型の肉食恐竜ギガノトサウルスの骨格標本の影から飛び出した時には、もう至近距離に迫っていた。あわてて銃弾を撃つが、素早い動きにギリギリで当たらない。
「必殺スピアクロス」
メガザスのメタルブラックの大きなハサミが振り下ろされる。
「う、うわ」
体力ゲージが急激に下がり、…ゼロに。
しょっぱなの緊張のせいか、いいところがほとんど出せず、ビジネス戦士大谷は無念の敗退。
「では次、エントリーナンバー2、スカルナミエさんお願いします」
スカルナミエはゲームを愛する女子選手だ。同じようにスカルロイドを撃破し、ゲートから正々堂々と入っていったが、もたもたしたりどたばたしたりせず、冷静に辺りをうかがって進んでいく。
「出たわね、メガザス」
遠方から体力を削り、待ち伏せして中距離で大きなダメージを与え、近距離でもあの大きなハサミに銃弾を当てて技を使えなくすると…。
「ふん、覚えていろよ」
捨て台詞を残してメガザスは退却だ。スカルナミエガッツポーズ。
だが、その音を聞いて、大ホールの奥から誰かが近づいてくる。
「メガザス、どうしたの?あ、スカルマスク!では私がお相手いたしましょう」
人間だったころはミスフォトジェニックにも選ばれたセクシー美女、蜘蛛男爵の愛人にして、男爵より数段恐れられている、毒蜘蛛怪人ビーナスキッスウィドウではないか。
彼女はメガザスよりずっと身軽でジャンプ力もあり、糸を使えば壁も登れる。博物館の中では、物陰に身を隠しながら進むのはお手の物、遠距離からではなかなか銃弾が当たらない。
気が付けば、最大の雷流アルゼンティノザウルスの長い長い首の下から、あのセクシーな唇がのぞく。中距離まで迫ってきている、だがビーナスキッスウィドウが恐ろしいのは、ここからだ。目隠しのようなゴーグルをつけている彼女は白い肌に肉厚のセクシーな赤い唇がやけに目に付く。彼女は少し近づくとその位置から次々に投げキッスをする。投げキッスはエネルギー波となって空中を蝶のように舞い、飛んでくるのだが、万が一よけきれず体に触れでもすれば、大変なことになるのである。スカルナミエは冷静に見極めて投げキッスをかわし続けていたが、近距離まで近づいた蜘蛛女は4本の腕にあるビーナストゥースと呼ばれる鋭い爪が長く伸び、高速で斬りつけてきたのだった。
「ハンドガンソードモード」
ハンドガンからソードが長く伸び、今度はそれで応戦だ。しかし4本の腕で、連続して切り続けるさまはまるで滝のよう。切れ目なく攻撃は続く。
「必殺、赤い糸縛り!」
なんと蜘蛛女の頭の後ろの、大きな雲の2本の脚から赤い糸が噴き出したのだ。
「し、しまった」
ハンドガンソードに糸が絡み、思うように動けなくなってきた。
「うふん、私の愛を受け止めてね」
スカルナミエの動きが止まった瞬間に放たれた投げキッスは避けきれなかった。投げキッスが頬に触れた瞬間、蜘蛛女が何人にも増えたり回ったり妖しい光に包まれたりした…。幻覚だ、あの投げキッスには幻覚作用があるのだ。
「アアアーッ!」
鋭い爪が首元にヒットする。
残念、冷静なスカルナミエはそこまでだった。でも思いがけない次の戦士がバッタバッタと怪人を倒す。
「次はエントリーナンバー3、タイゾーマスクさん…」
そう、次に出てきたのはホノカのパパ、スカルマスクのマニアックなファン、タイゾーさんだった。スカルマスクの40周年記念のゲームでは出ないわけにはいかないと、急遽特訓し、参加したのだという。
「パパはゲームの腕は大したことないんだけど、今までの映像を見ながら言ってたわ。これは思いがけず、ドラマの設定のままだって。だから、ドラマのやり方で攻略してみるって。博物館の攻防は第1シーズンの最終話近くにあるんだけど、ドラマに出てきた第1シーズンの怪人たちが次々と出てくる回で、しかも改造手術の終わったやつ、途中で強くなる奴もいて大変らしいわ。ドラマでは、相手の怪人の攻撃を受ける前にこちらから攻めていったと言ってたわ」
タイゾーマスクは、門から入ると敵の様子を見ながら庭に回り、熱帯植物園側からあの大きな壁の穴に近づいた。
「なるほど、あの大きな蟲は植物園側から博物館に穴を開けて入ったんだな」
そしてタイゾーマスクは、なんと壁の穴から中に入ったのだ。するとそこでボーナスポイントが追加された。どうも原作と同じルートや手順で行動すると、再現ボーナスがつくらしい。また再現ボーナスが出るルートで行くと高得点が取りやすいようだ。でもストーリーの流れに逆行するルートを通ったり、攻撃してはいけない相手を攻撃すると、減点になることもある。倒れていた警備員を発見、その体から、手榴弾やショットガンを探し出し、自分の武器にした。
「ええっと、あとペイント弾がどこかにあるはずだ。あ、あった、これで用意完了だ」
そして横から大ホールに入ると、スカルハンドガンでハサミムシ怪人メガザスを横から不意打ちし、その場でケガを負わせて退却させ、そのまま大ホールの階段を上がるとビーナスキッスウィドウにも上から攻撃したのだ。彼女が襲われて慌てているところにガンモードから格闘モードに切り替えて自分から近づき、投げキッスがたくさん出る前に、階段の上から大きくジャンプし、流星キックの必殺技でしとめたのだった。今までと全く違うコースだが、あちこちでボーナスポイントが加算されている。やはり、こっちが原作に近いのだ。ビーナスキッスウィドウは大けがを負い、蜘蛛男爵様とつぶやきながらよろよろと逃げていった。
「行け、行けたいぞー、タイゾーマスク」
タイゾーマスクは、さらに隣の古代巨大哺乳類の部屋へと進んでいく。有袋類のサーベル大河ヒラコスミルスや北米から来たスミロドン、巨大なアルマジロクリプトドン、さらに巨大な7mのオオナマケモノメガテリウムなどの実物大模型が並ぶ部屋の入り口でさっと止まると、ドアの影から息を殺して中を見た。足取りはいつになく慎重だ。
「ドラマだとここにいるのは、あの面倒くさいライバルのヴァルゴリだ。覚悟していかんとな」
ヴァルゴリ、それは不死身の灰色細胞を移植された犯罪者の改造人間だ。彼は、最初は青灰色の皮膚をした普通の人間なのだが、戦いに巻き込まれると異常な変化を起こし、皮膚が鉱物のように固くなりアーマー体に変化、さらに体が大きく怪力になるモンスター体、最後には体中が武器や兵器のように変化するウェポン体、凶器人間となるのだ。しかも原則、奴は死なない。倒すことができても時間とともに組織が急速に回復しよみがえるのだ、何もなかったように…。タイゾーマスクは倒れていた警備員から手に入れた手榴弾を右手に持ち、左手にはスカルハンドガンを持って、狙いを定めた。そして数歩助走をつけ…。
「スカルジャーンプ!!」
猛烈な勢いでヴァルゴリに向かってジャンプし、着地とともにハンドガンを3連発し、回復する隙を与えぬまま同じ場所に、手榴弾でとどめの大ダメージを与えた。
バスン。こもった爆発音がして、ヴァルゴリは前かがみに倒れた。一瞬だった。さすがのヴァルゴリも皮膚変化を始めたものの間に合わず倒れたまま動かなかった。でも確かに死んではいない、ぴくぴくと痙攣している。今のうちに先に進もう。
次の部屋はインカの黄金細工の仮面や神像などのある黄金の部屋だった
「ここの部屋は確か…」
タイゾーマスクは、さっき警備員から手に入れたショットガンを用意すると、右手にハンドガンをかまえて部屋の中へと駆け込んだ。
キュイーン、キュイーン、キュイーン…。
波動音とともに銀色に輝く仏像が空中に浮かび上がった。それは最新の警備ロボット、重力エンジンで浮遊するシルバーブッダだ。ここを襲った奴らはどうやらここの警備システムのコンピュータにウイルスを感染させ、怪人と違う反応をするものすべてを不法侵入者と見なすようにプログラムを書き換えたのだ。
「…警告します、すぐに退去しなさい、応じないと攻撃します。…警告します…」
シルバーブッダの攻撃は厄介だ。最初に額のレーザー光発射口が開き強力なレーザーを放ってくる。それがだめだとシルバーブッダの後光の部分がドローンとなって高速で空中を飛びまわり、そこから8方向に、レーザーが発射される。これはよけきれない。
「よし、行くぞ」
タイゾーマスクは最初、スカルハンドガンで連続してシルバーブッダを狙い撃ちにした。だが光線銃の類はすべてピカピカのボディに反射されてしまう。
「…侵入者に攻撃されました。反撃します」
タイゾーマスクは先ほどのショットガンを用意するとシルバーブッダに対峙した。パトロールモードから攻撃モードに移るほんの数秒の間にチャンスはあるのだ。
ほんのわずかの間だった。シルバーブッダの額の小さなシャッターが開き、レーザー中がちらりと見えた。
ズキューン!
シルバーブッダがレーザーを撃つ前に強力な銃弾が額のシャッターの中に命中し、シルバーブッダは煙を出しながら墜落していった。
「よし、いよいよ黒幕の蜘蛛男爵タランテリスの番だ」
そしてタイゾーマスクは、特別展示室へといよいよ近づいていった。今回は特別展示として、惑星イシュタリオンの超古代文明の展示である。大小の石板から魔法の宝石、そしてクリスタルロッドと呼ばれる不思議な水晶の棒などが展示されていた。
今回の事件の黒幕は、スカルマスクの宿敵、蜘蛛男爵タランテリスであった。数人の戦闘ロボットスカルロイドを引き連れ、蜘蛛男爵はこの特別展示室で何かを探し続けていた。
「…おっと、これはもしかして…」
男爵は、石板解読用の小型コンピュータを握りしめ、大きな声を出した。
「あった、あったぞ、ついに見つけた」
だがその時特別展示室のドアが開き、スカルマスクがスカルガンを構えて立っていた。
「タランテリス、そこまでだ。おとなしくその石板を置いてここから立ち去れ」
「さすがだ。計算より少しだけ早かったな」
しかし蜘蛛男爵は1枚の石板を掲げて高笑いした。
「ハハハ、でも無駄だよ、私はもう手に入れてしまった。お前さんの相手はこっちだ。来たれディアロマ、スカルマスクにお前の力を示すのだ」
その瞬間だった。
ガガガ、ガラガラドッシャン!
壁を崩し、隣の部屋から軽トラックほどの大きさのものが、穴をあけて突っ込んできた
謎の大怪蟲ディアロマだ。誰かが改装中の植物園で大きく育て、博物館をパニック状態に陥れ、その間に展示物を盗みに入ったのだ。
「じゃあな、スカルマスク君、さらばだ」
なんと蜘蛛男爵タランテリスはそのまま非常口から博物館の広大な庭園へすばやく出ていった。追いかけようとするスカルマスク、だがそこに割って入るのは巨大な蟲、ディアロマだった。蜘蛛男爵はマイクロチップを打ち込むことにより、簡単な命令をきかせることに成功したのだ。
ディアロマはクレーンのような巨大な前足を振り上げ、壁も崩す伸び縮みする強力なあごを動かし、スカルマスクに迫ってくる。前足の先には強力なハサミがあり、まともに挟まれたら、胴体も切断されてしまう。あごは破壊力も凄いが、奥に数えきれない歯がうごめき、飲み込まれれば人間など、あっという間にミンチ状態だ。
だがタイゾーマスクはディアロマのわき腹のあたりがグニュリと動いたのを見逃さなかった。
「ぐ、早くも幼虫攻撃か、危ない、危ない」
ディアロマは15cmほどに成長した幼虫を、数匹から数十匹放ち、毒針を持つ幼虫が物陰に隠れて待ち伏せする。そして獲物が来ると、幼虫は一斉に飛び出し、毒針で獲物を次々に弱らせ、そこに巨大な親がやってきてとどめを刺して食らうのだ。先ほど倒れていた警備員も、幼虫に毒を打たれて倒れていたに違いない。
タイゾーマスクは、クレーンのような前足を避けながら、すぐに幼虫の詰まった球状の肉塊をスカルガンで焼却しようとする。
「ガ、ガ、ガ…」
銃で焼かれ、のたうちもがく幼虫たち、怒りまくルディアロマ、巨大なハサミが空を切り、伸び縮みする巨大なあごが迫ってくる。だがとにかく先に幼虫をなんとかせねば自分が危ない。幼虫があちこちに散らばれば、いつどこから攻撃を受けるのかわからなくなるのだ。スカルマスクはあたりに散った幼虫をスカルガンで1匹ずつ確実に倒すと、警備員から手に入れたペイント弾を用意して体制を整えた。もちろんこんな巨大な怪物は簡単には倒せない。だが攻撃を封じる方法ならある。
「怪物目、これを食らえ!!」
スカルマスクはさっとペイント弾を構えながら飛び出し、ディアロマの頭部に何発も撃ち込んだ。
「ギガガガガ!」
視界を失った大怪蟲ディアロマは、方向を見失って暴れ回る。その間にタイゾーマスクは蜘蛛男爵を追って博物館の庭園に出る。
蜘蛛男爵はあの石板を庭の中央に置くと呪文を唱え、何か古代の儀式を始めていた。
だがその時、庭をふらふら歩いて男爵に近づいてくる影があった。
「…男爵様、タランテラス男爵様、スカルマスクにやられました。お慈悲を…、どうか哀れなビーナスにお慈悲を…」
それはさっきスカルマスクの必殺技流星キックで大ダメージを追った毒蜘蛛女、ビーナスキッスウィドウではないか。
「おお、なんと嘆かわしや、お前のような気高く美しい者がこんなにダメージを追うとは。よしよし、かわいい奴、私のハートエネルギーをお前に半分分け与えよう。体はすぐに回復する。ドレスも痛んでおるが、基地に帰ったらすぐに新しいものを用意しよう」
「男爵様のエネルギーを半分いただくとは…恐れ多いことでございます」
蜘蛛男爵は自分の胸から光るエネルギーの玉を取りだし、ビーナスに分け与えた。
「あ、ありがとうございます。ああ、体に力が、男爵様の愛がみなぎる、自信があふれ出す、おおお…」
毒蜘蛛女の体は光り輝き、さらに強力な改造人間へと変貌していった。
「私は…、私は…、ハデスキッスウィドウなり!」
死神のキッスの蜘蛛女の誕生だった。髪はうねりながら長く伸び、あのセクシーな赤い唇は牙のある紫の唇へと変わり、鋭い爪は、頑丈な長いナイフのように変貌していた。
「ビーナスよ、私の女神よ、すまぬ、儀式が終わるまで私は戦うことができない。スカルマスクから私を守ってほしい。その代わりお前に私のクモボットを操縦する力を授けよう、好きに使うがよい」
すると男爵の黒いマントの中から数十匹のタランチュラほどの蜘蛛のロボットがぞろぞろとはい出てきた。蜘蛛男爵は、通常この小型のメカの力を使ってあらゆることを行う。このクモボットは高速で床だけでなく壁や天井を動き、高度な擬態能力によって身を隠しながら盗聴盗撮などのスパイ活動を行い、戦闘用のものは、暗殺用の毒針や鋼線の糸で敵を切断したり粘着性の糸で相手を縛り上げたりするのだ」
「かしこまりました。命に代えても!」
そこに駆け付けたのがスカルマスクであった。
「蜘蛛男爵、何を始めたのだ。好きなようにはさせぬ」
ところがその行く手を阻むものがいた。そう、パワーアップした毒蜘蛛女、ハデスキッスウィドウである。
「私は生まれ変わった。もうお前には負けない」
そして因縁の戦いが始まったのだ。あの探検のように長い爪で斬りつけるハデスキッスウィドウ、スカルガンソードで応戦するタイゾウさん、みんな手に汗を握った。
時子はその時会場に不穏な空気を感じていた。タイゾウパパのあとにはまだ2人の出場者がいたのだが、その男も女も異常に身長が高いのだ。そしてたぶん女子の方は、新聞で見たことがあった。ピアノコンクールの優勝者で、最近はeスポーツでも優勝した指先の魔術師と呼ばれるナオミエリス篠塚だ。
「あの男子は誰かしら?」
時子の問いに猫耳のシオリが答えた。
「西岡高校の3年生で学力も学年でいつも3本の指に入る秀才の樫村君だわ。趣味はゲームだって聞いてたけど…」
2人は西岡高校の生徒だった。間違いなくハイサピエンスだ。ここで優勝すると何かいいことがあるのだろうか、奴らは一体、何をしにここに来たのだろうか?
樫村は椅子に座って順番を待ちながら、タイゾウさんのプレイを見てはもくもくとメモを取っていた。そして時々ニヤリと笑うのである。時子の目にはドラマの内容を完全に覚えているタイゾウさんの攻略法を樫村が盗んでいるように…見えてきた。
「ねえ、なんかとてもずるい感じがするんだけど…攻略法が盗まれてる…。あの人たちこれから挑戦する人たちでしょう、あれ、いいのかしら」
時子が自分の席の周りに聞こえるようにそう言った時だった。
「そうですね、私もずるいと思います」
突然幸花お嬢様も同意したのだが、この後、不思議なことが起こるのだ。
タイゾーマスクと、ハデスキッスウィドウが激闘を繰り広げる間、蜘蛛男爵は謎の儀式を進めていた。
広い庭園の中心にあの石板を広げ、その周囲10mほどに銀色の砂を使って魔法文字を描き、古代の儀式に従って魔法文字に宝石を並べていく。そして古代の呪文を唱えだしたのだ。すると、どこからか地鳴りのようなものが聞こえてきた。蜘蛛男爵が叫んだ。
「いでよ、エルマンテの螺旋の塔!」
そのころタイゾウさんのスカルマスクは思いがけず苦戦をしていた。最初はスカルガンで優位に立っていたのだが、藪から飛び出したクモボットの毒針に刺され、右手に力が入らなくなったのだ。蜘蛛女と蜘蛛男爵の2人の力はやはりあなどれなかった。ハンドガンを拾い上げ、左手に持ち替えてもたもたしているうちにハデスキッスウィドウが高速で近づき、4本の腕の20本の短剣のような指で流れるような連続攻撃をしてくる。
タイゾーマスクも、左手のスカルガンソードで応戦するが、じりじりと追い詰められていく。
その時、台地が激しく振動した。
「なんだ、何が起きているんだ」
すると蜘蛛男爵の置いた石板のすぐ前で空間が歪みそこに何かが姿を現したではないか。
「なんだ、見上げるような建物が…塔だ、古代の螺旋の塔が!!」
しかもその螺旋の塔は回転しながら、だんだん高くなっていく。凄まじい大地の震動の中、ゆがみ渦巻く空間の中から新しい風景が現れ、それが実体化を始めたのだ。
それはゆっくり回転しながら生き物のように叫びをあげながらそこに実在化していった。
4階建ての古代の螺旋の塔エルマンテだった。螺旋の4階、一番上に目のような奇怪な窓があり、3階には口のような大きな窓、1階と2階は二重螺旋のような不思議な形をしていた。
そして最後に2階のあたりの二重螺旋がほどけ、そこに出入り口と階段が姿を現した。その瞬間に今までで1番大きな振動が周囲を襲った。だが、スカルマスクは集中力を失わず、ハデスキッスウィドウが大きくバランスを崩したときにもすぐに体制を立て直し、イナズマパンチで吹っ飛ばして形勢逆転、きりもみ流星キックで再び蜘蛛女を倒してしまったのだった。観客は皆拍手、次の順番の樫村もまたそれをメモに書き込んでいた。だがタイゾーマスクはとどめを刺さず、そのまままた残りの手榴弾やショットガンなどを用意すると、一直線にあの古代の螺旋の塔めがけて歩き出したのだ。その塔に、いくつも武器を用意しなければならない強い相手がいるのだろうか?だがその時、蜘蛛女が歯を食いしばって立ち上がった。
「おのれスカルマスク、私は勝っていた。ずっと優勢だったのに、大地の揺れで不意打ちをするなんて、この卑怯者!私にとどめを刺さなかったことを悔やむがよい」
「赤い糸のネットランチャー!」
今度はなんと後頭部から延びる8本の脚が大きく伸びて顔の前で1度閉じ、次に大きく開きながら蜘蛛の巣のようなネットを作るとそれが打ち出され、空中を飛んでくる。
「うぐ、身動きが取れん」
そして運命の赤い蜘蛛の糸で後ろからスカルマスクの体をからみ取り、動けなくなったところで、あの紫の唇で投げキッスをした。
「うわあああ、なんだこれは!」
地獄の底へとまっさかさまに堕ちていく自分の映像が見えた。そして全身から血の気が失せ、1ミリも動けなくなったスカルマスクにハデスキッスウィドウのほほ笑みのキッスが送られた。紫の唇のあの牙から毒液が流し込まれたのであった。
「ぐおおう!」
そこでタイゾウパパはリタイヤした。ホノカちゃんはがっかりしていた。でもあとでみんなはタイゾーマスクのしたたかさに目をみはることになる。
「では次の方、エントリーナンバー5、ジーニアス樫村」
ついに出てきたハイサピエンス。だが何を狙って出てきたのかは不明だ。でもとにかく1位になりたいのは確かなようだ。
「よし、これならこのステージはクリアできそうだ」
さすがさっき集中してメモを取っただけのことはありそうだ。ジーニアス樫村は、ハサミムシ怪人メガザス、毒蜘蛛女ビーナスキッスウィドウ、不死身の怪物ヴァルゴリ、警備ロボットシルバーブッダ、大怪蟲ディアロマとメモの通りに次々と敵を撃破し、最後にハデスキッスウィドウを倒した後、今度はとどめをさしてエルマンテの塔へと向かった。すると螺旋の塔の奥から、不思議な古代のシンフォニーが聞こえ、その旋律に乗るように、中から美しい古代の戦闘ロボットクリスタリスが出てきたのだ。
銀色の細い体、長い手足、透き通った青い一つ目、細い手足や背骨に沿ってクリスタルロッドと呼ばれる透明な棒が数十本突き出ていて、まるで芸術品だ。それが不思議なシンフォニーにのって、空中を少し浮いて塔の階段を下りてくる。
ジーニアス樫村もここから先は攻略法もわからず、とりあえず色々な武器を試してみる。彼らの周囲には空間バリアがあるようで、スカルハンドガンは彼らのボディの手前の空間が光って吸い込まれてしまう。ショットガンは、少しダメージはあるようだが、ほとんどがはじかれてしまう。手榴弾も大きなダメージにはならず、ペイントガンも空間に色が広がるだけで、ボディにはなかなか当たらない。ならばと、スカルガンソードで斬りつけると、長い手足は異常に硬く、常識外の怪力だ。あっという間に武器は奪われ、へし折られ、握りつぶされる。しかもそんなロボットが数体いるので囲まれたらもう終わりだ。連続攻撃で傾かせ必殺技をくらわすと、1つ目からレーザー光線を撃ってくるのだが、これが強力で避けることもはねかえすことも難しい。そんなことをしているうちに蜘蛛男爵が塔の中に忍び込み、50㎝ほどの鳥の形をした神像を盗み出してくる。頭の兜には2本の大きなクリスタルロッドが付いていて見事というしかない。
「ははは、手に入れたぞ。これこそ古代イシュタリオン文明の無限のエネルギーとなる神鳥ミトラだ。ハハハ」
その男爵の笑い声が響き渡るころジーニアス樫村はクリスタリスにやられてリタイアした。
「次は今日の最後の出場者クイーン篠塚さんです」
指の魔術師ナオミ、エリス、篠塚はクイーン篠塚という名前で動き出した。そしてガンタイプのコントローラーではなく、キーボードとマウスでの操作を希望し、それが実現したようだった。タイゾーマスクの行動を細かくメモし、さらに分析し、戦略的に動いていた樫村友また違い、クイーン篠塚は樫村のやり方をもとにして、臨機応変に得点を稼いでいった。
とにかくクラシックのピアノで鍛えた指の動きが滑らかで素早いのだ。博物館の各部屋にいる怪人たちを無駄なことをせずに瞬殺し、蜘蛛男爵を追いかけて庭園に出るのも早かった。エルマンテの螺旋の塔が現れるときの大きな振動を利用して形勢逆転、ハデスキッスウィドウを倒し、確実にとどめを刺して塔に向かうのもさほど時間はかからなかった。でもここから先は攻略法もわからず見ているこちらもドキドキしてくる。そしてついに塔からクリスタリスたちが不思議な音楽とともに降りてくる。ここでクイーン篠塚が取った作戦は次の3つであった。
1、クリスタルロッドの部分的な狙い撃ち。
2、同じところを2重3重に重ねて撃つ重ね打ち。
そんなことをしても、あのクリスタリスたちの空間バリアは破れないと誰もが思っていた。だが彼女の指の技は予想を超えていた。クイーン篠塚は集中力を持って、実に細やかに粘り強く攻撃を続けた。今回下りてきたクリスタリスたちは3体、それが空中に浮きながら隊列を組んで近づいてくる。
「やった、やっと1体を止めたわ」
3体のうちの先頭の1体の左足に的を絞ったクイーン篠塚は、そこに攻撃を集中することによって左足のクリスタルロッド2本の破壊に成功した。推進力のバランスを失ったクリスタリスはまっすぐ進めなくなり、その場に降り立ち、動きを止めてしまった。しかしこの攻防はとてもイージーモードとは思えなかった。クイーンの頑張りもそこまでだった。残りの2体が高速ダッシュでスピードを上げ、レーザーを撃ち始めるともう手の打ちようがなかった。体力ゲージが大きく下がっていく。
「これにてスカルマスクのヴァーチャルゲームの先頭体験を終わりにします。では成績発表です」
これでがんばったタイゾーマスクではなく、その攻略法を盗んでいたハイサピエンスコンビのどちらかが優勝か、誰もがそう思ったとき、意外な結果が出たのだった。
「優勝はエントリーナンバー4、タイゾーマスクさんです」
え、一体どういうこと?タイゾウさんはにこっと笑って手を上げて声援にこたえた。
そして上位3名には盾と記念品が出るほか、優勝者には特別のプレゼントがあるのだという。それは近々ここのヴァーチャルドリームランドで開催予定の、ヴァーチャルオリンピックグリーンヒル大会だ。その日だけこのビルの4階から6階までの広い範囲を貸し切りにして、ヴァーチャル映像を使った特殊な競技が行われる注目の競技大会だ。なんとそこに出場権が与えられるという特典だ。
そこでは「スカルマスク危機一髪、インハワイ」も初お目見えになるという。
表彰式が終わり、優勝の盾を持ってタイゾウさんが帰ってきた。時子たちはホノカとタイゾウの親子の周りに集まった。
「いやあ、驚いたよ。試合中に突然声が聞こえて、誰かがヴァーチャルヘルメットで通信してくれたのかなあ『あなたより後の順番の人があなたの攻略法を盗んで優勝を狙っています。盗まれないようにして、しかもそいつらより高い得点を出す方法はあるんでしょうか…』っていう声が聞こえたんだよ。それでね、とっさにある作戦を考えたんだ」
攻略法を盗まれないようにするなら早めに負ければいい。でも得点は順番が後ろの人よりさらに高くしなければならない。そんなことは不可能だ。
「でも今のゲームは原作のストーリーに近いとボーナスが出たり、遠いと減点されるシステムが付いているだろう。あれを利用したのさ。私はハデスキッスウィドウと戦ったあと、武器を用意して螺旋の塔に向かったけど、あれは全部騙すための作戦だったのさ」
タイゾウさんの話では原作のストーリーは実は途中から全然違うのだという。
「え、そうなんですか?」
時子が驚くと、タイゾウさんが得意になって説明してくれた。
「あの塔を呼び出したり、その中の鳥の形の神像を盗むのが蜘蛛男爵の目的だった。それは盗んではいけない神聖なものだったんだ。だから塔から出てきたクリスタリスたちは聖なる秘宝を守る守護者、あの神像を守る正義の者たちさ。つまり我々の味方なんだ」
「え、じゃあ、クリスタリスたちは攻撃したらいけないの?」
「ピンポーン、大当たりだ時子さん。本当はあそこで蜘蛛男爵を止めなければならない。クリスタリスたちはこちらが攻撃したりしなければ決して何もしない。あそこで蜘蛛男爵に攻撃すればじっと見ているようになり、必殺技で大ダメージを与えれば、完全にこちらの味方になるのさ。でも蜘蛛男爵は逃げ出して、あの大怪蟲ディアロマを引き連れてもう1度戻ってくる。するとあの古代の鳥の神像が螺旋の塔の頂上に止まって特別な声で鳴くんだ。すると螺旋の塔に神秘のエネルギーが満ちて、2重らせんが解け、長い腕とどっしりした足が生え、塔巨人に変身する。スカルマスクはクリスタリスたちと協力して塔巨人エルマンテを操縦し、塔巨人の大地を踏みしめて起きる大地震でディアロマをひっくり返し、腕から飛び出すジャイアントソードでディアロマを真っ二つにして、めでたしめでたしとなるんだ」
「…なるほど、塔の巨人なら、あの巨大な蟲をやっつけてくれるわね。そういうことなんだ」
だからクリスタリスに攻撃を加えたジーニアス樫村もクイーン篠塚も大きく減点されて優勝を逃したというわけだったのだ。
その場でタイゾウパパから提案があった。
今度のヴァーチャルオリンピックグリーンヒル大会に、みんなで出場しようというのだ。
「ええ、いいんですか、そんな大会にみんなで出るなんて」
「今度はチーム戦だよ、チームでやるなら愉しい仲間とやるのが1番だろう、だからさ、一緒にやろうよ、ね」
すると娘のホノカはとても喜んだ。
「少なくとも、スカルマスクのファンクラブのおじちゃんたちよりはるかに雰囲気はいい。今ここで集まっている時子のお仲間でチームを作って次のチーム戦に参加しようということになった。正式メンバーはまだ未定だが、とにかく楽しくやろうということで合意したのだった。
さて、これでスカルマスク生誕40周年記念行事のピークの2日間が終わった。ご苦労様と声をかけながら佐々岡さんがやってきた。
「…でも、プレイ中のタイゾウさんに戦略を盗まれないように、でも優勝する様に言ったのは誰かしら…」
時子には心当たりがあった。そこにいたみんなをぐるりと見まわしてその人に近づいていった。
「…やっぱりあなたテレパシーが使えるのね。タイゾウさんに教えてあげてくれてありがとうね」
すると幸花お嬢様が目を合わせてほほ笑んでくれた。
「時子さんに言われたことを、その通りだと思ってタイゾウさんに伝えただけなんです。私は小さい頃から妖精の女王様に、色々鍛えてもらっていますから」
きっと羽鳥さんが心配して、お嬢様をこの会場に送り込んでくれたのだろう。ハイサピエンスたちは、早々に会場を立ち去った。
その頃駅ビルの奥では、暗い空間で、不気味な存在が怒りに震えていた。
「絶対に優勝はできないと言っていたのに、奴は優勝してしまったではないか。ここの会場で急にヴァーチャルオリンピックをやるということになってから、歯車が狂いだした。何とかしろ、打てる手はすべて撃て。そうしないとゲートキーパスワードが流出してしまう。いいか、それだけは避けるのだ」
「はい、ボス」
ついに黒幕が動き出していた。
そして時子は、次の戦いに向けて走り回ることになるのである。
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