14 コスプレ大会、意外な参加者
その週の土曜の夜、晴天に恵まれた駅前の特設会場に花火が上がり、たくさんの住民が押し寄せた。直前の映画界のチラシはみんなのがんばりで町中にいきわたり、たくさんの人数が集まった。
4k、スペクタル音質で焼き直された昭和のヒーローは見事に復活していた。現代のヒーローもの、リモート5の俳優たちも大人気だった。
「それではイベントの第2部、スカルマスク対リモート5のアクションショーとグッズコレクション即売会は、明日の午前10時に駅ビル前の特設ステージで開催します。そして午後からは駅ビルのヴァーチャルドリームランドにて、ヴァーチャルスカルマスクのおゲーム発表イベントがついに大公開、同時開催のスカルマスクコスプレ大会もあるよ。商品も出るからふるってご参加くださいね」
そしてイベントは終わり、みんなヒーロー談義をしながら帰っていったのだった。
「時子さん、どうだった?そっちはうまく取材できた?」
別の取材席にいた佐々岡さんが話しかけてきた。佐々岡さんのそばには例の杉原さんや映像スタッフもいて、色々な制作裏話が訊けたそうだ。
「ええ、こっちもスカルマスクマニアのおじさんたちと色々話しちゃって面白かったですよ」
「まあ、今夜と明日で大きなイベントは一区切りだから、がんばりましょうね」
「はい」
そしてあのパパが強烈なスカルマスクマニアのホノカにLINEを入れた。
1区切りしたのでお借りしていたスカルマスクの資料本3冊を返したいと送ったら、明日駅ビルのイベントで会いましょうと、答えが戻ってきた。
「…それと今、我が家では明日のコスプレコンテストの用意でてんてこまい、意外な人が一緒に来るのでぜひお楽しみに」
一緒に来るって誰だろう?
そして翌日、ついに大忙しの1日が始まった。時子は窓辺の水耕栽培のサラダにイタリアンドレッシングをたっぷりかけ、ホノカの店で買ったばかりの大豆丸ごとすりつぶしのおからの出ない濃い豆乳を流し込んだ。
そしていつものリュックに小型一眼レフをつっこんで、早速駅ビルに直行だ。まだイベント開始まで1時間以上あるのに、もう貴重な品やお買い得品を狙ってコレクション即売会に来たおやじたち、リモート5のアクションステージを楽しみにやってきた子供や俳優狙いのママたちがぞくぞくと集まりだしている。駅前の特設ステージのすぐ横には、この間キヨタカさんが工事の指揮をやっていたスカルマスクの銅像の工事が終わり、きれいな布がかかっていた。これから除幕式もあるという。
「よっしゃあ、やっぱりもう少し気合を入れて食べるか」
時子はそのままイケメンサンドイッチのリバプールに駆け込んだ。
「すいません、霜降り牛のやわらかステーキとフォアグラのトリュフ風味スペシャルサンドお願いしまーす」
それはこのリバプールで一番値の張るサンドイッチだった。
「やる気ですね。では心をこめておつくりしますよ」
今日も真っ白なワイシャツにエプロン姿が決まっているキヨタカさんが手際よく動き出す。70度で、じっくり中まで火を通してあるビーフステーキに焼き目をつけて塩胡椒、さらにフォアグラをあぶってドミグラスソースとトリュフをかけてステーキに乗せ、もちもちのパンでくるむ。無駄な動きの1つもない、流れるような手際の良さだ。キヨタカさんは、それにクルトンの乗ったビーフブイヨンのスープをつけてさっと時子に出してくれる。
「はい、お召し上がりください。いつもよりおいしいですよ」
時子はにこっと微笑みでかえすと、すぐにかぶりついた。
「うおおお、おいしーい」
その瞬間、トリュフの香りで頭の中がいっぱいになる、どうするとステーキがこんなにたやすくかみ切れるほど柔らかくなるのだろう。しかもフォアグラはその上でとろけている、それと手作りドミグラスソースが混ざって肉汁があふれ出しそうになるのを、パンのもちもちがしかり受け止めてくれる。時子が最高の笑顔でかぶりつくのをキヨタカは静かに微笑んで見ている。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
さらに時子はさすらいカレーのサイトに骨付きマトンのガーリックミントカレー弁当の予約を入れて、特設ステージへと歩き出した。
特設ステージに行くと、もう佐々岡さんが来ていて、時子のために席をとっておいてくれてあった。さらにあとで行われる抽選会のお楽しみ県も配られていた。
まずはスカルマスクの実物大の銅像の除幕式だ。
カウントダウンとともに布がパラっと取り払われる。
「おー、す、すごい」
なんと今どきの銅像は、特殊なコーティングで、風雨に耐える丈夫さなのに、メタルカラー仕上げで、きらめいているではないか。スカルマスクは今にも動き出しそうな出来だった。
大きな拍手とともにいよいよアクションステージだ。
「リンちゃーん、がんばってえ!」
今日もアクションステージに桃竜楼の娘さんは登場するようだ。10人ほどの地元の女子高生が声援を送る。今日は観客席の前部は小学生とその親の優先席になっている。
開演が近づき小学生たちがどどっと入ってきて、いやがおうにも熱気がこもる。
舞台には大道具をかくす板が置かれていたが、それがパタパタと開いていく。すると5つの大型画面が現れる。最初は鷲とヘビが組み合わさった紋章が輝く、悪の秘密基地が映っている。
「お待たせしました、スカルマン生誕40周年記念リモート5特別アクションステージを始めまあす」
舞台の左右からドドンと花火と火柱が上がり、舞台の両袖から戦闘アンドロイドたちが、奇妙な電子音を出して入場だ。すると全身銀色の鎧に包まれた身長の大きな電脳皇帝アルゴリア三世が、舞台の中央のゲートから姿を現す。キャット型改造人間ラビイとベア型改造人間リンスの2人の美人秘書を連れて重い足音を響かせて登場だ。秘書の2人がポーズを決めながらいつものセリフ。
「秘書のラビイよ」「…リンスです」「2人がそろえばそこはラビリンス」
「ええい、報告はまだか。ゼメキス、アンドロイド将軍ゼメキスはおるか?!」
「ハハー」
今度は下手から黒いメタルボディ、アンドロイド部隊の将軍ゼメキスが姿を現す。電脳皇帝よりは線はほそいが、見事な剣を下げていて、それぞれに強そうだ。
「ゼメキスよ、極東地域の征服計画はどうなっておる」
「予定通り人質もとらえてございます。我々の作戦はすべて計算通り、完璧です」
すると舞台の下手に人質になった親子たちが助けてくれと出てくる。みんな大きな鎖でつながれている。電脳皇帝が高笑いをする。
「それでは予定通りステルスホーク計画を決行する、これでこのトウキョウシティは我々のものだ!ワッハッハハハハハ」
だがその時、会場にロボットの声が響く。
「そんなことは我々が許しません」
すると後ろの壁の大きな5つのスクリーンの中を、マスコットロボのシスター金魚の映像が自由に泳ぎながら近づいてくる。そして中央のゲートから着ぐるみのマスコットロボのシスター金魚が、飛び出してくる。大きな瞳のかわいい金魚の体の下からロボットの体が生えている、不思議なキャラだ。すると5つの画面に、1人づつのリモート5の映像がアップで映る。
「テレワーク戦士レッド、引きこもり戦士ピンク、半身不随の空手チャンピオンブルー、謎の金髪戦士イエロー、ガンのゲームプレイヤーブラック、地球の平和は我々が守る、リモート5!」
「リモート5、変身よ」
「オー!」
画面が光り5人が変身、すると5つの大型画面の後ろからタイミングよくリモート5のアクション俳優が戦闘スーツ姿で飛び出す。客席の子どもが大興奮、リンちゃんを応援する女子高生も大盛り上がりだ。
まずは戦闘アンドロイドの集団とリモート5の肉弾戦だ、最初は互角だが、リモート5が1人1人舞台の前に立って必殺技を叫びながら技を放つ、すると、うしろの大画面にエフェクト画像が流れ、吹き飛ぶ戦闘員たち、少しずつリモート5が優勢になる。地元と言うだけあって、リンちゃんがやっているリモートピンクの持ち時間が少し長かった気がする。リンちゃんはその持ち時間に、カンフーの連続技やアクロバット技を詰め込み、最後に見事に必殺技を決めてくれる!だがそこでゼメキス将軍の声が入る。
「バカモノども、これを見ろ、一歩でも動けばこいつらの命はないぞ」
舞台の下手側から、鎖でつながれた人質役の親子たちが、再び連れてこられる。
動きが止まるリモート5、ゼメキス将軍がリモートレッドののど元に剣を突き付ける。
ところが、バイクのエンジン音が響き、声がかかる。
「まて、まて、まてええ!」
後ろの画面の中を馬の頭のついた不思議なバイクが駆け抜ける。キキーッとブレーキの音がして下手に何者かが現れる。
「地獄の底からよみがえり、光とともに進むもの…。おれがスカルマスクだ」
スカルマスクがあの太い鎖を爆発とともに断ち切って、人質たちを解放する。人質たちは歓声を上げ、お礼を言って帰ってゆく。そこからはスカルマスクとリモート5の協力プレイだ、
客席は大盛り上がり。スカルマスクファンのおやじたちの反応がすごい。さらに将軍ゼメキスがカミツキガメ男、火アリ女、怪人ダイオウイカなどの最近の怪人たちを集めて逆転を試みる。怪人たちは強力で、リモート5はあわてて上手へと退却だ。ゼメキス将軍があの剣を振り上げて、怪人たちとともに上手へと攻め込んでいく…。ところが…?
「うわー、な、なんだこの化け物ロボットは?!」
スカルマスクが呼び出した怪力メカ牛頭のゴーズが、上手から現れ、怪人たちを蹴散らす、昔のスカルマスクファンは大喜びだ。
これは大道具さんの力作らしく、花から煙を噴き出したり、目が光ったり、手や足だけでなく、口や首が大きく動いたりする、2m半の精巧で大迫力のロボットだった。
「くそ、おぼえておれ、この次は地獄送りにしてくれる」
電脳皇帝が捨て台詞を残し、秘書とともに引き上げて、アクションショーはやっと終わった。
そのあとのコレクション展示即売会も大盛り上がりで、売り上げは災害地への募金となったのだった。
さてお昼となり、時子と佐々岡さんは昼食を食べにトパーズへと直行だ。
すると「スカルマスク生誕40周年記念スペシャルランチ」の看板が出ているではないか。
「え、どういうこと?」
中をのぞいてみて初めて分かった。なんと今日はサトミちゃんが30分早く店を閉めたいと申し出たため、それならばとオーナーの沢渡さんが早めに来ているではないか。沢渡さんが笑った。
「なんで30分だけ早く終わりたいか聞いたらね、サトミさんが、コスプレ大会に出たいので用意の時間が欲しいと言ったんだ。いや、わたしも知ってはいたんだが、こんなにお客さんが集まるとは思ってなくてね。それじゃあ稼ぎ時だからスペシャルランチでもやろうって思いついたわけさ」
今日は珍しく2人で店をやって、沢渡さんはばっちり稼いで、サトミが早めに帰るのだという。メニューのほかにスペシャルランチメニューが別に表示されている。
A;シーフードホワイトシチューライスセット
もともと評判のトパーズのシチューをシーフードでグレードアップしたものとライスのセット、シーフードのうまみとサフランライスがとても良く合う。
B;ホロホロミートソースライスセット
この店の人気のチキンブイヨンと煮込んだ牛ひき肉で作ったさわやかで伸びのあるミートソースがチーズとよく合う。煮くずれたようなホロホロの挽肉が絶品。
C;トマトハヤシライスセット
トマト缶詰、トマトジュース、2種類の生トマト、そして熟成バルサミコ酢でつくった新鮮なトマトソースと、さっと炒めた細切り牛肉のフレッシュでコクのあるハヤシライス。
D;酢豚ライスセット
トロトロに煮込んだ豚の角煮をからっと唐揚げにし、玉ねぎや筍、パインなどと合わせ、フルーツジュースと黒酢の甘酢で炒めたとてもフルーティーな逸品。
「じゃあ、スペシャルランチセット、BとDを1つずつ、お願いしまあす」
セットと言うくらいだから、サラダバーと紅茶もしくはラテがつく。いつもの通りあのおいしいドレッシングでサラダを食べまくった時子だが、それぞれのセットにはポテトやチーズ、かまぼこで作ったドクロのトッピングがのっていて、まずは撮影から始めた。
「モッツァレラチーズのスカルマークがかわいいわね。なあにこのミートソース、本当にトロトロほろほろだわ。おいしい」
時子はもうミートソースを全部ご飯にかけて大きなスプーンで流し込む。
「酢豚もすごい!中がトロトロなのに、表面の薄い衣がパリッとしてて、この豚だけでも感動ね。甘酢も酸っぱすぎず甘すぎず、本当にフルーティーね」
グルメの佐々岡さんも大喜びだ。お客さんもひっきりなしに入ってくる。
「サトミちゃんがコスプレに出るんでこんなおいしいものが食べられて、ラッキーだったわ」
時子が言うと、サトミは大きくうなずいた。
「いつもコスプレ大会で上位入賞する、モデルのマリマリさんや中山君がまた出るんですって。あの看護師のシオリちゃんもコスプレ好きだっていうから協力して挑戦してみようかなって思ったの。まあ当たってくだけろね」
なるほど、シオリちゃんはこの間も猫耳でゲームをしてたっけ。これはもしかすると…。
マリマリや中山君も、うかうかしてられないかも…。
そして4Fにあるヴァーチャルドリームムランドにいよいよ乗り込む。まずここでコスプレ大会があり、その優秀者表彰式があり、そのあとでスカルマスクのヴァーチャルゲームの発表となるのだ。ゲームランド前の広いホールで席を取り、時間を待つ。
「では時間です」。
ホール内が暗くなり、ステージに光が当たり、エントリーした出場者がついに1組ずつ姿を現す。
ネットの人気投票と、審査員への印象で得点が決まる。今回の隠しテーマはスカルマスクとリモート5、あとは東進映画の他のヒーローだ。それに関係したコスプレでないとダメという内容でどれだけ出場者が集まるのか疑問だったが、ふたを開けてみれば大盛況だった。
一番多かったのはリモート5のちょっとひねったコスプレで、空手の半身不随のチャンピオンとガンと戦う少年になりきるためにダブル車いすで来たチームや、リモート画面から飛び出すところのコスプレだと、衣装はパジャマや普段着なのにテレビの枠をつけた画面の中は変身した姿になっているとか、東進映画の歴代のヒーロー、ヒロインだけで作ったヒーローレンジャーなんてのもあった。
「あれ、あのかわいいコンビ、シオリちゃんとサトミちゃんじゃない?」
午前中に見たリモート5の美人秘書キャットガールのラビイとベアガールのリンスのコンビのコスプレだ。猫耳や熊耳、大きめの手袋がとってもかわいい。
「秘書のラビイです」「私はリンス」「2人が来ればそこはラビリンス」
1人1人が別々に猫と熊のポーズをとりステップを踏んで2人でセクシーポーズだ。
かっこいい、雰囲気もあっている。セリフがぴったり決まり、会場から大拍手だ。
シオリはまた今日も猫ミミ、サトミはキュートなテディベアみたいでかわいい。
キャットガールとベアガールのラビリンスコンビも人気だったが、同じくらい盛り上げたのは、ホノカとタイゾウパパの親子コンビだ。
「わ、すげえ、本物のクオリティだ」
タイゾウパパはスカルマンの宿敵大幹部の蜘蛛男爵タランテリスだった。イタリア風の鉄仮面、そして装飾が施された大きな肩飾りと大きなマント、装飾もオリジナルとうりふたつの出来で、マントの風格と威圧感までそっくりだった。そして時々マントの下から長い長い蜘蛛の2本腕を伸ばして、周囲をぎょっとさせた。
そして娘のホノカは最強の敵の1人、毒蜘蛛未亡人ビーナスキッスウィドウだ。
スカルマスクと3回戦って最初の2回は勝っている実力者だ。銀色のドレスを着こなすセクシー美女だが、後頭部から肩にかけて大きな蜘蛛がくっついていて、普段は8本の脚がまるで黒髪のように胸元に折りたたまれている。
美白の顔に真っ赤な口紅が印象的だが、この唇で投げキッスをして攻撃をするのだ。投げキッスに当たると相手は幻覚を起こし、戦闘不能に陥る。ホノカちゃんが凄いのは、パフォーマンスとして舞台上で改造変身した後の怪人に姿を変えるのだ。ビーナスキッスウィドウは3回目にやられて、ハデスキッスウィドウにパワーアップするのだが、服に仕掛けがあり、上着をはずして裏返すだけで、ドレスが戦闘服に変わり、髪形も変化、唇も青紫に変わるのだ。何よりも凄いのはハデスキッスウィドウになると、戦闘時は頭の後ろで8本の長い脚が8角形に開き、蜘蛛の糸や毒爪攻撃を行うのだが、今回はひもを引くと髪の毛が逆立つように脚が8角形にちゃんと開き、観客を驚かせた。
そして金魚屋のキヌちゃんにうってつけのキャラがいて、会場で大うけだった。あのかわゆいマスコットロボ、シスター金魚だ。ロボットスーツを着て金魚の頭をはめて出てきた感じだが、金魚のつぶらな瞳が左右に動き、しかも金魚なのに瞼があり、パーティーパーティーするのだ。
「かっわいーい」
しかもてきぱきしたロボットの動作とヒレをユラユラさせる優雅な金魚の動作をちゃんと表現し分けている。子どもにも大人気の出来だった。そしてこの街のコスプレ大会でいつも上位入賞する、超美人で頭脳も一流の有名モデルのマリマリとプラモデル屋の腕を生かした中山君も注目されていた。
スリムで背の高いモデルのマリマリが選んだのはスカルマスクに出てくる古代の神秘的なロボット、クリスタリスだった。手足や首が長く、とてもスマートなデザインで、魔法の力を持つ透き通った水晶の棒、クリスタルロッドが、腕に10本ずつ20本、足にも10本ずつ20本、首から背中にかけても20本突き出ていて、魔法の力で滑るように歩くことができるのだ。
もともとスリムなマリマリは全身銀色のスーツを着て、20cmのハイヒールや手首から付けた長手袋で手足を強調しクリスタルロッドを透明なバンドで手足に取り付け、銀紙で作った一つ目のクリスタリスのマスクをヘルメットのようにかぶり、ポーズをとった。とても幻想的で美しかった。
さらにプラモデル屋の中山君の力作は、古代の戦闘ロボット塔巨人のエルマンテだった。それは4階建ての螺旋の塔で最初は塔として建っているのだが、屋根のてっぺんにある古代の鳥の目が光ると、中に大音量スピーカが仕込んであり、神の鳥の美しい鳴き声とともに大地を揺るがし、塔を螺旋に巻いた長い手が伸び、大きな足底の脚が生え、大音響とともに立ち上がり、1歩歩くごとに重厚な足音が響くのだ。面白いのは手品のトリックのように塔の3階のあたりに大きな窓があるのだが、ミラーが仕込んであるらしく、中に何もないように見えるのだ。そして腕から飛び出すイナズマ型の長剣を振り上げたとたん、目の部分にある窓が光り、巨人の唸り声とともに稲妻が響き渡る。まあ、細かいところまでよく作ってある。古代の不思議な造形だが、中山君はそれをすべて角材の骨組みと段ボールでくみ上げ、きれいにスプレー彩色して仕上げたのだ。中山君がこのロボットの中に入り、手足が生え、目玉が光歩き出すのはなかなか見物であった。
古代の不思議などから優勝候補も出そろいこの中で1位が決まるかと思っていたが、時子も思いもよらなかった伏兵がいた。その出場者が出てきたとき、観客からうっとりするようなため息がもれた。
「え、あの人誰?奇抜な髪形、ド派手なドレス、でも高貴な感じ…」
仕掛け人はホノカとタイゾウ親子だった。自分の店と蜂蜜の取引のある羽鳥さんからの依頼で屋敷のお嬢様に最高のコスプレを行ったのだ。
「うーん、美しい、可憐で清楚で、ゴージャスだわ」。
宇宙の光、スカルマスクを正義に導いた光の宇宙人、キラキラのギャラクシア女王であった。
光沢のあるメタルの布で華々しく宇宙的なマリーアントワネットを作り、高貴な幸花お嬢様に着せ、奇抜な銀色のかつらをかぶったお嬢様がポーズを決めるたびに可憐な鈴の音とともに、ドレスのLEDの電飾が美麗に光る。あくまで華麗ながら、見ごたえのある迫力のコスプレであった。
そしてついに成績発表だ。審査員による各賞の発表に続き、ネットによる人気投票の結果の発表、審査員特別賞と続き、ついに今回の優勝が発表される。
なんと予想を覆し、ホノカ親子、マリマリや中山君を押しのけて、ギャラクシアの幸花お嬢様が優勝してしまった。中山君は準優勝。タイゾウ親子もマリマリたちも優秀賞や審査員特別賞をとったが、終わった後でマリマリがコスプレのままギャラクシア女王につかつかと近づいて行ったのだ。
「え、どういうこと?」
気の強いことで知られるマリマリが一体?会場に緊張が走った。
「もともとのデザインがこんなだから仕方ないけど、こんなに派手でギラギラしたドレス、私や普通の人が着たら、きっととても下品な感じになっちゃうわ」
マリマリは幸花の両手を握りしめた。
「でも今のあなたは可憐で清楚でゴージャスだわ。あなたの高貴な品格の勝利よ。優勝おめでとう」
そしてマリマリは、両手を振り上げ、会場全体に叫んだ。
「今日のコスプレはみんな最高、イベントも大成功よ」
歓声の中、コスプレ大会は無事終了した。
そこでゲームイベントが始まるまでしばらくの休憩だ。みんな着替えたりお茶をのんだりしてくつろいでいた。
「時子さあん」
ベストパフォーマンス賞を取ったサトミとシオリのラビリンスコンビが、にこにこしながらやってきた。シオリはまだ猫耳はつけたままだ。ベスト再現賞をもらったホノカとタイゾウの親子コンビも自信満々で入ってきた。早速借りていた本を返す時子。ホノカはまだあのセクシードレスを着ていたが、話を聞くと趣味が洋裁で服を作るのはお手の物だという。タイゾウパパも笑っていた。
「いやあ、鉄仮面は自分で精巧に作れたけど、マントはすべて娘に丸投げさ」
その時、普段ギニアの銀のかつらをかぶったギャラクシア女王がすっと近づいて時子にそっと小さな紙を渡した。
「羽鳥さんからの手紙なの。あとで読んでね」
そこに佐々岡さんがタウンニュースの取材を申し込んできた。よくある優勝者インタビューの記事だ。幸花お嬢様は、蜂蜜やクッキーが好きだとか、山登りや海のダイビングが趣味だとか、時子さんのお隣に住んでるとか、楽しそうに答えていた。時子はさっきのギャラクシア女王のイラストを見せて喜ばれた。衣装のことを聞かれると、タイゾウさんに見せてもらった資料の写真をパラパラめくり、この女王がいいと直感で決めたそうだ。ドレスはホノカさんに作ってもらい、仕上げは自分で工夫したと言っていた。
近くにいたホノカちゃんは。
「幸花ちゃんは小さい頃からの付き合いで、昔からセンスがいいっていうか、ひらめくとさっと行動に移るんです。あの時も、ドレスが大体できたところでひらめいて、あとは全部自分で作ってたわ。あの銀のかつらやLEDは全部彼女の作品よ」
なるほど彼女に良くなじんでいる。佐々岡さんが最後にあなたにとって大切なものはなんですかと質問した時だった。意外な答えが返ってきた。
「この時子さんにも関係してるんですけど、私にとって大切なものは家のそばにあるグリーンヒルの森ですね。毎朝あの森の小道を散歩するのが日課なんです。緑があってせせらぎがあって、いろんな生き物がいて季節の変化があって、すばらしい場所なんです。15年前、私がまだ小さいころ山火事があって森のほとんどが焼けちゃったんですけど、お隣の中学生が森の研究をしていた記録があって、それをもとに、大学で森の再生プロジェクトが始まったんです。森が大きく育っていくのと一緒に私も大きくなったし、せせらぎが流れていくように私も歩んでいったんです。今は木々も花々もいろんな生き物たちもせせらぎや池も昔通りに復活して来たんです。この森をこれからも守って豊かにしなくちゃって思っていて。だから、私の大切なものはグリーンヒルの森ですね」
その言葉を聞いた時子の心に熱いものが込み上げてきた。ノボルが命懸けで守ろうとした森で育った人がいた、大切に思う人がいた。2人の思い出の森を…。取材が終わると静かにホールの隅に行きそっと涙をぬぐった。そして羽鳥さんの手紙に目を通した。
「ごめんなさい、今奴らはきっとぴりぴりしてあなたを見張っています。メールや電話も盗聴・盗撮の恐れがあるので、気づかれないように幸花さんにお願いしました。実はあなたの今いる駅ビルこそ、何度も隠れ家を変えたホラズマの現在の隠れ家です。ただ宇宙警察の科学力をもってしてもビルのどこにいるかは、何度調べてもつきとめられません。彼は地球の人々を隠れ蓑にしてこんな人通りの多いところにいるようです。でも今回ヴァーチャルゲーム大会がそちらで開催することになったとたん、なぜか奴らは慌てています。さらにあなたが取材に来ることを突き止めたらしく、何かを隠すために、またハイサピエンスたちに声をかけているようです。ショーン刑事もそちらのビルに潜入し、あなたを警備しているようですが、十分気を付けてください。何かあったら例のアクセサリーで緊急信号を送ってくださいね。もしもの時は幸花さんに言えばなんとかなるでしょう。私と幸花さんはテレパシーでつながっていますから。今度こそ奴の隠れ家をあばきます」
時子は息を飲んだ。
「この駅ビルのどこかに宇宙人の犯罪者が隠れてる…。しかも今日のイベントのどこかで何かを隠そうとしている…」
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