第八話 異世界、行っちゃうのかよ!(五)
「――――――――って、だれ?」
と、そこだけは俺以外の女子四名が一斉に首を傾げたため、追加情報を与えてやることにした。
「つい最近まで俺のそばにいつもいただろ? ほら、丸メガネかけて魔女みたいな黒い服着た、耳の長い
「………………あー、そう言えば」
しばらく考えたあと、四人はようやくエルミヤさんの印象を口にした。
「アンタが四六時中連れ回してた、おかしな
「たしか、竜司さんちにホームステイしていた留学生ですよね」
「そうなん? 伍道さんの遠縁の親戚って言うてへんかった?」
「いや、竜司の仕事上の
どれがだれのコメントかは、言うまでもあるまい。立場上いろいろ隠さなければならないことと、わりとどうでもいいことがあったため、彼女たちにどのように説明したかは定かではないが、一応は全員がエルミヤさんのことを思い出してくれたらしい。
「まあ、とにかくだ。彼女は正真正銘の
伍道の言葉を聞いて、四人は揃いも揃って一瞬固まってしまった。無理もない。そのまま聞き入れるには、情報が特殊かつ多大すぎて処理しきれないだろう(俺もそうだった)。
「
「ハイエルフだったんですね」
「ライモンさんっちゅうんや」
「っていうか、む、娘ぇっ?」
ひとしきりザワザワっとしたあと、伍道は彼女たちにとどめの一撃を放った。
「さらに、エルミヤはこの世ではない、とある異世界から次元を超えてやってきた転移者だ。俺と同じくな」
すると、彼女たちは我に返ったような表情になって顔を見合わせると、ため息をつきながら席を立ちはじめた。
「あのー、もういいっスか? これ以上、冗談に付き合ってらんないっス」
「私、個人的にそういうお話って大好物なんですけど……ごめんなさいっ」
「バッカバカしい! 人を担ぐんならもうちょっとマシな
「お、おい、ちょ待てよ!」
俺も思わず立ち上がって、彼女たちを引き留めようと声をかけた。だが、ただ一人
「……そう言えばウチ、エルミヤさんが『魔法』使うのを見たことあんで」
そうだ。たしかこのチマキだけは、あの
「なあ、竜ちゃん! あの子ホンマに『ホンマモンの魔女』やったんか?」
「そう。
そう言うと伍道は、右手を宙にかざした。その手には、どこからともなく出現した木の杖、エル・モルトンが握られていた。そして顔を見ると、伍道の耳は昨夜と同じように「エルフの耳」に変わっているではないか。
俺は、伍道がこれから魔法を使うのだと直感した。奴はエルミヤさんのような
「!」
すると、その音に合わせて俺たちのいた会議室が消えた。いや正確には、周りの景色が三六〇度、完全に別モノに変わってしまったのだ。
「キャアッ!」
「な、な、な、な……」
「こ、これっ、どういうこと?」
俺たちは今、見知らぬ世界の空中にいる。とは言っても、ぷかぷか浮かんでいるわけではなく、足元にはたしかにリノリウム床の感触があった。
先日、小虎とのデートで行った東京ティバニーランドにも、こんな感じのアトラクションがあったようだが、それとは
遥か遠くには山脈が見え、森林が、海原が、氷河がある。堅牢そうな城壁のそびえ立つ都市があるかと思えば、見たこともない姿をした獣たちの群れが駆け抜ける平野がある。
そこは、俺たちの慣れ親しんだ場所ではない、紛れもない「異世界」そのものだった――――。
「ここは、かつて俺やエルミヤがいた世界。『ドラゴンファンタジスタ』という、中世ヨーロッパをモチーフにした、剣と魔法のファンタジーオンラインゲームだ」
「オンラインゲームぅ? それって、いったいどういうことなん?」
「荒唐無稽なことを言ってるのは、百も承知だ。だがな、この世界に転移してきた俺とエルミヤの存在そのものが、事実だとしか言いようがない」
「あの、伍道さん。私、じつは『ドラゴンファンタジスタ』の大ファンなんです。この景色、たしかに『ドラファン』のオープンワールドそのものですよね! ほら、あれって王都アリアスティーンの
「そうだ。『ドラファン』は極めて緻密かつ特殊なゲームでな。単なるデジタルデータとしてではなく世界そのものが、ここではない別の次元にたしかに存在しているんだ」
「なんか、メチャクチャなハナシっス。もうアタマこんがらがってきたっス」
とうとう頭を掻きむしりながら、叫びだすオガタ。急に魔法だのゲームだの言われて、一番混乱しているのは彼女だろう。
伍道はふたたび杖で床をコツン、と叩いた。その瞬間、俺たちはまた元の会議室に戻った。
「あーもう、わかったよ伍道! 百歩、いや一万歩譲って『ドラゴンなんとか』ってゲームの世界があって、
「お。さすがお嬢、
伍道は、おどけた口調で拍手をした。
「問題は、竜司よ! その話に、何が関係してるっていうの?」
息を荒げて、小虎が俺の方を指さしながら問いただした。それまでわりと無関係だった俺の方に、全員の視線が集まってくる。
「あー、じつはな…………」
俺はポリポリと頬を掻きながら、少々赤面した。あー、やっぱ言わなきゃダメか?
「この俺も…………異世界から転移してきた『伝説の勇者』なんだ」
続く
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